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日常→非日常

まだ、推理ではなくコメディ色が多いです。

春の陽気が心地よく、昼休みの長い時間を、贅沢に昼寝に使ってしまおうかと考えてしまう今日この頃。俺こと桐木涼は、窓際の自分の席で何気なく、頬杖をついて窓の外を見ながら、教室内の会話に耳を傾けていた。

 聞けば、明日からの連休をいかにして過ごすのかと、農家だから田植えに駆り出されてしまうだの、友達とショッピングに行くだの、家族で旅行に行くだの。なんとも楽しげなクラスメイトの断章が聞こえてきた。

「平和だねえ……」

 願わくば、この時間が永遠に続いてほしいと思いつつそうつぶやいた。

「桐木君。なんだか、日向ぼっこしてるおじいちゃんみたいですよ?」

 そんな俺の様子を見て、こんな感想を言ってのける女子がいた。

「言いえて妙だな並木よ。しかし、ただただ時間を浪費し、このポカポカ陽気の中に身を預けてしまう快感は何事にも代えがたい。お前もどうだ?」

 俺の前にある空いている机の椅子を引いて、そこに座るように促す。

「成る程、では失礼いたしまして……」

 並木も着席し、一緒に陽気の中に身を任せた。

 うむ。やはりいいものだと、改めて思いながらちらりと横に身を向けると、俺よかすでに満喫しまくっている並木の顔があった。こいつ、プロだな!?(何のだ)

 彼女は並木恵。一年生の時、ちょっとした縁があって知り合い、今年になって同じクラスになった仲だ。遺伝らしい綺麗な銀髪以外は全国の女子高生の平均点程の容姿をしている。

「ん~? 桐木君。今、私のこと考えてました~?」

 こちらのわずかな視線に気づいたのか、間は伸びているが鋭い言葉を言ってきた。この女、知り合った時から、こういったことには聡かったりする。エスパーなのかと何度思ったことか……。

「超能力者ではありませんよー」

 …………いや、やっぱりエスパーじゃね?

「まあ、それについては置いておくとして、あんまりぼーっとすんなよ? 誘った俺が言うのもなんだが、寝ぼけた頭じゃ授業についていけなくなるぞ」

「は~い」

 そう言いながらぼーっとしている並木。本当にわかってんのか?

「よう、ご両人。二人で日向ぼっことは中々仲のよろしいことですなぁ。やっぱ、お前ら付き合ってんじゃねえの? あれか、実は昔からの幼馴染で熟年夫婦か?」

「チゲえよ。付き合ってないし、並木と知り合ったのは去年だ」

 そんなやり取りをしていると、クラスメイトのお調子者。白亜狼が話しかけてきた。茶髪にピアスなんて言うチャラい見た目で、性格もチャラいし、何より下衆い。ことあるごとに俺と並木を付き合わせようとしてきやがる。

「とまあ、相方はこのように申しておりますがどうなんですか、並木さん?」

「お前なあ……」

 こいつ、人の話聞かねえな……

 で、話しかけられた並木はというと、半分ほど眠ったような調子でこう答えた。

「私はぁ、桐木君の助手なんですよ?」

 その答えを聞いた白亜はしばらく黙っていたが、やがて口を開く。

「成る程、そういうプレイか……」

「違う!」

 こいつの思考回路はどうなってんだ!

「じゃーどういう意味だよー。何回聞いてもこの答じゃねえか」

「それは……あーめんどい!」

 じれったくなったのか、白亜が腕を方に回してくる。どうする?白亜になら説明してやってもいいかもしれんが、後のことを考えるとめんどくさいことになりかねん!そもそも、こいつがちゃんと理解できるかも怪しい!

「なあおい、並木。お前からもなんか……」

「Zzz……」

「って寝てる!?」

 並木にも何とかさせようと目を向けるとそこには腕枕ですやすや眠る並木の姿があった。てか、そこ別の奴の席なんだが。

「なーあー教えろよー。どうせエロいことやってんだろー?」

「だぁっ! うぜえ!」

 絡み付いてくる白亜を何とか外そうと必死に抵抗する。が、チャラいくせに妙に筋肉質で、なかなか外れない。そういやこいつ陸上部だったか。

 さっきまでの平和はどこに行ったのかと心の中で嘆いてしまう。まあ、もうじき昼休みも終わるだろうし、そしたら白亜も席に戻るか。

 なんて思っていたところ、不意にクラスが静かになった。


 不思議に思い、原因を探してみると、教室の入り口に強面の男子をが立っていた。髪は短く、立たせていて、百八十㎝以上の長身も、威圧感を引き立てているそいつの姿を見たとき、俺の中に一つの確信があった。いつの間にか、白亜も腕を外しているし、並木も目を覚ましていた。クラスメイトも全員がただ静かにその男子を見ていた。

 数瞬の後、そいつはゆっくりと俺に向かって真っすぐ歩いてきた。その視線はただ俺だけを見ていて、俺もまた、そいつのことだけを見ていた。

「要件については分かっているな?」

「まあね。どうせあれだろ? 全く、勘弁してほしいな明日から連休だってのに」

 肩をすくめてふざけてみるが、そいつはクスリとも笑わずただこっちを見ているだけだ。

「ついてこい」

 そんな、クラスに現れた珍客、城ケ崎竜士郎は俺に背を向けて短くそう言った。

「あいよ」

 俺も短くそう返し、席から立ち上がり、教室から出て行こうとする。入り口に差し掛かったところで、

「あの!」

 と、よく通る声が後ろから聞こえてきた。振り向くとそこには、さっきまで寝ていたとは思えない、真剣な顔をした並木が立っていた。

「頑張ってくださいね!」

「おう、涎吹いておけよ」

 口元を指さし、捨て台詞をいう。あわてた様子で口を拭う並木が、面白かった。

 遠ざかっていく教室から、クラスメイト達のこんな会話が聞こえてきた。


「また、なのかしら?」

「そうみたいだなあ」

「もう、なんだっていうのよ……」

「気持ち悪い……」

「やっぱり、異常者なんだな」


 先ほどまでの日常は終わりの時を告げ、非日常が姿を現す。

 ここは、私立七志野学園。俺に、俺たちにとって、まるで異世界のような場所だった。


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