第二十八章 雲の上の戦い(後編)
でかいのはわかりきっていた事とはいえ、間近で見るとその迫力には驚かされる。
魔帝へと変身をし、戦闘準備は万端だ。
ミドガルズオルムは四つの目でヴァルゼ・アークを見ている。
彼の殺気を感じ、警戒しているのだろう。
「爬虫類は苦手だが、ここまででかいと苦手意識も無くなるな。」
見事なまでの存在感に感服する。
「時間がない。始めるぞ…………ミドガルズオルム!!」
「何をお探しかしら……?目黒羽竜君?くすくす。」
「千明さん!!」
羽竜達の前に優雅に歩き現れる悪魔が四人。
ベルフェゴールを人間時の名前で羽竜が呼び、戦いを避けられない事を知る。
「お喋りもいいんだけどねぇ…………久しぶりに一戦交えてみようかしら?ねぇ…………ハー君。」
ベルフェゴールがロストソウル・ブルーノイズを具現化する。
「なら私はジョルジュ・シャリアンを指名しようかな。」
アスモデウスはバベルで半端になったジョルジュとのバトルを熱望する。
今回も場合によっては半端になる可能性は大だ。だが一時間でケリをつけても文句は言われまい。
「アスモデウス………今度は逃がさんぞ!」
ジョルジュとて望むところ。
パラメトリックセイバーを静かに鞘から抜く。
「誰が逃げるって?口には気をつけてね、ジョルジュ。」
ロストソウル・細剣オメガロードを突き付け威嚇する。
「お姉様達はいつも勝手に決めちゃうんだから!私にだって戦う相手を選ぶ権利はあるのに!」
ぶすくれるナヘマーを宥めるのも『お姉様』たる仕事なのだろう、ベルフェゴールがナヘマーの頭を軽く叩きながら聞き分けるように宥める。
「わがまま言っちゃダメよ?レリウーリア(うち)は年功序列なんだから。くすくす。」
「司令に言ってやるのです。」
脇にいたシュミハザがぼそりと、地味だがかなり効きのいい言葉を呟く。
「だ、ダメダメ!いい子だから今私が言った事は忘れなさい!ね?」
あたふたあたふたするベルフェゴールを見る限り、司令………ジャッジメンテス(仲矢由利)の前で歳に関する言葉は禁句らしい。
「あはははは!シュミハザも言うようになったじゃない!偉い偉い!どこで覚えて来たの?」
ベルフェゴールとシュミハザのやり取りに、アスモデウスが腹を抱えて笑う。
「私は吉澤あかねを殺るのです。」
アスモデウスを無視して、シュミハザはあかねの前に立ちはだかる。
「あ……お〜い、無視するな〜。」
「人の事言えないわねぇ………くすくす。」
シュミハザより一回り近く年上のアスモデウスもベルフェゴールも、いいようにやられてしまう。
そしてあかねは、シュミハザの挑戦状を受け取った。
「殺れるものなら殺ってみなさいよ。」
「吉澤……?」
あかねはシュミハザに対してやたらと敵対心を持っている。
羽竜がシュミハザに好意を抱いているのではと疑っているからだ。
あかねのあまりの強気振りに、羽竜も対処方法がわからない。
「なら貴女は私が相手してあげるわ…………オマケ女さん。」
誰に影響されたのか、メグはナヘマーを挑発する。
「…………あんた、いい死に方出来ないわよ?」
ナヘマーが二本のダガーのロストソウル・オリハルコンをくるくる回して、メグを殺意のこもった視線で睨み付ける。
「蕾斗、ここは俺達が引き受けるから、セイラとリスティを頼む!」
「わかったよ、羽竜君!二人は僕が!」
蕾斗は魔導書を探す為、セイラとリスティを連れてその場から離れる。
「くす……しばらく見ないうちに、いい連携するようになったじゃない。ゾクゾクしちゃうわ………手加減は無しよ、ハー君。」
ベルフェゴールの真剣な表情は初めて目にする。
羽竜をナメてない証拠だ。
こういう相手は手強い。トランスミグレーションを持つ左手にも、いつもより力が入る。
「殺すつもりで来なさい。」
言い放ち、ゆっくりブルーノイズを構えるベルフェゴール。スローモーションのようにゆらりゆらりと。
しばらく睨み合いがあった。そして、ベルフェゴールが飛び出す。それが合図となり、ナヘマー、シュミハザ、アスモデウスも飛び出した。
相成って、羽竜達も飛び出す。
雲の上が激しく光る。その光に一瞬照らされ、それぞれ互いの位置確認は出来た。
「みんな、負けないで!!」
セイラの檄を受け、仲間達は悪魔に戦いを挑む。