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非日常の懺悔室

「ヒナギクが犯人ですって……! 馬鹿なこと言わないで! この子がセンパイを殺すはずないじゃない! アタシ達のことを何もわかってないくせに勝手なこと言わないで! アタシ達はね、センパイに救われたの! 二人とも、センパイのことは大好きだし、尊敬もしてる。恩だってある! 殺すなんてありえないわ!」

 神谷はさっきまでと比べ物にならないくらいの声量で言ってきた。これは魂の叫びというやつだろう。熱がこもっていて、かなりの必死さが伝わってきた。

「はあ、はあ……」

「アゲハちゃん……」

 言いたいことを言いきって、肩で息をする。神谷のことを心配そうに見ている大村。だが、こいつが犯人だということは変わらない。

「大村、お前は何も言わないのか?」

「!」

 その様子を見て、城ケ崎が大村に声をかけた。厳しさの中に優しさが混ざっている、そんな声だった。

「お前の友人はあんなに必死にお前のために叫んだ。なのにお前は何も言わないのか? 自分の言葉で証明したらどうだ? 自分は犯人ではないと」

「わ、私は……」

 そんな言葉を受けて、大村がか細く小さい声で話し始めた。緊張しているのだろう、途切れがちで、どもってはいるが、ちゃんとその声は聞こえてきた。

「私は、犯人じゃ、ありません。あ、アゲハちゃんの言うとおり、私たちは、とても仲良しで、加賀美先輩のことは大好きで、尊敬もしてました。だ、だから、殺すなんて、そんな、あ、ありえません!」

 さっきまで黙っていた彼女が、神谷と城ケ崎の言葉に後押しされて、反論を言いきった。その手は震えていて、ぎゅっとスカートを握りしめていた。

「成る程、いい反論だ。確かに、ルームメイトだからってだけで尊敬する先輩殺しの犯人にされちゃたまったもんじゃないだろうな。……本当に尊敬していたんだったらな」

「ッ……!」

「ちょっと! どういうことよ!」

「その尊敬が軽蔑に変わっていたんじゃないのか? ある時を境にな」

「そんなことあるわけないじゃないの! センパイのことを軽蔑なんて、ありえない!」

 神谷の奴、ずいぶんと頑なだ。何があろうと大村が犯人だと認めないつもりだな。

「並木、教えてやってくれ」

「はい」

 このままではらちが明かないと思い、並木に声をかける。

「大村さんのクラスの人たちに聞き込みをして分かったことなんですけど、ここ数日、彼女の様子がおかしかったそうなんです。なにか、思いつめたようなそんな表情をしていたとか」

「だ、そうだ。神谷」

「な、何よ……」

 並木からの証言を聞いた神谷は、先ほどまでの勢いが無く、声に張りもなくなっていた。

「クラスメイトですら大村の様子に気づいていたんだ。一番近くで見ていたお前が気付かないはずがない。本当は分かっているんだろう? もしかしたら、大村が犯人じゃないかって」

「ぅっ……ううぅ……」

 図星を突かれたんだろう。神谷が言葉に詰まってしまった。

「で、でも、どうして! どうして、ヒナギクが! センパイを軽蔑するなんて!」

「たばこだよ。さっきも言った通り、加賀美はたばこを吸っていた。その様子を見たからだろうよ」

 大好きで尊敬していた先輩が、実はたばこを吸っていた。スキャンダルを目撃したファンが今まで好きだったアイドルを嫌いになってしまうように、大村も加賀美にがっかりしたんだろう。

「神谷、お前確か城ケ崎たちにこう言っていたよな『部活が終わった後、寮に帰る途中で部室に置き忘れたーって言って一人だけ戻るのよ。それが、結構な頻度であるのよ』ってな。それ、本当に忘れ物を取りに行っていただけだと思うか? もう分かっているとは思うが……」

「一人で部室に残ってたばこを吸うためですよね」

 俺の説明に、予想外のところから横やりが入った。

「ヒナギク……」

 大村だった。さっきまでの震えは無くなっており、はっきりとした声で、言ってきた。

「事件の三日前、加賀美先輩がいつものように部室に一人で戻った後、忘れ物に気が付いて、私も戻ったんですよ。目にしたのは、窓際でたばこを吸っている先輩の姿でした」

「ふむ、なるほどね。それを見てしまった君は、今回の事件を企てたと?」

「? 何のことです?」

「さっきの発言は、加賀美の殺害を認めるということかと聞いている」

 大村の言葉に、十と城ケ崎が言い寄る。

「ははっ。いえいえ、私が認めたのは先輩がたばこを吸っているところを目撃したことだけですよ? 殺してなんかいません」

「だが、加賀美のライターを盗んで使っている以上、この犯行はお前にしか不可能だ。認めたらどうなんだ?」

「証拠は?」

 大村の様子は、さっきまでと明らかに違っていた。震えることも、黙ることもなく、ただ淡々と弁論している。心なしか、顔つきまで変わっているように見えた。

「先輩たちが言っているのは状況証拠だけです。私が犯人だっていう、はっきりとした証拠はありませんよね?」

「ヒナギク……あんた、どうしちゃったの? いつものヒナギクじゃないわ……」

 大村のことをよく知る神谷が、変貌した彼女の様子を見ておびえている。さっきまでとは、立場が逆転している。

「確かに、証拠はないな。少なくとも、俺はそれを持ってない」

「ふふ、探偵なのに証拠なしで犯人を追いつめようとしてたんですか?」

 妖艶に、笑みを見せる大村は、すっかり余裕そうだ。だけど、

「お前なら持ってるんじゃないか? さっきから必死に握りしめているそのスカートのポケットの中にな」

「!!?」

「失礼します」

 余裕そうに見えても、唯一、そのスカートを握りしめている手だけは震えていたままだった。必死に隠そうとしても、そういうところに本心が出てくる。

「これは……」

 並木が大村のスカートの中から取り出したのは、銀色の、小さな物体だった。

「携帯灰皿。加賀美のものだろうな」

「ヒナギク……どうして? ねえ、何でなの!? どうして、センパイをっ!?」

 呆然とした様子の大村に、神谷が掴みかかる。大村は、さっきまでの余裕がすっかりなくなってしまっていた。

「分からない……分からないんです……加賀美先輩がたばこを吸っているあの姿を見たとき、自分の中に黒くて、もやもやしたものが入ってきて……気が付いたらこんなことに……。先輩にがっかりしてしまったのは本当です。でも、殺す気なんて……」

 弱弱しく、罪の意識に身体を震わせながら大村はポツリ、ポツリと言った。

「ふむ。やはり、今回の事件も同様のようだね」

「そのようだな。おい! 居るんだろ! すぐに出てきたらどうだ!?」

「あんた達……一体何を……?」

 いきなり、見えない何かに話しかけるように言った城ケ崎のことを、神谷がいぶかしげに見る。すると、

「…………ふふっ」

 不意に大村が笑った。そして、次の瞬間。

「コーーングラッチュレーーショーーン!!! さすがだねぇ! 今回も大正解だよ桐木君! いやー大分探偵が板についてきたんじゃないかな!?」

 急に人が変わったようにテンション高く、叫びだした。

「お前に褒められても嬉しくねえよ。もう、こんなことは終わりにしたいんだ」

 顔をしかめながら、大村に、いや、大村の中にいる黒い影に。

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