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第三十二章 雨ざらしの叙情詩

「『ただ』の人間にしてはすばしっこいわね、随分と……」


過去の記憶にメグはいない。

そんなに有名な戦士ではないのだろう。それなのに、人間離れした素早さはなんなのか?


「ナヘマーとか言ったっけ?悪魔のわりには思ったほど強くないのね。」


ナヘマーの目つきが険しくなる。

女同士が争い事をすると、まず最初に皮肉の言い合いから始まるのが定石だ。それに、ナヘマーが手を焼くほどの素早さという事は、『ただ』の人間ではないと考えるのが筋だろう。

剣の腕だけでは、悪魔はどうにかなる相手ではない。

そして、さっきから感じる危機感。悪魔と一言で言っても、ナヘマーは上級悪魔。天使の持つイグジストか、羽竜の持つトランスミグレーション、もしくは魔導、それに近い力を持ってしか倒される事はない。

ましてメグには必殺技を持っているわけではない。なのに、何故か危険信号のようなものが、ずっと頭の中で鳴り響いている。


「まだ本気じゃないんでしょ?早くホントの力見せてよ。ナヘマー……私のカルブリヌスが物足りないってよ。」


「(カルブリヌス……?どっかで聞いた言葉ね………)まさか!!」


「続けるわよ!」


何かに気付き、ナヘマーが隙を見せた。

何に気付いたのかはメグには関係ない。カルブリヌスを地面にこすりつけ火花を散らす。


「てやあああああーーっ!!」


メグの声でナヘマーが我に返る。


「くっ………!」


オリハルコンを交差させてカルブリヌスを受け止める。


「ボヤっとしてると危ないんじゃない?」


「人間のくせに生意気な!」


ナヘマーはカルブリヌスを受け止めたまま、両足を地面から離してメグの足元までカルブリヌスの刃を伝って移動、鎧を着ていない彼女の腹に肘を入れる。


「………………!!」


声にならない痛みで、迂闊にも膝が落ちてしまう。


「………思い出したわ、カルブリヌス…………円卓の騎士の一人が所有していた剣の名称。私の直感が危険を察知するわけだわ。」


「円卓の………騎士?それって………」


「知ってるみたいね。そうよ、古代ブリテンの王、アーサー王が所有していた、所謂いわゆる選定の剣………別名エクスカリバー。どうして貴女が持ってるの?」


「エクスカリバー…………カルブリヌスが?」


先祖は名のある騎士だとは聞いていたが、まさかアーサー王だとは思いもしなかった。

確かに、極端なまでの手入れをしなくても、何百年もその輝きと切れ味を保って来た剣だ。

普通の剣と違う事くらいはわかっていた。


「答えて。選定の剣、エクスカリバーをどうして貴女が持ってるの?」


「これは………私の家に代々伝わる剣。先祖が使っていたとしか聞かされてないから、詳しくは知らないけど……」


腹を押さえながら立ち上がる。

まだダメージは残っているのが、立ち上がり方でわかる。


「アーサー王の子孫ってわけ?信じられない………アーサー王の血は途絶えたとばかり思っていたのに……」


ナヘマーの言葉は、彼女がアーサー王を知っている以上の何かを臭わせる。


「驚くところを見ると、アーサー王と何かあったみたいだけど?」


「フン……あったも何も、彼を殺したのは私よ。」


断っておくが、新井結衣としての言葉ではなく、魔人ナヘマーとしての言葉だ。


「エクスカリバーを手にしたアーサー王は、無敵を誇りその力をまだヨーロッパの辺境だったブリテンにその名を轟かせるに至った。更なる領土を求めようとした時、彼は私達悪魔を倒す事で英明を確固たるものとし、血を流す事なく領土を奪う事を思いついたの。違う言い方をすれば、アーサー王は人を傷つける事を本心では嫌っていた。だから人間じゃない私達悪魔を見せしめにして、その力を示そうとしたのよ。手っ取り早いものね、悪魔を倒すほどの力を持つ者に刃向かう者なんて、そうはいないもの。」


「真実なの?………今、貴女が言ってる事。」


「ええ。異説が色々あるのは私達と彼しか真実を知らないからよ。親友のランスロットがアーサー王を裏切ったって説、あれね、私がランスロットに乗り移って殺したのよ。ランスロットはアーサー王の妻、グウィネヴィアに恋をしていたから、付け入るのは簡単だったけど。」


円卓の騎士伝説はメグも知っている。皮肉にも、伝説の当事者の血を引き、先祖を殺した者が目の前にいる。

運命を感じずにはいられない。


「卑劣な………」


「卑劣はアーサー王も同じよ。人間でなければ……見せしめにしてもいいなんて勝手な解釈で天下を取ろうとしたんだもの。他人の領土は取りたくても自分のものだけは取られたくない。伝説に相応しいだけの器は無かったわ。」


もう一つ気付いた。話に熱くなっていたから気付かなかったが、いつの間にか雨が降っている。それに気付いたのは、メグの髪、服が濡れてきたからだ。


「こんなところで………自分の先祖を知るなんて思いもしなかった。」


「有名人でよかったじゃない。あの時、アーサー王の血縁は根絶やしにしたつもりだったけど。それに、エクスカリバーまで残ってたなんて。どこを探しても見つからなかったのに。」


「誤算だったわ…………」


「ええ、誤算だったわ。でもまた始末すればいい話。たいしたことないわよ。」


「貴女の事じゃない………誤算だったのは私自身。」


雨に打たれ冷えてる身体から湯気が立つ。

メグから怒りの感情を感じる。


「こんなに感情的になれるなんて…………それも、会った事もない先祖なんかの為に……」


「………………いいんじゃない?それくらい熱くなきゃ、『人』とは言えないものね。」


ニヤつくナヘマーの顔を見て、メグの怒りは沸点に達した。

そしてカルブリヌス…………もとい、エクスカリバーをナヘマーに向け宣戦布告する。


「別に先祖に対して思い入れはないけど、貴女の卑劣極まりないやり方は許せない!」


「いっそ、先祖の敵討ちも兼ねてみたら?あんたの怒りの炎共々、消してあげるわよ!」


オリハルコンを逆手に持ち、身体を低く構える。


「消えるのは貴女の方よ、ナヘマー!!覚悟っ!!」


「フン…………やっぱり生意気な奴。死ねっ!!ハウリング・ハーモニクス!!」


 人は………どこまで強くなれるのか……。

メグにとって、最大の試練は訪れた。


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