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第三十四章 オノリウスの魔導書(前編)

羽竜とベルフェゴール千明の戦いは、断然羽竜の方が圧していた。

ベルフェゴールは無数の傷と、体力の消耗によってかなりきつい状態にある。

ただ、羽竜にベルフェゴールを殺す気が全く無いので生きていられるだけであって、その気があればとっくにやられてしまっているだろう。


「降参しなよ、千明さん。」


「残念ねぇ…………降参するくらいなら、死を選ぶわ。くす。でも、まだそれも早いわ。くっ…………」


「もう無理だよ。悪魔の治癒能力がどんなに優れていても、トランスミグレーションで傷付いた身体はどうにもならないんだろ?俺は千明さんを殺したくないんだ。」


「まぁ………随分甘いお誘いねぇ。ハー君がどんなに私を想ってくれても、私は貴方を殺すわよ?くすくす。」


なんとか頑張って笑顔を見せているが、ベルフェゴールに後が無い事は一目瞭然だ。


「さあ………早く来なさい。どちらかがイッてしまうまで、戦いは終わらないのよ。」


彼女の表情は苦痛で笑っていない。立っているだけが精一杯のベルフェゴールに対して、戦う気など失せてしまった。


「やめるよ。」


「え?」


「動けないんだろ?そんな人を相手にする気はないよ。」


「バカにしないで……情けをかけてもらう筋合いはないわ。」


「そう怒んないでよ、千明さん。あんたを今ここで殺しても、何の得にもならない………」


話の途中でふと視界に青紫の光の柱が入る。

羽竜の視線を追うようにベルフェゴールも横を向く。


「フッ………どうやら誰か何かを見つけたみたいだね。」


「まさか………魔導書……?」


「千明さん、悪いけど今日はここまでだね。続きはまた今度!」


そう言うと羽竜は、一目散に光の柱を目指し走り出した。


「ちょっ…………ぐっ……」


羽竜がいなくなって気が抜けたのか、その場に座り込んでしまう。


「フフ…………やってくれるじゃない。完敗だわ。」


痛む身体も心地よく感じるのは、満足出来る戦いだったからこそ。


「次は負けないからね、ハー君。くすくす。」

















「蕾斗!!セイラ!!リスティ!!」


息を切らしながら羽竜が駆けて来る。

光の柱の前に三人がいる。それは魔導書の手掛かりを見つけた事を羽竜に思わせた。


「魔導書を見つけたのか?」


「ううん。水晶だよ。ほら。」


羽竜に回りくどい説明は無用だ。蕾斗がリスティから水晶を取り上げ、羽竜に見せる。


「これが………魔導書?」


「だから違うって。とりあえず光の中に入れるみたいだから、急ごう!」


羽竜へのツッコミもほどほどに、蕾斗が全員に促す。

それに合わせたかのように、ジョルジュ、あかね、メグも駆けて来た。


「どうやら今回は俺達の勝ちみたいだな。」


後から来た三人を見れば、わざわざ結果を聞くまでもない。羽竜の言葉にみんなから笑みが零れる。


「羽竜君、まだ勝利したとは言えないわ。魔導書を手にしたなら別だけど。」


最後まで気を抜かない辺りがあかねらしい。

朗らかなあかねも、戦いが始まってしまうと、スイッチが入るらしく、凛々とした性格に変わるみたいだ。


「ぐずぐずしてる暇はない。急ぐぞ!」


状況の説明は聞かなくともわかるのか、ジョルジュが先頭に立ち『歪み』の中へみんなを先導する。


「鬼が出るか蛇が出るか……」


「蛇は出たから、次は鬼でしょう?ま、覚悟はしなきゃね。」


せっかくかっこよく決めようとした羽竜だったが、メグにあっさりお株を取られてしまった。


「鬼で済めばいいけど。」


一言置いてセイラも中へ入って行く。


「なるべくなら小さい鬼の方がいいかな。」


蕾斗がセイラに続き、次にあかね、リスティが『歪み』の中へ消える。

最後に残された羽竜も慌てて後を追う。


「お、お前ら!俺が主人公だぞ!!置いていくな!!」


それを一部始終見ていた者達がいた。


「ベルフェゴール達はやられたようですね……」


少し不機嫌な様子で、ベルゼブブが『歪み』に消えた羽竜達を見ていた。


「でも死んではいないでしょう。あの子達は慈悲の塊のような存在ですから。」


アシュタロトが、まだ微かにベルフェゴール達のオーラを感じる。

羽竜達がとどめをささなかった事が伺える。


「どんどん強くなっていきますのね、終焉のボウヤは。」


グングニルにもたれ、ルシファーが恨めしげに言う。


「目黒羽竜だけではないわ。彼の仲間達も強くなって来てる。藤木蕾斗、吉澤あかねも。危険ね。」


ジャッジメンテスの不安は、三人の力が未知なものだという事にある。

対処しきれなくなる前に、なんとかしたい。ただヴァルゼ・アークがまだそれを許可しないのだ。

流れで彼らが死んでしまうには問題ないらしいが、敢えてこちらから命を奪う事は避けたいらしい。その理由もまだ聞かされていない。

だからこそ野放しの羽竜達に不安が募る。


「面倒だから殺っちゃえば?どうせ殺るんでしょ?そのうち。」


面倒くさがりのサタンには、指示待ちというのが性に合わない。


「サタン、口を慎みなさい。」


ベルゼブブが一喝する。


「ここで手をこまねいても始まらないわ。彼らの後を追いましょう。魔導書はすぐそこよ!」


ジャッジメンテスが『歪み』に突入するよう指示を出す。


「おーほっほっほっ!奪ってやろうじゃない。オノリウスの魔導書!」


「手柄の横取りは反対しますよ。」


先走りそうなルシファーに、一応アシュタロトが釘を刺す。

ジャッジメンテス達は、躊躇う事なく羽竜達を追う。

そこに魔導書があると信じて。


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