勇者になるんだ
街は魔物と炎に溢れていた。
魔物には出会わないように、炎には当たらないように気をつけながら、両親のいるであろう家に走る。
そのとき、悲鳴が聞こえた。僕はなにも考えずに悲鳴が聞こえた方に走って行った。
少し走った後、疑問が頭をよぎる。
こっちに行っていいのか?両親は?
いいんだ。これでいいんだ。両親は大丈夫。
今は近くにいる人から守ろう。
自分に力はないけど、大声を出すことはできる。
助けを呼ぶことはできる。
そう思っていると、悲鳴の張本人であろうか、女性が腰を抜かして座っている。
…そしてその目の前には、魔物。
今にも襲われてしまいそうな状況だった。
なにしてんだ!助けに行かなきゃ!
そう思い足を踏み込…
「あ…れ…?」
足が動かない。一ミリも。
いや、正確には小刻みに震えている。
先ほどまではさほど怖くはなかったが、いざ実物を見てみると、抑えられていた恐怖が一気に溢れ出る。
助けに行かないと…。
そんな中、ある言葉が思い浮かぶ。
「お前はなにやっても本当にダメだなぁ。」
散々言われてきた言葉。悔しかった。僕はなにもできないのか。どうして出来ないんだ。
ずっと考えていた。
悔しさからか、自然に足が動くようになってきた。
すぐに行かないと…女性が襲われてしまう。
「うわぉぁぁぁぁぁ!」
そんな風に叫びながら魔物に向かって…
行かなかった。
途中までは良かった。しかし、途中で転んでしまった。
「あ…。」
叫んでしまったせいで、魔物は完全にこちらを標的にしている。
これは…終わった。
そう思った瞬間、
魔物の首が切れた。
「やぁ。君の叫び声が聞こえたからやってきたよ。」
勇者だった。
憧れの勇者だ。
助けに来てくれた。
「大丈夫だった?それじゃ僕は次の人を助けに行くから。」
そう言って後を去ろうとした。
そこで、僕はもう一回叫んだ
「どうしたら勇者になれますか!」
勇者は言った。
「君はもう勇者だよ。勇者っていうのは、勇気あふれる人のことを指すんだよ。君は女性を助けた。勇気を出してね。だから、君は勇者だよ。」
僕は勇者を勘違いしていたらしい。
人々を守るのが勇者ではないのだ。
勇気あふれる人のことを勇者と呼ぶのだ。
そんな勘違いは特に頭に入っていない。
今考えることができるのは、
「僕でも…勇者になれるんだ!」