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第四章 過去へ

「羽竜君!しっかりして!」


身体を揺さ振られ瞼を開けるとそこに蕾斗とあかねがいた。


「ら…蕾斗………吉澤……」


「よかった……意識あって……」


泣き虫なあかねは羽竜の無事を確認すると啜り泣く。


「ダ………ダイダロスは……?」


「ダイダロス?」


羽竜が口にした名前が聞き慣れない名前だったので、蕾斗は首を傾げる。


「トランスミグレーションを造った野郎だよ。」


なんとか痛みに堪えながら起き上がってベッドに腰掛ける。


「ああ…確かそんな名前だったね。でもそいつがどうかしたの?」


ツーカーで通る内容の話じゃない。

面倒に思いながらも蕾斗とあかねにわかるように説明する。


「………生きてたんだよ。」


「「えっ!?」」


二人が羽竜の顔を見つめて何を言ってるのかちゃんと聞こうとする。

ひょっとして頭でも打っておかしくなったんじゃないかとさえ思っている始末だ。


「正確には悪魔と同じように剣に記憶と力を宿して、不死鳥族の奴に与えたみたいだ。よくはわからないけど………」


「羽竜君が気絶してたところを見ると、相当の実力の持ち主みたいだね。」


「ああ。トランスミグレーションが役に立たないからな。」


蕾斗の不安を更にあおってやる。

わざとではないにしても、このシチュエーションでは悪意にも取れる。

まんまと蕾斗の不安は煽られた。


「どういう事…………?」


「トランスミグレーションを造ったのはダイダロスだ。だからそのダイダロスの前ではトランスミグレーションは機能しないらしい。現に、いつもなら重さを感じないほど軽いのに、今日はただ重いだけだった。俺の呼び掛けにも応えてくれなかったしな。」


無造作に転がるトランスミグレーションを三人はただ黙って見つめる。


「ねぇ、レジェンダはどうしたの?それに天井の血………羽竜君はそんなに出血してないよね?」


あかねに言われるまで気付かなかったが、白い天井が一部真っ赤に染まっている。


「あれはバルムングとかいう悪魔のだよ。」


「悪魔?千明さん達が来たの?」


「いや、バルムングって奴一人だった。フラグメントを悪魔からダイダロスが奪ったらしい。それと、俺のも………」


自分が持っていたフラグメントが奪われた事を申し訳なさそうに伝える。

蕾斗もあかねも想像はついていたし、羽竜が持っていて奪われたのなら仕方がない。

だから責める気はない。


「じゃあダイダロスが全部集めたんだ………」


蕾斗も事態が最悪の展開になっていると言わんばかりの口調で言った。

悪魔と羽竜から奪っても七つ。

でも羽竜のうなだれ方を見るとダイダロスが残り一個を所有していたのだとわかった。

そしてそれが意味する事も。


「で、レジェンダは?」


姿の見えないレジェンダをあかねが案じる。

いつも神出鬼没な存在だから案じるような事はないのだが、虫の知らせとでも言おうかあかねに何かが信号を送っている。


「そこにある銀河がレジェンダだよ。」


目で見る先に小さな銀河がある。とても綺麗でゆっくりと息をするように動いている。


「これが………?」


あかねは恐る恐る近づいてよく見てみる。


「フラグメントは八つ揃ってマスターレジェンドになったんだ。でも魔導書の封印してある場所が…………過去らしいんだ。」


「なんだかややこしい話になって来たね。」


不謹慎にも蕾斗に好奇心が芽生える。

この手の話は蕾斗の大好物だ。

そわそわしないわけがない。


「ダイダロスが言ってた事だから俺にはよく理解出来ないけど、オノリウスは魔導書を『場所』に封印したんじゃなくて『時間』に封印したらしい。『場所』なら封印してある場所に行けば済む話だろ?そうじゃなくて、『過去』に置いてあるまんまとかなんとかでとにかくその銀河が過去へ行くゲートになってるみたいなんだよ。」


説明しているうちにだんだん頭が混乱してきてこれ以上は上手く説明出来ない。


「じゃあ……レジェンダは死んだの?」


「わからない。」


あかねの不安を振り払ってやる事は残念だけど不可能だ。

羽竜自身レジェンダがゲートだったという事しかわからないし、死んだのかと聞かれても正直何もわからない。


「…………どうするの?」


蕾斗は一言しか言わないが、説得するつもりはない。

やる事は最初から一つしかないのだから。


「行こう。本当に過去に行けるのかわからないけど、何をどうすればいいかわからないけど、ダイダロスを追うんだ。奴に魔導書を渡すわけにはいかない。その為に戦って来たんだからな。」


「でも羽竜君、もし過去へ行けたとして………戻って来れないかもしれないんだよ?」


「吉澤、こればかりは自分自身の責任で決めてくれ。別に来なくても恨みっこなしだ。」


あかねは迷っている。

過去へ行ける保証もないし、戻って来れる保証もない。

わからない、知らない、そればかりの戦いに果たして身を預けていいものか?


「僕は行くよ。」


「蕾斗…………いいのか?生きて戻って来れないかもしれないぞ?」


「今更でしょ。」


拳を握りやる気を示して羽竜を安心させる。


「わかった。吉澤は?」


「…………………………………………………………行く。」


ボソッと呟く。


「無理しなくていいんだぜ?」


「だって!羽竜君と蕾斗君だけ行かせるわけにはいかないわよ。私だって…………怖いけど、ダイダロスが魔導書を手にすればもっと怖い思いをすると思うし………」


「よし!決まりだな!どうなるか誰にもわからないけど、行こう!過去へ!!」


「うん!行けばなんとかなるよ!」


「…大丈夫かなぁ…………」


羽竜と蕾斗はさすが男の子というべきか、覚悟さえ決まってしまえば後は野となれ山となれになる。

三人は同時に銀河に手を触れる。

透き通っていく自分達の身体を最後まで見届け、そして…………過去へ行く。

















「間違いなく絵里ちゃんのね。」


戸川純は羽竜の部屋の天井に残る血液から絵里のオーラを感じ取る。


「どこまで世話を焼かせる気なの………」


妃山千明は絵里を案じるあまりつい苛立ってしまう。


「羽竜の話を聞いてたな?ダイダロスはマスターレジェンドを使って魔導書を手に入れる為過去へ行ったらしい。ここに絵里がいないのは、ダイダロスを追って過去へ行ったのだろう。」


十畳もある羽竜の部屋も、大人が十三人も集まれば狭苦しい。

 ヴァルゼ・アークが部下に状況説明をする。


「お願い……絵里姉様、私達が行くまで無事でいて……」


新井結衣が手を組んで絵里の無事を願う。


「でも一体どういう理屈で魔導書は過去に置いてあるままなのでしょうか?目黒羽竜の説明ではイマイチよくわかりませんでしたが。」


知的探求心に負け、仕組みを解きたがっているのは岩瀬那奈。

ヴァルゼ・アークに答えを求める。


「レジェンダは魔導書の番人として肉体が朽ちても、存在まで消える事がないように魔法をかけられていた。だが、レジェンダ自身は魔導書の在りかは知らなかったはずだ。」


「…………と、言いますと?」


「魔導書をどこかの『場所』に隠してしまえば、フラグメントを集めなくても封印が破られる可能性は十分にあった。そしてその『場所』はレジェンダを探せばバレてしまう。魔導書を求める者にすればレジェンダの気配を探して当てる事など造作ない。それらを防ぐ手段として、おそらくは千年前という『時間』…………この場合はレジェンダの『記憶』と言った方がいいな、そこに魔導の力で封印したんだろう。」


「難しい理屈ですね……」


「つまりこういう事だ、一般に言われるようなタイムスリップは存在しないんだよ。時間をさかのぼるなんて妙技は有り得ない。なら過去へ行くという事はどういう事か?それは記憶の中へ入る事だ。未来の記憶なんてものはない。記憶は全て過去のもの。そこへ行く事こそがタイムスリップの本質なんだよ。オノリウスはそれを知っていた。だからレジェンダの記憶の中に魔導書を封印したんだ。守っている番人が守っている物の在りかを知らず、それが番人自身の中に在るというのだから…………オノリウスめ………やってくれたな。」


「記憶と時間は関係があるんでしょうか?」


「これは俺の推測だが、記憶という抽象的なものに魔導をかけて時空間という、より具体性のあるもなにしたんじゃないか?だから肉体が朽ちてもレジェンダは存在出来たんだ。彼自身が過去の時間なのだからな。」


「学会で発表したらノーベル賞ものですね。」


那奈にもなんとなく理解出来た。

ヴァルゼ・アークの推測が正しいかどうかは関係ない。

それで説明がついてしまえばそれが答えなのだ。

実際のところはオノリウスにしかわからない事なのだし。


「さあ、お喋りは終わりだ。俺達も行こう………過去へ。」


「「はいっ!!」」


インフィニティ・ドライブはすぐそこに在る。

ダイダロスよりも先に手に入れなければ全てが水の泡と化してしまう。それだけは防がなければ。もちろん絵里の事も考えている。

 十二人の返事を聞くとヴァルゼ・アークが銀河に触れる。


千年前………そこはかつて『自分達』が生きていた場所。


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