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夏のイベント(前編)

そして、雷人が春に連れて行かれたのは――隣町にある先月ぐらいにオープンしたウォーターパーク。

「春、俺水着なんて持ってきてないぞ?だから、別の場所にしないか?」

と、さっきから何度も春に聞くが、

「うん、それは大丈夫だよ、お兄ちゃん。ここ、水着の貸し出しもしてるらしいから」

と、満面の笑みで返されたら何も言い返せないな……。それに、付き合うって言ったし、よし、もうあきらめよう!

そして、俺と春は入り口を通って料金を払い、係員に連れられて貸し出し用の水着を選びに行く。そして、雷人と春がついた所には様々な種類の水着が並べられてあった。そして、俺はその中から無難に黒の生地に青のラインの入った少し長いトランクスにするか、と決めて春に決まったか?と聞こうと春のほうを見ると、

「お客様!そちらのコーナーは男性用になっておりますので、こちらの女性コーナーに!」

と、係員に引っ張られている春がいた。

「いやだ~!僕は男だからこっちでいいんだ~!」

と、必死に係員を説得しようとしているが、

「何を言ってんですか!お客様は誰がどう見ても女性ではないですか!」

と、言い合っている春が俺のほうを見て少し涙目で助けを訴えている。

はぁ、しかたないか、と俺は手に持っていた水着を掛けてあった場所に戻し、春のほうに歩いていく。

「あの~そいつ、春は男なんでこっちであってますんで、大丈夫です」

「はぁ、お連れの方がそういわれるのなら……わかりました。お騒がせして申し訳ございませんでした……」

と言って、係員の人は釈然としない様子で帰っていた。

そして、俺がさっき選んでいた水着を取りに行こうとすると、後ろから腕をつかまれた。

「春?早く選ばないと時間なくなるぞ?」

と振り返りながら言う俺に春が抱きついてきて、

「お兄ちゃん……あの…いつも助けてくれてありがとう……」

なんて言ってくる。いや、これは反則だろ…春は男とはいえ普通に見たらはっきり言って女の子なのだ。その女の子に負けない男の子が涙目で抱きついてきたのだ…だから、その、男であるはずの春にドキッとしてしまった俺がいるわけで……だから俺は春にそのことを気づかれないように、いやただの照れ隠しだな…多分。

春の頭を撫でながら、

「大丈夫、大丈夫。気にすんなって、いつものことだろ?」

「うん、そうだけど……」

「終わったことは気にしない!ここ、春が誘ったんだろう?早く水着決めていこうぜ」

「うん!」

そう言って、さっきまで涙目だったのが嘘だったかのように、笑顔でスキップをしながら水着を選びにいく春をよそに、なぜか自己嫌悪に陥る雷人。

――またやってしまった……どうしても、あの春の顔を見るとついつい甘やかしてしまう……はぁ……しっかりしなきゃな、俺――。

「雷人~ちょっと来て~」

そんな雷人の心配を、まったく知らない春の呼び声に少し苦笑しながらも、

「はいはい、今度はどうした~?」

と、ついついかまってしまう俺はまだまだなのかな―。


そして、春も決まったみたいで2人水着を持って更衣室に行き、着替えようと服を脱ぐと隣からの視線がどうしても気になる。

「あのなぁ、春。なぜ俺のほうを見ている?お前もまだ着替え終わってないだろう?」

と、不思議そうに春に言う。

「あ、うん。そうだね」

春はそう言って急いで着替え始める。それを見て俺も自分の着替えに戻る。


「やっぱり、夏休みだから人多いな」

「うん、そうだね」

なんて話しながら2人は軽く準備運動をして、近くにあった流れるプールに入る。そして、その2人を後ろから物影に隠れてみる2人の影……。

「なんで、男の子2人でプールなんかに……」

「そうかな?普通だと思うけど?」

と、雷人と春の楽しそうな会話をしている後ろ姿を見るなぜか水着の誠也と巴。

「いまさらなんだけど、何で僕はここにいて、さらに、水着着てるの……?」

と、納得いかない誠也と、

「あんたしか頼める人がいなかっただけ。それと、あと言っとくけど、これデートとかそんなんじゃないんだから!!えっと……ただうちは、あの二人が間違った道に行かないようにと……ほんとにそれだけだから、勘違いしないでよ!!」

と、なぜか言葉を言いながら赤くなっていく巴の2人。

「まぁ、巴ちゃん。雷人のことが好きだから、心配ってことかな?」

と、どこか楽しそうにニヤニヤ顔で聞く誠也に、

「なっ!?な、何言ってんのよ!!う、うちが、あんなやつのこと好きになるわけないでしょ!?」

と予想以上の反応に、

「こ、声が大きいよ。巴ちゃん。み、みんなが見てる見てる」

言葉を言うにつれて最後のほうは声が大きくなり、周りの視線を集めてしまい、巴が真っ赤になったのは言うまでもない。

「ん、今、巴の声が聞こえたような……ま、いっか」

「お兄ちゃん?どうかしたの?」

「いや、ただの気のせい――それはそうと春?」

「うん?何、お兄ちゃん?」

「お前さっきからわざとぶつかってるだろ?」

そう、俺はまあ、普通に真っ直ぐ泳いでいるはずなのだが、さっきから春がやたらとぶつかってくるからつい我慢できず、聞いてしまったわけなのだが……、

「え、そ、そんなことない……と思うよ……アハハ」

この反応である……。それに加えて、おれと離れているときも、

「雷人と二人きりでプール……や、やばいよぉ……」

なんて心の声がもれている状況だ……それとやばいのは、お前だからな?春?


一方そのころ、巴と誠也はというと……、

「あ~も!!雷人達、見失ったじゃない!!」

「アハハハ……まぁ、そのうち会えるんじゃない?」

「なんで、そんなに誠也は雷人に甘いのよ!!」

「そ、そうかな……?誰に対しても同じように接してるつもりなんだけど……」

「自覚ないんだ……まぁいいわ、とりあえず近場から回っていきましょ……」

そう言って、少し疲れた表情で歩き出す、巴。そして、後ろをついていく誠也。


「次、どこ行く?」

「あのね、あれ行ってみたいな~?」

と、春が指差した先にあるのは――ウォータースライダー。

「だめかな……?」

俺より身長が低い春が上目遣いで大げさに手を組んで祈りをささげるように、

「でも、お兄ちゃん、怖いの苦手だもんね……」

と、言われたら引き下がれませんよね?雷人君ですもんね?それに加えて春君の必殺・上目遣い――それを使われたら断れる奴なんて、いるはずがない。俺もその抗えない男の一人なわけでもちろん――、

「何を言ってる、今日は春に付き合うっていたろ、遠慮すんな」

なんてカッコつけて言ったもののはっきり言って、ムリ!絶対に無理だって!

だって、全長200mで高さ75mだぞ!?そんな物好きなんているわけ……。

「結構並んでるね、お兄ちゃん」

と、春に聞かれたことで意識を現実に戻す。危なかった……完全にオートパロット状態だった……。全くどんだけ物好きが多いんだよ……。ん、待てよ、人が多いってことは、別のとこに変えるチャンスじゃないか!

「なあ、春、人多いから別のとこ行かないか?」

さっきカッコつけて言った人は誰でしったっけ?ねぇ?あ、ごめんなさい。睨まないで~。

「お兄ちゃん、どうしたの?空なんか睨んで」

「いや、いきなり地の文の書き方が変わったような――いや、なんでもない。それでだな、違うところに……」

(ふう、意外と勘が鋭いですね。雷人君。恐るべしです――)

と、いつもは少々態度の大きい雷人は一体どこへ――ぐらいのレベルの態度の雷人だから……、

「ここまで来て何言ってるの、お兄ちゃん!」

と、いつもより強めに返す春に、

「いや、だって並んでるから……また今度でも……」

どんどん言い返すたびに小さくなっていく雷人。と、そこに前に並んでた一組のカップルの彼氏らしき男が、

「へいへい、お兄さんよ~びびっててど~すんの~妹にかっこいいとこ見せなくていいのかい~?」

「お兄さん!?僕たちって兄妹(きょうだい)に見えるのかな……」

雷人の横で赤くなる春をよそに、

「いや、こいつは妹でも女の子でもなくて――」

必死に弁解をしようとする雷人の言葉を最後まで聞かず、

「あ、俺らの番回ってきたわ、じゃあ頑張れよ、お兄さん」

それだけを言い残して男は先に言ってしまう。取り残された二人はというと、春が雷人の方を目を輝かせて見ている。まぁ、逃げようにも腕を組まれて逃げられないようにしているし……はぁ……もう、もう諦めるか……と考えているところに、

「次の方、どうぞ」

俺たちの番が回ってくる。春に引っ張られながらもスタート地点に行くとそこには、二人乗りの小さなゴムボートがあり、

「これに乗ってください。女の子が前のほうがいいですよ~」

「いや、だから、春はおと――」

また、雷人が春のことを言おうとする言葉をさえぎって、

「じゃあ、僕が前だね、お兄ちゃん?それに前のほうが怖いと思うよ?」

なんて春に言われては雷人の逃げ場があるわけもなく、とうとう諦めて、

「はいはい、わかったよ。俺が後ろだな」

といいながら春が前に雷人がその後ろに乗り込み準備が完了するや否や、

「では、ごゆっくり~」

後ろから係員が言葉をかけながらボートが後ろから押され、

「えっ、あ、ちょっとまって~」

いつもの雷人からは想像すらつかないような情けない声を残して、無慈悲にボートは下へと滑っていく。


ウォーターパークに来ているのに全く遊ばず、カフェでジュースを二人で飲んでいる誠也と巴。なんで、こんなことになってるこというと、結局あの後、雷人達を見失ってどうやって探そうか、悩んでる状況だよね……?うん、多分……。そんなことで、二人で今後の事について話している時に……、

「ねえ、さっき、あのバカの声聞こえなかった?」

「ん?バカって誰のこと?」

「あんた、それ、わかってて聞いてるでしょ?」

「あ、ばれた?ちょ、そんなに睨まないで~。雷人のことでしょ?」

「当たり前じゃない!あんた、ここの来た目的忘れてないでしょうね?」

「ハハハ~もちろん覚えているよ~」

「そうそれなら、いいわ。それでこれから――」

普段は真面目な誠也がさっきから口調が軽く、冗談まで織り交ぜてくる。でもなんで?雷人に対してはゆるゆるなことは知ってるけど……。じゃあ、この目の前にいるのは……だれ……?うちの知ってる誠也じゃない……。と、考えている巴に、誠也が、

「今日は巴ちゃんの大好きな雷人をストーキングすることだよね?」

「うん、そうそう。うちが好きな雷人をストーキング――は!?いや、今のなし!あんな奴のこと好きでもなんでもないんだからね!ただその……生徒会役員としてよ。うん、そう。そういうことよ!」

あせって顔を赤くして反論する巴を見て、ストーキングのとこ否定しないんだ……と思う誠也。

「そんなことより、さっきあのバカの声聞こえなかったか聞いてんのよ!」

「あ、そういやそんな話だったね。うーん、聞こえたような聞こえなかったような……」

「いや聞こえたわ、絶対に。うちが聞き間違えるはずないもの!」

勢いあまって墓穴を掘ってしまう。そこをさっきから冗談を入れてくる誠也が気づかないわけがなく、巴がしまった!と思ったときには、

「さすが、好きな人の声は聞き間違えないって事かな?」

なんて言われてしまい、巴はさっきよりももっと顔を赤くして、

「そういう意味じゃないわよ!バカ!」

とだけを言い残して誠也を置いて走っていってしまった。

「ちょっと、いじりすぎちゃったかな?あとで謝らないとな~。にしても、これからどうするか……」

と一人ごちる誠也。そして、

「まぁ、一人でもすることないし、このままだと本当に目的忘れそうだし、あれ使うか……」

そういって、右耳につけているピアス型МADに触れ、それと同時に誠也が一回転回る。そのとたんに誠也を中心に一陣の風というかつむじ風が起こる。その風があたり一面を波となって空気中を伝っていく。そして、一人走っている人物を捉え、

「よし見つけた。」

そういって誠也は走り出した。


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