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第七章 私はセイラ

「顔を上げなさい。」


そう言われゆっくり顔を上げる。

目の前には羽竜と同じくらいの歳の女が、派手なドレスを着ていささか女には似合わない玉座に座ってこちらを見ている。


「名は……?」


「…………羽竜。目黒羽竜。」


羽竜が一番嫌いなタイプの女だ。

偉そうで気が強そうな。

もちろんここが過去で、彼女の身なりを見ればさしずめお姫様だというのは理解に苦しくない。


「ハリュウ?変わった名だな。見たところこの辺りの者ではないようだが……どこから来た?」


どこからと言われても答えられるわけがない。

 あかねも同じ事を思っていたが、未来から来ましたと言ったところで信じてもらえるわけがない。


「遠いところだよ。」


「遠い?曖昧な返答は許されない。さあ、答えよ。」


「…………日本だよ。」


嘘は言ってないし、この時代にも日本は存在する。

後はお姫様が日本を知っているかどうかだが………。


「ニホン?聞いた事がない。ジョルジュ、お前は知っているか?」


「いえ、私も聞いた事はありません。」


「ジョルジュでも知らないのならそんな国は存在しないのだろう。」


「なんだと!俺が嘘言ってるってのか!?」


お姫様の口ぶりに抑えが利かなくなってしまう。


「コイツ!無礼な!!」


衛兵達が羽竜が暴れないように槍を羽竜の背中に突き立て警戒する。


「それにしても元気な人。是非我が国の騎士隊に欲しいわね。」


「姫様、また気まぐれを……」


ジョルジュが溜め息をつくと周りから失笑が漏れた。


「ジョルジュ!」


顔を赤らめてジョルジュを叱咤するが、説得力はまるでない。


「失礼しました。それより姫様がそこまで興味がおありでしたらこの羽竜とかいう者、しつけはなってませんが強さは本物。明日の士官試験に出してみては?」


「士官………試験?」


羽竜が反応したのはあくまでも『試験』の方だけだと言っておく。


「面白いわ。羽竜、貴方明日の士官試験に出なさい。」


「ちょっと待てよ、なんだよ士官試験って。」


「士官試験は士官試験よ。貴方の力、私も見てみたい。一瞬で我が国の騎士隊を倒してしまうなんて。」


「断る!俺は試験は嫌いだ!」


「お前の好き嫌いは聞いておらん。自分が置かれている状況をよく考えたまえ。」


ジョルジュの言葉からすると羽竜に選択の余地はないらしい。


「ジョルジュ………てめぇ、いい加減にしねーとぶん殴るぞ!」


羽竜にとってジョルジュ=レジェンダの図式は無くならない。

ジョルジュは羽竜に会うのは初めてだ。

だから紛らわしい。

分からず屋なところは千年後あとも前も変わってないのだが、顔があるからその分憎たらしい。


「なんという汚らしい言葉。本来なら死罪にしてやるところ…………だが我が国も強い人材が欲しいのも本音。士官試験に合格しなければその身の保証はない。覚えておけ。」


それだけ言ってどこかへ行ってしまった。


(なんて嫌な奴なんだ……あれが本当にレジェンダなのか?)


羽竜の疑問に答えてくれる者は今はいない。


「羽竜、試験については後ほど使いの者をやるから聞くがよい。下がってよい。」


「ふざけんな!何様だテメー!!」


ジョルジュへのもどかしさと不慣れな世界での状況への苛立ちが爆発する。

衛兵達が必死に羽竜を羽交い締めにする。


「ほんと………汚い言葉ね。」


玉座から立ち上がり立ち去ろうとして足を止める。


「…………私はセイラ。フランシア国女王、プリンセスセイラ。」

















ここは本当に千年前の地球なのか?

この世界に魔導書が封印されているのなら、魔導書は間違いなくオノリウスが持っているはず。

なのに…………何故………何故誰もオノリウスを知らない?

情報収集をした結果、ここは紛れも無い魔導書を巡る戦乱の千年前。

魔導書の存在は確からしい。

魔導書を巡って人々は争っているのだから。

なのに魔導書を書いた著者であるオノリウスは知らないという。


「こんなバカな事ってあるの?有名人のレベルじゃなかったはず。どうして誰もオノリウスを知らないの?」


当時オノリウスが生活していた地へバルムングは来ていた。


「……すんなり名誉挽回ってわけにはならないわね。」


早くも手詰まる。

オノリウスだけではない。かつてのレジェンダ、ジョルジュとリスティまでいない。

知ってるはずの世界のはずが全く知らない世界になっている。


「仕方ない………手当たり次第可能性のある事を探るか。」


魔導書を探し出さねばレリウーリアには戻れない。

彼女の意地だ。

大切なフラグメントを奪われた汚名は是が非でも返上しなければ気が済まない。

失った右目は自分への戒めには調度いい。

気持ちを切り替えて次なる策を講じる。

この世界は彼女にとっても因縁の過去。

逃げるわけにはいかない。

















試験の内容は羽竜してみれば簡単な事。

だが気に入らない。

内容はこうだ。

自分の得意とする武器を使って一対一のバトルを行う。

後はトーナメント方式で優勝を争うだけ。

そして上位三名だけが士官出来る。………というものだ。


「何が名誉ある……だ。俺は士官したいわけじゃねー。」


「羽竜殿、拒めば貴方は死刑となりますよ?」


「死刑?俺は何もしてねー。騎士隊の奴らだって、怪我はしたかもしれないけど、誰ひとり殺してねーじゃねーか!」


「でも貴方はセイラ姫に暴言を吐いた。それだけで理由は十分です。とにかく明日は試験を受けてもらいます。では、ゆっくりおやすみなさい。」


使い番は丁寧なお辞儀をして牢獄を去って行く。


「なんだってんだ!チクショー!!」


牢屋の冊を蹴り怒りをぶつける。


「………蕾斗、吉澤、お前達は無事なのか…………?」


牢屋の通気孔から外が見える。

心配なのは自分よりも蕾斗とあかね。

どうか生きていてほしいと拳を強く………握りしめた。


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