勇者になりたい。
ーーーここは第一王国
第一王国から第九王国まで、全てを収める国。
この世界の全てが揃っていると言ってもいい場所。
そして、世界では、ある職業が人気になっている。
毎年数回、いくつかの国が魔物に襲われる。その魔物を倒し、人々を守るのが仕事。
そう、勇者だ。
そんな勇者に憧れた、一人の少年の物語が、幕を開ける…
「お前はなにやっても本当にダメだなぁ。」
聞き飽きたその言葉に、僕は少しだけ落ち込んだ。
僕は運動神経がない。なにもないところで転んだりするほどではないが、運動では友達の中で一度も勝ったことがないのだ。
「そんなんで勇者は無理だぞ?諦めるしかないな!」
そんな言葉とともに、周りの友達が笑う。
僕は、勇者に憧れている。
勇者とは、人々を守る人の事。
いつか僕はそんな風に人々を守ってみたいと思っていた。
それなのに、この運動神経のなさだ。これでは才能がないと言われても無理はない。そんなことを幼いながらも分かっていた。
「僕だって…勇者になれるんだ…。」
「お前じゃ無理だよ。ユウキ。」
と、タクヤが言う。
タクヤは、いわゆるいじめっ子的ポジションだ。
いじめがいのあるやつを見つけては、馬鹿にしてくる。
タクヤの一言で目に少しだけ涙がたまる。そんな涙を隠そうと、駆け足でその場を離れた…。
行き着くのはいつもの場所。僕のお気に入りの場所。僕しか知らない場所。
壊れた塔の上にあって、誰もいなくて、周りの景色が見渡せる。
悔しいときは、ここに来て思いっきり泣いている。
そんなときーーーー
『緊急警報。緊急警報。第一王国に魔物が襲撃。国民はただちに避難してください。繰り返しますーーーー。』
何度かは聞いたことがある、魔物襲撃の警報。ただ、いつもと違うのは、自分がいる国、第一王国が襲われているというところ。
第一王国は、第二王国から第九王国に囲まれているため、魔物に襲撃されたことがないのだ。
そんな初の体験のため、街はパニックになっていた。
「大変だ…。」
そんな言葉が漏れる。
怖い。怖い。怖い。一人だ。自分は一人だ。誰も助けてくれない。怖い。
…こんなとき、勇者ならどうするんだろう。そう考えた。
勇者に憧れているからこそ出てくる発想。
そんな考えが、自然と恐怖を抑えてくれた。
勇者ならどうするか。一つ考えが出た。
勇者は人を守る。自分も人を守りたい。
「お父さんとお母さんが危ない…。」
そう考えて、両親のいる自宅に走った…。