第三十章 破壊の責任
ジョルジュはエアナイトの能力をフルに使ってアスモデウスに対抗出来ている。
あかねよりも長い時間未来を読める。長いと言っても一秒程度だが、それでもあかねが一手先しか読めないのに対して、ジョルジュは二手三手先まで読める。この差は大きい。
かと言って、アスモデウスがジョルジュに押されている気配はない。
「面倒な奴ね、エアナイトって。」
先を読まれている以上、更にその先に行かなければ勝負にならない。
それはわかっているが、元々剣の腕が立つジョルジュの先に行くのは労力のいる仕事だ。
「お前達に魔導書を渡すわけにはいかないのでな。」
パラメトリックセイバーを下段に構え横に動きながら、アスモデウスを観察している。
「魔導書の在りかもわからないくせに…………」
アスモデウスは崩壊したバベルの残骸が邪魔で浮遊する。
フワリと浮いた彼女が閉じていた翼を広げる。
翼と言っても、背中に後ろに向かって一つしかない。
顔はフルフェイスで表情までは見てとれないし、その両肩にはシールドがあって、防御に優れているのは想像に苦しくない。
「破壊神………お前達悪魔は魔導書で何をしようというのだ?」
「さあ?」
「さあ?何をするのかわからなくて魔帝に従っているというのか?」
「そうよ。ヴァルゼ・アーク様が何をしようとなさってるのかなんてレリウーリアの誰もわからないわ。」
あっけらかんとした態度がジョルジュには一瞬、恐怖に思えた。
悪魔だから人間と考え方が違うのかもしれないが、何をしようとしているのかわからないものに従うほど恐ろしいものもない。
「それと知らないみたいだから教えてあげるけど、魔導書を手に入れてもそれだけでは何の役にも立たないのよ。」
「聞いたよ、羽竜達に。インフィニティ・ドライブ………だったかな?無限を操る力………その力を手に入れる方法が記されている。それが魔導書だ。」
「な〜んだ、知ってたの?だったら話が早い。無限を操るなんて力を手に入れてする事なんて、決まってるじゃない。」
「…………………。」
「わからない?世界征服なんてちっぽけなものじゃなくて、例えば全てを破壊しちゃうとか?」
「そして悪魔だけが存在して、魔帝の統治する世界を創造すると?」
「まあ、私の推測ですけど。」
「くだらない……もし魔帝がそんな事を望んでいるとしたら、実にくだらない。」
「言ったでしょ?推測だって。もしかしたらそれを望んでるのは私かもしれない。ヴァルゼ・アーク様と仲間達だけの世界。百年後も、一万年後も、そこには私達以外誰もいない理想郷。インフィニティ・ドライブならそれも可能でしょう。」
話してみれば、意外にもレリウーリアには組織としての基礎が無い。
組織の基礎とは、所属する者達が目標とするものが必ずある。
例えるなら社訓のような。
基礎が無いのに、建物は崩れる心配が無い。これは建物自体が、自分で必要外の力を逃がして立ち続ける事が出来ている証だ。加わる力が強ければ強いほど、仕組みが際立つ建物。
まさに理想的組織とも言える。
人間には不可能な事だが。
「破壊と創造………常に表裏一体だという事か………。」
「避けられない試練みたいなものよ。賢いジョルジュさんならわかるでしょ?」
フルフェイスでこもってるアスモデウスの声が響く。
「でもさ、創造は生み出してしまえば勝手に育って行くものだけど、破壊はそれまであったものをゼロにするんだから、その責任は創造の比ではないわ。」
「アスモデウス、ならばお前にはその責任を全うする覚悟があるというのか?」
「あ〜〜やだやだ。堅苦しいのよ、あんた。仮にも破壊神の名を持ってるんだもの、覚悟が無ければ語れないわ。」
そう言うと、フルフェイスを脱ぎ、放る。
「本気で行くから。」
アスモデウスの翼から緑色の粒子が放出されて、ブーストがかかったようにジョルジュに向かって加速する。
対するジョルジュも、バベルの瓦礫を蹴り上げアスモデウスに立ち向かう。
「受けて立とう!破壊神アスモデウス!」