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第五章 メグ・ベルウッド

「遠いなあ………」


旅に出てからかれこれ4、5日経つ。

目的地は隣国の城。

士官試験を受ける為だ。

自国の王室は腐敗しきっていて、攻め込まれでもしたら終わりだろう。

そんなところに『就職』する奴はおめでたい輩しかいない。

悪いけど自分が変えてやろうなんて気持ちは微塵もない。

幸い家族もいないし、自由の身ですから。


「はぁ………町すら見えてこないなんて。お腹空いたんだけど……」


ぶつぶつ独り言を口にしながら旅路を急ぐのはメグ・ベルウッド。

まだ17歳の女の子。

戦士希望だ。

腕に自信はある。なんでも先祖には名のある騎士もいたらしい。きっとその血をまともに受け継いでいるに違いないと信じて止まない。


「あと3日で着くかなあ……着かなかったらどうしよ……」


着いてもらわなければ困る。


(もし間に合わなかったらこれから先お金に困るし………最悪な時の事考えておかなきゃ。)


まだ何も始まってもないのにあれこれ深く考えてしまうのは、性分だから仕方がない。

今、世の中は右を見ても左を見ても戦争ばかりだ。

その原因は、なんでも願いが叶う魔導書だそうだ。

そんなものが実在するかどうかは胡散うさん臭いが、火のないところに煙は立たない。

在るか無いかわからないものの為にわざわざ戦争はしないだろう。

メグの興味の範囲ではないにしても、誰が何の為にそんな物を書いたのかは気になるところだ。


「ん?あれって………!」


ぼんやり歩いていると少女が一人、熊に襲われている。


「グガオオオオッ!!!」


ちょっと他では見られないほど大きい体をしている。


「あっちに行ってよ!!しっ!しっ!」


野良犬でも追い払うような仕草で熊を拒絶する。

そんな事はお構いなしに、少女に爪を立てた腕を振り下ろす。


「危ない!!」


メグが走り出すが距離がある。

このままでは少女が殺されてしまう。

 愛剣を抜き、投げにかかろうとした時、メグは目を疑った。

魔法か何かであの巨体を吹き飛ばしたのだ。

これには熊さんもびっくりしたらしく、一目散に逃げて行った。


「ふぅ………危なかった……。」


見た事もない服装の少女が汗を拭い、安心したのか地べたに座り込む。


「あっ…………!」


少女はメグに気付くと座ったばかりの地面から立ち上がってメグの方へ歩く。


「ハ、ハロー……マ、マ、マイ ネーム イズ…………」


「貴女すごいじゃない!あの巨大熊を追い払うなんて!私、魔法って始めて見たわ!」


「に、日本語?っていうか言葉………わかるんですけど……?」


「何言ってるの?」


少女からすればメグに日本語は通じないと思ったらしい。


「よかったぁ………私英語は得意だけど会話した事なくて………」


「面白い人ね。私はメグ・ベルウッド、一応戦士よ。メグって呼んで。これから士官する予定なんだけど………実技試験は自信があるから決まったようなもんだけどね。」


エヘンと言わんばかりに腰に手を当て反り返る。


「あ、私は吉澤あかねです。あかねでいいです。」


「あかねちゃんね!にしても……貴女この辺の人じゃないでしょ?服装が見慣れないもの。民族衣装?さっきの魔法はどうやったの?」


出会ったばかりで質問責めに合いたじろいでしまう。


「これは民族衣装とはちょっと違うけど………まあそういう見方も出来なくはないかな。それと、あれは魔法とは少し違うの。似たようなものだけどね。」


「そうなんだ。でもすごいよ!ところであかねちゃんはこんな森ん中で何してんの?」


「うん……友達とはぐれちゃって………知らない土地で道もわからなくて困ってたら、熊に襲われて………」


「ふうん………なんだか大変そうね。どこに行くつもりなの?」


「どこって事はないんだけど…………」


まさかタイムスリップして来たとは言えない。

言ったところで信じてもらうのは難しいだろう。


「何?行き先もないわけ?呆れた〜。じゃあ宛もなく旅して来たの?」


「ま、まあそういう事になるのかな。ハハ…………」


「………………ねぇ、だったら私と一緒に行かない?私ね、王宮に仕えたくてこれから士官試験を受けに行くの。一人で退屈してたし、町に行けばあかねちゃんの友達も見つかるかもよ?」


そんな簡単に羽竜と蕾斗を見つけられるとは思わないが、でも確かに町に行けばあの二人の事だし派手な事をしていれば情報くらいは入るかもしれない。


「じゃあお願いします。」


「よっしゃ!決まりだね!」


メグから手を差し出し握手を求める。

あかねも心よく応える。

こうしてメグ・ベルウッドとあかねの旅が始まった。

















悪魔の能力のおかげで、ダイダロスに受けた傷は塞がった。

痛みは多少残ってるが、戦いに差し支えるほどではない。


「さて、これからどうするか…………」


虹原絵里はタイムスリップしてから数日、辺境の村で身体を休めていた。

絵里が受け継いだバルムングの記憶にはこの時代の情報がある。

それを頼りに行動するしかない。

行動と言っても、彼女はダイダロスを探している。

だからやるべき事はわかっている。

ただ疑問も残る。自分の追っているダイダロスは正確にはライト・ハンドだ。

ここが実にややこしいところで、記憶を受け継ぐという事はその人物そのものと同じ事。

ならば、この時代にダイダロスが二人存在する事になる。

この時代のダイダロスに会っても仕方ない。

絵里の頭の中はごちゃごちゃだ。

ダイダロスに限らず、自分にも言える。この時代にはバルムングも存在しているのだ。


(でも私は私だし、バルムングに会っても何も関係ないのかな?)


こういう話はヴァルゼ・アークに聞くのが一番なのだが、今はそうもいかない。


(悩んでても始まらないわ。魔導書を手に入れるなら魔導書を書いた本人に会えばいい話。ダイダロスもきっとそうするだろうし。願うのはまだダイダロスがオノリウスと接触していない事だけね。)


鎧を纏いバルムングとなる。


「考えてみれば面白い話ね。過去へ来たなんて。それも千年も前に。」


虹原絵里としての感覚で言っている。


「待ってなさい、ダイダロス。貴方には返さなきゃいけない借りが腐るほどあるんだからね。」


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