第二十六章 選択肢
羽竜達は互いに起きた事を説明し合っていた。
羽竜とセイラはバベルでの事を、蕾斗はレリウーリアとの数日間の事を、あかねとメグはエルハザードとサマエルが現れた事を。
話に繋がりがないから説明するのが面倒だったが、全員が納得出来る形にはとりあえず収まったようだ。
「魔導書は結局なかったんだ………」
あかねが太陽の出ない空を見上げて言った。
まだミドガルズオルムは空をうろついている。
おかげで今が昼なのか夜なのかわからない。
ミドガルズオルムの身体は世界を闇に包んでいた。
「オノリウスもいなかったし、ミドガルズオルムは現れるし、もうわけわかんねーよ。」
愚痴を零す羽竜を誰も諭す事はない。気持ちは皆同じだろう。
「セイラ様?」
少し離れた場所で一人佇むセイラを気にかけてジョルジュが声をかける。
「ご気分でも優れませんか?」
視界に入って来るのは一面の焼け野原と、ミドガルズオルムの身体だけ。
絶望感がセイラを抱いていた。
「私は………人間じゃない………世界のバランスを保つバランサー。父上は知っていたからバベルに近づくなと言ってたのね。」
「何をおっしゃいます!セイラ様はフランシア国の王妃、れっきとした人間です!」
「ありがとう、ジョルジュ。でもそれは間違いよ。魔帝が言っていた事が事実だと思うわ。」
口で言っているほど受け止めてはいない。
悲愴に溢れたセイラを見てるのは、忠誠を誓った騎士にはつらいものがある。
「…………笑い、泣き、歌い、怒り、悲しみ、そして苦しむ。私は貴女のそれら全てを見て来ました。貴女は紛れも無い人間です。羽竜達も私と同じ想いだと思いますが?」
「ジョルジュ……………」
「しかし、不思議な奴らです……羽竜の強さといい蕾斗とかいう者の浮遊術、あかねのエアナイトの能力……何者なんでしょう、彼らは?」
ジョルジュの一番の興味はあかねにあった。
一子相伝のエアナイトの能力を自分以外にも持っているあかねの素性が気にかかる。
「何者かしらね。ひょっとしたら救世主かもよ?」
実際セイラはそう思い始めてる。人が持つには、三人の能力は過ぎた力だ。ジョルジュも例外ではない。
「メグはどうお思いですか?彼女には羽竜達のような特別な能力はありませんが、あの身のこなしは人間技とはとても思えません。それとあの剣、造りを見るからにそれ相応の騎士が使用していたのだと思われますが…」
「カルブリヌス………どこかで聞いた事があるのよね……」
剣に名前があるくらいなのだから、有名である事は自ずとわかりうる。
ただメグ自身も自分の祖先が何者なのかわかっていないようだし、追求する気もない。
今はまだその存在すら明確にされていない魔導書を探すのが先だ。
自分が世界のバランサーだという事も心に引っ掛かるが、もはや一刻の猶予もない。
闇十字軍レリウーリア、薄紫の髪をした眼帯の男、天使の軍隊エルハザード、ミドガルズオルム、一筋縄ではいかない相手ばかりがセイラ達を待っている。
彼らより先に魔導書を発見出来なければ、世界のバランスを取るどころではなくなってしまう。
もっとも、世界のバランサーなんて言われたところで、バランスを取る方法なんて知らないが。
「よう、二人とも何暗い顔してんだ?」
羽竜が真紅の剣を肩に乗せて歩いて来る。
短い時間の間にコロコロと変わる性格はいかがなものか疑ってしまう。
暗い顔をしたくなくてもしなければならない状況を、羽竜はどう思っているのか?
多分、なんとかなるって言われそうな気がする。
羽竜の後に続くように有能な少年少女が三人、笑顔を見せている。
「セイラ、ヴァルゼ・アークの言ってた事なんか気にする必要ねーよ。」
「羽竜…………」
「お前はお前だよ。俺が保証する!」
不思議と、羽竜にそう言われると安心してしまう。
「ほら、言った通りではありませんか。」
ジョルジュが微笑み、らしくないウインクをして見せた。
「フン…………あんたに保証されても嬉しくないわ!せめてもう少し礼儀を学びなさい!」
素直に嬉しさを表現出来るほど器用な性格はしてない。
だからつい反対の反応をしてしまう。
「な………馬鹿姫!人が下手に出てりゃあ調子に乗りやがって!」
「馬鹿は余計よ!馬鹿は!だいたいあんたはデリカシーが無さ過ぎなの!」
「それはしょうがないよ、姫様。羽竜君にデリカシーが備わったら天と地がひっくり返るよ。」
面白おかしく蕾斗が茶々を入れる。
「蕾斗!てめぇ、どっちの味方だ!」
「だってホントの事だもん。」
「くぉのやろー!久しぶりに会えば減らず口叩きやがって!」
「痛い痛い!」
いつもの如く蕾斗のこめかみをぐりぐりと拳で『刺激』する。
「もう!やめなよ二人とも!」
あかねが身内の恥を晒すようで恥ずかしがる。
「あはははは!」
あかねが加わった事で余計おかしくなり、メグの笑いのツボを突いてしまう。
「やれやれね。」
呆れた様子でも、セイラの心は幾分楽にはなっていた。
「それにしても、我々はこれからどうしたらいいのか……」
今の状態では選ぶ道すら無い。行動の選択肢が無いのがこうも苛立つものとは、ジョルジュにも初めての経験だ。
目標のバベルの塔は崩壊、魔導書の在りかを示すようなヒントも浮かんで来ない。
「…………………そうだ!!」
何かを思いついたように突然ジョルジュが叫んだ。
「な、なんだ?」
羽竜もびっくりして蕾斗への攻撃の手を止め、全員の視線はジョルジュへ注がれる。
「あいつなら……あいつなら何か知ってるかも知れん!」
「誰?あいつって?」
ジョルジュが声を上げてひらめく様をセイラは見た事がない。まして知り合いの話など聞いた事もない。
「この近くに私の友人がいます。この戦乱で生き残っているかはわかりませんが、会いに行く価値はあります!彼なら何か知ってるかもしれません!」
「だから誰なの?」
いらついた様子で腕を組み、セイラがジョルジュに迫る。
羽竜、蕾斗、あかねは直感で感じるものがあった。
「我が親友、リスティ・バレンタインです。」
「「「リ、リスティ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」」」
三人がリスティの名を聞いて驚いた理由など、セイラ達に知る由しもない。