非日常の歩道橋
並木と別れた俺がやってきたのは特別教室棟の屋上だった。城ケ崎が言うにはここのヘリの部分に灯油の入ったポリタンクと、ライターが落ちていたらしい。で、加賀美はそこから飛び降りたと。
七志野学園の屋上には多くの花壇と、樹木が植えられており、ベンチやテーブルなども設置されている。いわゆる、屋上庭園というやつだ。そのため、昼休みや放課後には生徒たちの憩いの場になってたりする。が、今は放課後にもかかわらず、俺以外の生徒の姿はない。何故かというと、
『一般生徒の無断での立ち入りを禁ずる。城ケ崎竜士郎』
意外にも達筆なこの注意書きが屋上入口に張ってあったからだろう。案外、あいつの強面はこういうところで役に立つ。ま、そのせいでまた怖がられるんだけどな。
さて、とりあえずポリタンクとライターが落ちていた場所を確認しておくか。ここのフェンスは景観を損なわないために、せいぜい腰までの高さしかない。女子生徒でも十分に越えられる。軽くとはいかないが、俺もフェンスを乗り越え、下の様子を確認する。やっぱり、かなりの高さがあるな。ここから落ちたらまず、助からないだろう。
「やあ、君もここに来ていたんだね」
「!?」
不意に背後から話しかけられ、下を覗き込んでいたこともあり体がびくついてしまう。慌ててフェンスを掴みながら背後に目を向けると見知った顔が立っていた。
「ああ、ごめん。驚かせてしまったかな?」
「驚いたなんてもんじゃねえぞ。危うく死にかけたわ」
「ははっ、それなら同じ場所で死んだ彼女に誰が犯人か聞けたんじゃないかな?」
「笑えない冗談は止めてほしいんだがな、十」
未だバクバク言っている心臓を何とか落ち着かせながら、フェンスを越え声をかけてきた奴に話しかける。
こいつは十雷土。城ケ崎と同じく、異常者の中でも刑事の役割をしている奴だ。まあ、城ケ崎とは決定的に違う点があるんだが。
「別に冗談のつもりはなかったんだけどね。まあ、もし聞けたとしても僕たちに伝える方法が無いんだけど」
「……霊媒師でも呼べばいいんじゃないか?」
顎に手をやって、無駄にかっこつけている十に呆れながら、ため息交じりにコメントする。こいつ、無駄にイケメンなんだよなぁ……。細身の長身に長髪。整った顔立ち。お前はどこの少女漫画から飛び出してきたんだと言いたいばかりのスペックだ。正直、城ケ崎が哀れになってしまうほどだ。
まあ、さっきみたいな笑えない冗談を言ってきたりするから、俺としては城ケ崎のほうが相手にしやすい。(並木>城ケ崎>>白亜≧十>>>>>蜻蛉)話しやすい順にこんな感じだ。
「ああ成る程。しかし、僕は霊媒師に知り合いは居ないんだ」
「もういいだろ、それについては……ってか、なんか話があるんじゃないのか?」
「そう言われればそうだね。いや、なに。単に君に今回の事件についての考えを聞きたいだけなんだ」
十はそう言って、考え込むようなしぐさをする。
「今回の被害者は加賀美蘭さん。彼女はどう考えても自殺をするような人物じゃない。むしろ、自殺を止めようとするだろうね」
「ああ、並木も言ってたがお前も知ってるのか?」
「うん、まあね。彼女はクラスメイトなんだよ」
こいつもか……。確か、蜻蛉も同じクラスだったとか言ってたな。濃いクラスだ。
「だが、これが他殺だとすると二つの問題が起こってしまう」
人差し指と中指を立てる十。そのしぐさ一つ一つが、妙に格好よく見える。……なんかむかつくな。
「まず一つ。犯人はどのように彼女に火をつけたのか?」
人差し指を立てる。つーか、いちいちかっこつけすぎだろ。見てるやつ俺しかいねえんだぞ。
「彼女に殺すために犯人は、まずポリタンクの中の灯油をかけ、その後ライターで火をつけた。だが、それは難しい。」
「灯油をかけるぐらいなら不意を突けば簡単だろうな。問題はその後だ」
「そう。彼女は灯油をかけられた時点で犯人の存在に気づいてしまう。もちろん、犯人が自分を殺すためにライターで火をつけようとしていることもね」
「そうなったら、パニックになりながらも何とかして逃げようとするだろうな」
「そして、逃げるんだとしたら屋上の入り口を目指すはずだよね。わざわざ、逃げ場のないヘリに向かうとは考えられない。となると、追い詰めるために何らかの方法をとったはずだね。その方法は何か?」
十と一緒に、屋上で起こったであろう出来事を頭の中で整理していく。城ケ崎とは違うもう一つの点。十はかなり頭が切れる。だから、こんな風に事件を整理することができる。
一人であれこれ悩むよりは二人のほうが効率がいい。こんな風に、みんなで力を合わせて事件を解決に導いていく。俺たちが今までの事件を解決してきた方法だ。
「そして二つ目。何故、ライターには彼女の指紋が付いていたのか?」
中指も立てる。もう、これについては何も思わないことにする。
「そもそもの前提として、ライターには彼女の指紋が付いているんだよ。ライターをどうやって用意したかも謎だけど、それを彼女に触れさせるために犯人はどのような方法をとったのか?」
「普通なら、殺した後に触らせればいい話だが、燃やしちまったら指紋もつかないよな」
「そういうことだね。まあ、この二つの問題を解かない限り、事件の真相は見えてこないだろうね。そうなると、本当にここから飛び降りて、彼女に聞いてくるしか方法が無いね。ははっ」
「終わった話を蒸し返すなよ……。つまり、この事件を解決するためにはさっき言った二つの問題を解けばいいってことだな」
俺が言うと、十はニコリとほほ笑んだ。こいつ、中々掴みどころがないんだよな。
Prrrrr
そんな風な会話が終わった後、不意に屋上に電子音が鳴り響いた。この音は、俺のスマホか。相手は、並木だ。
「もしもし、並木か。どうした?」
『あ、桐木君! 見つかりましたよ!加賀美さんのことを覚えている人たち!』
「ふむ、どうやら事件が本格的に動き始めたみたいだね」
十の言うとおり、ここからが推理の本番だ。気合入れていくか。




