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第十九章 レ・ミゼラブル

羽竜達はバベルの塔の前まで来ていた。

近くで見ると、どこまでも伸びる塔の存在感に飲まれてしまいそうになる。


「何階あんだよ…………」


塔に来たからには、求めるものはてっぺんまで行かなければならないだろう。

それを考えれば羽竜のぼやきも納得出来る。


「国王はここへ何をしに来たのでしょう?」


ジョルジュがセイラに聞く。

彼女もわからないのを知って。

だから返事は決まっている。


「調査としか聞いてないわ。ホントに興味がなかったの。こんな事ならもっと詳しく聞くんだったわね。」」


「羽竜、魔導書はバベルの塔にあるというのは間違いないんだな?」


次の質問の答えは羽竜に求められた。

天使と悪魔も魔導書を狙って戦っていた、そしてこの時代でも天使と悪魔は現れた。そして魔帝はバベルの鍵を探していたところを見ると、魔導書はバベルにあるのだと推測が立つ。

ジョルジュの質問はまだ魔導書がないものだと思っているからだろう。


「絶対とは言えないけど、魔帝は魔導書を探している。そしてバベルの塔に行こうとしてたんだから間違いはないと思う。」


「頼りない返答ね、それよりも魔導書があれば地上を元に戻せるかもしれないって本当なの?」


メグも魔導書に興味を抱いているらしい。


「なんでも望みが叶う。平たく言えばそういう代物なんだ。物欲を満たすだけのものならば、天使も魔帝も欲しがらないだろ。きっと神でさえ欲しい力なんだよ。」


羽竜が皆まで言わなくとも予想はつく。

ただ羽竜とあかねまでもが魔導書の存在を否定しなかった事が、セイラ、ジョルジュ、メグには信じられないのだ。

実際には、羽竜もあかねも魔導書など見た事もない。

レジェンダと出会い、天使と悪魔との出会いから魔導書は存在すると確信を得ている。


「なんにせよ、この塔を登ればはっきりする。」


セイラの心は既に塔を登りつつあった。


「あるのは希望か………」


「それとも絶望か………」


ジョルジュの言いかけた事をメグが繋ぐ。


「蕾斗君大丈夫かな?」


シリアスな雰囲気も、あかねの台詞で消されてしまう。


「蕾斗も心配だけど、今は行くしかない。」


鬼が出るか蛇が出るか………羽竜も塔を登る決意を固める。

驚いたのは、塔の入口には扉がなかった事。魔帝はセイラにバベルの鍵をよこせと言った。

それはバベルの塔の入口の扉の鍵だとばかり思っていた。

羽竜だけでなく、みんなが同じ思いだった。

五人は無言で塔へ入ろうとする。


「待て!!!」


中年男のでかい声が辺りに響く。


「あれ見て!!」


メグが指ではなくカルブリヌスで示す方向には、太陽に照らされた軍隊がいる。


「人間…………?」


背中に翼が無い事をあかねが何度も確認している。


「ローマ帝国の兵士か……!」


ジョルジュが兵士の掲げている旗を見て焦りを見せる。

相当ヤバイ………人間とはいえ味方でない事は確かなようだ。


「フランシア国王妃、セイラ・アイブラックだな?」


声の主はセイラが来るのを知っていたのだろう、完全な待ち伏せだ。


「ローマ帝国国王…………ネロ…か……」


セイラがその名を口にした。


「残念だが、バベルの塔を登らせるわけにはいかん!」


「何の権限があってそんな事を?」


「プリンセスセイラ、地上は天使によって散々な状況にある。この状況下で世界を統治するのに相応しいのは我がローマ帝国だけだ。よってバベルの塔にある魔導書はローマ帝国国王である私のものだ!」


ネロの言葉を聞き逃さなかった。彼は言い切った。魔導書がバベルにあると。


「みんな、聞いたな?」


羽竜がにやける。

自分の読みが当たっていた事の嬉しさからだろう。


「でもどうすんの?おそらく千人はいるわよ?」


セイラが四人の『付き人』に策を求める。


「私が行きます!」


答えたのはメグ。


「行くって、一人じゃ無理だろ。」


「羽竜君、私も残る。」


「あかねちゃん!」


メグとあかねが視線を合わせ頷く。


「女性二人では心元ない。全員でやった方がいい。」


「いや。ジョルジュ、心配はいらないと思うぜ?メグも強いし、吉澤はエアナイトだからな。」


羽竜に言われあかねの顔が赤くなる。


「羽竜………今なんて言った……?あかねが……エアナイト……?」


状況を忘れジョルジュが驚く。


「有り得ん……エアナイトの能力は一子相伝。私の他にエアナイトは存在しえない。」


「事実は事実だよ。だからここは二人に任せよう。俺達はこの高い塔を登るのが先だ。」


根掘り葉掘り聞きたい事はあるが、羽竜の言う通り余裕はない。


「任せたぞ、吉澤!メグ!」


「うん。私達の事は心配しなくていいから早く行って!」


あかねはミクソリデアンソードを具現し、ネロ率いる約千人の兵士を相手する為に構えをとる。


「たかだか千人程度なら、あかねちゃんと二人で十分でしょ!」


「メグちゃん………あんまりプレッシャーかけないで……」


そしてネロが剣をかざして振り下ろすと、それに合わせて兵士達が攻めて来た。


「よし、セイラ!ジョルジュ!行くぞ!」


羽竜がいち早くバベルの中へ入って行く。


「あっ………待ちなさい!どこの世界に主人を置いて行く者がいるのよ!!」


羽竜に続いてセイラもバベルへ向かう。


「セイラ様!!………しかたない。メグ、あかね、無理はするな!!」


騎士である以上女性に戦いを任せる真似はしたくないのがジョルジュの本音なのだが、正直羽竜とセイラだけではそれもまた不安になる。

自分の任務はあくまでもセイラを守る事。

セイラの側を離れるわけにはいかない。

無理はするなという言葉の妥当を問えば、この場合は妥当ではなかっただろうが、ジョルジュの気持ちは伝わったはずだ。


「あかねちゃん、来るわよ!」


「うん。私が技でまとめて何人かずつ倒すから、零れ玉はお願い!」


「OK!」


「ディストーション!!」


空間を刻む技であかねが仕掛ける。

刻まれた空間に囚われた第一波の兵士達が崩れるように倒れる。


「凄いの一言ね。でも私も負けないから!」


メグは持ち前の運動神経を活かし素早い動きでキレのある攻撃を見せる。

僅か数秒で十数人を倒す。


「な、なんだあの少女達は!」


周りで兵士達がどよめき始める。


「ええいっ!!何を戸惑っている!!たかが小娘二人だぞ!!こっちは何人いると思ってるんだ!!さっさと片付けろ!!」


数で圧せばなんとかなる。

ネロの持論だ。

ここに来て戦う相手が人間になるとはあかねは思っていなかっただろう。

バベルの塔の前はたった二人の少女を殺す為に悪戦苦闘する千人の兵士でひしめいていた。


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