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第六章 その出会いは奇跡

森を抜けあかねとメグはようやく町に着いた。

士官試験は明日。なんとか間に合ったとメグは胸を撫で下ろした。


「全然余裕だったね。」


「うん。間に合ってよかった〜。」


なんと言ってもこの時代に時計はない。

旅人達の情報や太陽を基準に到着にかかる時間を予測しなければならないのだから不便極まりない。

たまたまあかねが腕時計をしていて、メグの話からここまで到着する時間を計算出来たからこそ間に合ったのだ。


「でも便利ね、あかねちゃんが身につけてるそれ。」


腕時計の事を言っている。あかねが未来から来たなどとは知らないから、あかねも適当にごまかす事にする。


「え……ええ。ま、まあなんていうか………魔法で扱うアクセサリーだから……ははは……」


「そうなんだ、魔法って便利だなあ。私も魔法使えるようになりたいけど、無理だよねぇ…才能無いし。」


ここで『才能ある』なんて言われたら軽く迷惑だ。

魔法は一切関係無いのだから。


「そ、それよりこれからどうするの?」


早く話を違う方向へ持って行きたい。


「とりあえず宿をとりましょう。城下町見物もしたいけど明日に備えて旅の疲れ癒さなきゃ。まっ、休まなくても平気なんだけどさ。」


「メグちゃんはよっぽど腕に自信があるのね。羨ましいな。」


「自信なんて無いよ。ただ自分を信じたいだけ。私には剣しかないから。」


腰にメグには不釣り合いな剣がぶら下がっている。

まるで愛撫でもするように優しく撫でるあたりは凄く大切なものなのだと思える。


「綺麗な剣だよね?名前あるの?」


「カルブリヌス。先祖に有名な騎士がいたらしく、その遺産なの。もち家宝よ。」


家宝と言うだけあって、お世辞にも豪華とは言えないものの、存在感があり、『本物』の剣だというのはあかねにもわかった。


「家宝を持ち歩って、家族は何も言わないの?」


何気ない会話の繋ぎのつもりだったが、メグにはあまり触れてほしくない話題だったらしい。

表情が曇り始めた。


「…………うん。みんな死んじゃったんだ。」


「嘘………やだ私ったら………」


「気にしないで。あかねちゃんは何も悪くないよ。ただ出来れば家族の話題はパスしたくて……」


「うん。そうだね。それより早く宿を探そ!お風呂に入り…………あっ!!」


ここであかねが大事な事に気付く。


「どうしたの?」


口を開けたままのあかねを不思議そうに見ている。


「……………私………………お金持ってない……………」


「え…………」


むしろ持ってたらおかしいだろう。無くて当たり前。

でもメグはそうは思ってなかった。彼女にとっては意外過ぎる問題だ。


「メグちゃん…………ごめん。」


もう頭を下げるしかない。


「ハハ………まあ士官試験に間に合ったのはあかねちゃんのおかげだし、私がなんとかするわ。」


ごそごそと巾着の中を見て硬貨を数える。


(………………試験、絶対に受からなきゃ……………)

















羽竜は戦火の真っ只中にいた。


「うおりゃあっ!!!」


赤い刃も今回はいつも通りに働いてくれる。


「くそっ………数が多過ぎだ。一気にケリをつけちまうか……」


過去へ間違いなく来た事は、戦っている相手を見ればわかる。

イメージ通りの西洋の騎士達が羽竜をとり囲んでいる。


「なんだこの小僧………バケモンだ………」


騎士の一人が思わずぼやく。

それもそうだろう、たった一人で既に三十人は倒している。

倒していると言っても、ちゃんとみねうちだ。

無意味に人を斬るわけにはいかない。

その辺はわきまえている。


「おねんねしてろよ?」


「この…………!!」


軽口を叩かれカッとなった騎士が剣を振り回す。


「唸れ!!トランスミグレーション!!」


地面にトランスミグレーションを突き刺し力を解放する。

羽竜を囲んでいた騎士達は解放されたトランスミグレーションの力に耐えられず、吹き飛ぶ。


「見た目で人を判断すると痛い目に会うって事だ。覚えとけ!」


大の男達が羽竜とトランスミグレーションの前に屈する光景は、かなり滑稽だ。


「大層な腕前だな、少年。」


金髪で涼しい目をした美形の青年が現れ羽竜に声をかけて来た。

あまりの美形ぶりに羽竜が息を飲み込むほどだ。


「誰だ………あんた?」


その堂々とした態度から周りで唸っている騎士達よりも立場が上の人間だとわかる。

そして纏うオーラもただ者じゃない。


「いきなり名を尋ねるとは………礼儀知らずな男だ。」


「ジョルジュ殿!気をつけてください、こやつ……バケモンです!」


「ジョ………ジョルジュ〜!?」


騎士の一人が口にした名を聞いてつい叫んでしまう。


「私を知っているようだな。いかにも、私はジョルジュ・シャリアンだ。」


知ってるも何も、羽竜の知ってるジョルジュ・シャリアンは一人しかいない。


「嘘だろ………あいつこんなにカッコよかったのかよ………」


羽竜の驚きは別の次元にあるようだ。

この場合過去のレジェンダに会えた奇跡を驚くべきだろう。


「褒めてくれるのは嬉しいが、時と場合を考える事だ。私は間違いなく君より強い。」


かかって来いと言わんばかりに羽竜を挑発する。

いつもの羽竜なら簡単に乗っかるところだが、今回はそんな気は起きない。


「ま、待ってくれ!あんたと戦うつもりはない!!」


ジョルジュ(レジェンダ)と戦っては意味がない。

ここは過去。一緒に来たはずの蕾斗とあかねもいないし、途方に暮れず済むかもしれないのだ。いや、途方に暮れる事は無くなったのだ。


「虫のいい話を………。我が同胞をここまでしておいて戦うつもりはないだと?」


ジョルジュが羽竜を睨み据える。

羽竜がイメージしていたレジェンダとはかなり掛け離れている。

もっと間の抜けた顔をしていると思っていたし、こんなに短気な性格だとは…………。


「話を聞いてくれよ!あんたら戦争中みたいだけど、俺は別に敵じゃない!信じてくれ!」


なんとかわかってもらおうと手振り身振りで話す。


「……………信じると思うのか?」


「ああ。あんたなら信じてくれる!」


ジョルジュの目をしっかりと見て反らさない。


「………フン、最初はなから敵だなんて思ってはいない。目を見ればわかる。」


「よかったあ〜〜。」


安心したせいかその場に座り込んでしまう。


「だが仲間というわけでもない。」


「えっ?」


羽竜に嫌な予感が走る。


「この少年を城まで連行しろ!一先ず撤退する!」


ジョルジュの指示で騎士達が羽竜を捕らえ連行する。


「ちょ………ちょっと待ってくれ………」


羽竜の言い分など聞く気もないらしく、ジョルジュは一人先に行く。

暴れないようにと喉元に剣を突き付けられトランスミグレーションを取り上げれてしまう。


「うっ…………どうなるんだよ……俺………」


こうして羽竜は千年前のレジェンダ……ジョルジュ・シャリアンと出会う事が出来た。

しかし、幸先はあまりよくない…………。


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