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日常と非日常の交差点

「そうですか、加賀美さんが……」

 五、六時間目の授業が終了し、担任教師から連休の過ごし方についての話を聞き終えた後の教室。放課後だ。一般の生徒たちは寮に帰るなり、部活に顔を出すなりで今教室に残ってるのは俺と並木だけだ。

「知り合いだったのか?」

「ええ。去年のクラスメイトで、何度かお話しました」

 悲しげな表情で並木が答える。こいつも異常者なのだが、周囲には見えないふりをしているので一般の生徒たちともよく会話をしている。まあ、俺と話しているせいで若干距離を感じるらしいが。それでも、俺や城ケ崎が知らないような話なんかを多く知っているので、事件解決に役立っている。

「そうか。つらいかもしれないが、協力してくれるな?」

「あ、はい! もちろんです。私は桐木君の助手なので!」

 悲しげな表情から一瞬で真剣な表情に変わり、両手を握りしめ気合十分といったような並木。全く、強いなこいつは。

「そうか。じゃあ、遠慮なく聞かせてもらうが、今回の事件は自殺なんじゃないかと考えているんだが、それについてどう思う?」

「え、加賀美さんが自殺ですか? それはないんじゃないかと……」

「何でだ? こう言っちゃなんだが、女子高生だったら自殺のきっかけなんていくつかありそうなものだと思うんだが。ほら、いじめとか、恋愛がらみとか……」

「まあ、普通の人たちでしたらそういったこともあるんでしょうけど。加賀美さんの場合はそういったことには無縁だったと思いますよ。彼女は、竹を割ったような性格をしていまして、クラスの中心、と言うわけではないのですが、まあ、相談役のような立ち位置の人物でした。自由奔放で掴みどころがなく、それでも人の心にスッと入ってくるような。あ、あれです。例えるなら近所のおばちゃんといったような。そんな人でした」

 女子高生に対しての評価が、近所のおばちゃんか……。なんとなく、飴を配っている姿を想像してしまった。

「ふーん。じゃあ、並木も何か相談に乗ってもらったりしたのか?」

「あ、はい。実を言うと私の立ち位置についてとか……」

「立ち位置……。つまり、異常者なのにそうでないふりをしたり、異常者の俺と仲良くしたりしていることについてか」

「はい。もちろん、私は特に気にしてはいなかったと思うんですけど……。何というか、やっぱり、心のどこかじゃあそういったことについて何か思うところがあったみたいで……。一人きりでいるところに急に話しかけられて、ちょっとお話をしたんです。もちろん、何かが変わったりそういうことはなかったんですけど、安心出来たんです」

 そう語る並木の顔は、まるで大切な家族のことを思い出すときのような、そんな、優しい表情をしていた。並木にこんな顔をさせるとは……。どうやら今回の被害者は、かなりの良い奴らしい。

「そうか。だったら、絶対に今回の事件は解決しないといけないな」

「はい! それで、私は何をしたらいいでしょう?」

 やる気満々といった感じで、並木が聞いてきた。

「そうだな。もう少し、別の角度から加賀美のことを知っておきたい。彼女についてできる限り調べておいてくれないか? 俺は事件のほうを調べる」

「了解です!」

「よし、じゃあ調査開始……」

「あ、あのっ!」

「……っとぉ、どうした?」

 さあこれから本格的にはじめようという時に、並木から声が掛かる。

「その……調査がうまくいくように、頭を……」

「ああ。あれな。ほれ、これでいいんだろ?」

「ふぁぁ……」

 一年前のとある事件の時、安心させるために頭を撫でてやって以来、並木はたびたびこのようにねだってくるようになった。明らかに自分のもとは違う銀髪の肌触りを感じながら、丁寧に撫でてやる。しかし、そんないいのかね? これ。そう思いながらしばらく続けていると不意に

 ピロリン♪

 と、音が鳴った。

「いやー、陸上部に提出しなきゃならないプリントを取りに教室に戻ったら、何やら普段から怪しげなクラスメイトの男女がイケナイことをしていたぜ」

「懇切丁寧な説明ありがとよ!」

 ええいくそっ。白亜め! 折角突込みが必要ないシチュエーションだったというのにこいつは……! てか、今写メりやがったな!

「いやいや、中々のベストショットが撮れましたよ。さあさ、お二人さん俺のことは気にせず続きをどうぞ」

「やらんわ! つーか、それ消せ!」

 逃げる白亜からスマホを奪おうと掴みかかろうとするがヒラリヒラリと躱される。くっ……。運動神経かなりいいな。さすがは、陸上部のエースといったところか。

 あ、ちなみにこいつは一般の生徒なんだが、それでも俺に絡んでくる珍しい奴だ。ま、こいつの場合、単に下衆いだけかもしれんが。

「ま、いいじゃないの。どーせ、俺が何か言わなくてもお前らは噂になってんだからよ」

 俺のことを軽くあしらいながら、自分の机の場所にやってきた白亜はごそごそと、プリントを探し始めた。もういいか、どうせこいつのことださっきの写真も面白半分で撮っただけだろう。

「噂?」

「そ、学園内でも有名な異常者である桐木涼と、銀髪の美少女並木恵。二人は何やらイケナイ関係なのでは? って感じらしいぜ?」

 なんだそりゃ。そりゃあまあ、並木とはよく一緒に事件の調査をしたり、普段も喋ったりはしてるが何がイケナイ関係だ。

「そんな、私が美少女なんてー」

 こっちは、なんか反応するところがずれてるし。

「お、あったあった。そんじゃお二人さん、いちゃつくのはいいがほどほどにな」

「別にいちゃついてねえよ。ほれ、さっさと部活に行け。陸上部」

「はーいよ。そんじゃお二人さん式には呼んでくれよ」

「だから、そういうのは……って、おい!」

「アディオス!」

 そう言いながら白亜は窓から飛び降りてしまった。まあ、あいつの運動神経なら大丈夫だと思うが……。

「アスリートなんだから体は大切にしろよ……」

「桐木君は優しいですねー」

 ま、なんだかんだあったもの俺と並木は調査を開始したのだった。

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