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第一章 変局

いつも陽気なレリウーリアの女達も、今日はいつになく元気がない。

理由は三つ。一つは虹原絵里の右目が奪われて失明した事。

二つ目はフラグメントを全て奪われた事。

そして三つ目は、絵里の右目とフラグメントを奪ったのがダイダロスだという事。

考えてみれば不思議な話ではない。彼の造ったロストソウルには記憶と力をそのまま宿す能力がある。

なら彼の扱うファイナルゼロに同じ能力があっても当然だ。


「総帥、ダイダロスは次に目黒羽竜達を狙うのでは?彼らはフラグメントを三つ所有していますし、万が一それまでダイダロスの手に渡ってしまったら……」


由利の心配はオノリウスの魔導書をダイダロスがに手に入れる可能性が現実味を帯びている事にある。


「…………わかっている。」


今は非常事態だ。すぐにでも羽竜達と接触してフラグメントをダイダロスから守りたい。

しかし羽竜達がすんなり自分達を信用してくれるとは限らないし、話し合いでフラグメントを手に入れる事はまず無理だろう。


「由利、焦る気持ちは俺も一緒だ。だがいい手が思いつかない。何も考えず行動すれば泥沼にはまってしまう。仮にダイダロスがフラグメントを全て集めたとしても、オノリウスの魔導書が何処にあるかまでは知らないだろう。俺達もわからないものをダイダロスが知っているはずがない。チャンスはまだある。」


「…………確かにおっしゃる通りです。ならお任せしてもよろしいんですね?」


「ああ。少し一人で考える。それより絵里はどうした?」


悪魔とはいえ女である絵里は片目を失う大怪我をしたのだ、落ち込むレベルでは済まない。

かけてやれる言葉も見つからない。ヴァルゼ・アークは自分が情けなく思えて腹が立つ。


「絵里は自室で休んでいます。しばらくは任務から外そうかと思ってます。」


任務から外すというのは、戦いが起きても参戦させないという意味だ。

レリウーリアが全員、屋敷を離れても絵里だけは残らねばならない。

彼女がこれを受け入れるとは思えないが、命令として我慢してもらうつもりなのだ。


「そうだな。しばらく休養を取らせよう。」


「では私は絵里のところへ行きます。」


クールな由利もさすがに今のレリウーリアの空気は嫌いだ。

いつもはうるさいくらいなのに……………いつの間にかそんな雰囲気が心地よく感じられていたらしい。

何かしてなければ落ち着かない自分がいる。

頭を下げ部屋を出る。

レリウーリアを結成して以来こんなに暗くなった事はなかった。とにかく賑やかで絵里とローサにあたってはしょっちゅう喧嘩をしていて苦労が絶えない毎日だった。

それが今は皮肉にもその苦労が愛おしい。


「変わったわね…………私も………」


悪魔になる前の方がもっと悪魔らしかったかもしれない。

これが絆というものなのだろうか……………。


「絵里、入るわよ?」


絵里の部屋の前まで来てドア越しに声をかける。

返事はないが勝手にドアを開けて中に入る。


「絵里?」


昼間だというのにカーテンが閉めきってあり中は薄暗い。

ぐるりと見回すと、ベッドに入ってうずくまる絵里がいた。


「具合………どう?」


実に気の利かない質問だなと自分を責める。


(寝てるのかしら?)


寝ているのなら無理に起こす必要はない。

そう思い部屋を出ようとする。


「………司令…………」


むくっと起き上がり正面を向いたまま絵里は由利に話し掛ける。


「起こしちゃったかしら?」


「いいえ。起きてました……」


やはり元気がない。当たり前だが。


「そのままでいいから聞いて。総帥とも話し合って、しばらく貴女には休養を取ってもらう事にしたわ。」


「………用済み…………という事ですか?」


気持ちが落ち込んでいるせいか、前向きな絵里の言葉とは思えない。


「そうじゃないの。ここのところ忙しかったし、貴女の傷が癒えるまでは私達で任務を熟そうと思っているの。」


「フン…………はっきりおっしゃったらいいじゃないですか、フラグメントをまんまと取られた部下などいらないって。」


「何を言ってるの?そんな事思ってないわ。」


「嘘!役立たずだと思ってるのよ!!みんな私なんていなくなればいいって!!消えてしまえばいいって!!そう思ってるんでしょ!!」


「絵里………………」


右目を失った事で自棄になっているのではないようだ。

どうやらヴァルゼ・アークから預かったフラグメントを奪われた事がショックらしい。


「殺せばいいじゃない!!邪魔なら殺せばいい!!!」


パンッ!!!


無意識だった。由利の手の平が絵里の頬をぶっていた。


「…………誰も貴女の事邪魔だなんて思ってないわ。」


「…………………うぅ……」


布団を強く握り涙を堪えようとするが、涙は重いらしくポタポタと絵里の手の甲に落ちる。


「どうした!?」


「総帥……みんな……」


由利が振り向くと絵里の声が聞こえたのだろう、ヴァルゼ・アークが勢いよくドアを開けて部屋に入って来た。

そして他の仲間達も心配そうにこちらの様子を伺っている。


「絵里…………大丈夫か?」


泣き崩れている絵里の肩をヴァルゼ・アークが優しく抱きしめる。


「総帥………すいません………フラグメントを………私のせいで………」


「バカ、そんな事を気にしていたのか?言ったろう?奪われたものは奪い返せばいい。それだけの事だ。」


「でも…………私は任務から外されてしまうんでしょ?」


「外すと言ってもお前の傷が癒えるまでだ。俺達は常人じゃないからすぐ治癒する。それまでゆっくり休め。」


そっと絵里を寝かし、頭を軽く撫でて額にキスをする。

目で由利に合図を出すと、全員が部屋を出る。


「すいません、私が気が利かないばかりに絵里を興奮させてしまって………。ダメですね、私…………司令官としても年上としても、なんだか中途半端で………。」


申し訳なさそうに由利が頭を下げる。


「気にするな。みんな得意不得意はある。足りないところ互いにカバーし合うからこそ仲間なんじゃないか。そうだろ?みんな。」


ヴァルゼ・アークの問いに全員笑顔で頷く。


「司令、絵里さんもそのうちいつもの絵里さんに戻りますよ!だから気にしないで!」


「ローサ…………」


ヴァルゼ・アークが由利の肩に手をかけてウインクする。

堅物な由利が考え過ぎないように配慮したのだ。


「ありがとうございます。私もみんなに支えられているんですね。みんなも、ありがとう。」


いつもクールな由利が微笑む。


「さ、みんな部屋に戻れ。次の任務までお前達も………」


ヴァルゼ・アークが話してる途中で、窓ガラスが割れる音がした。


「まさか……!!」


もちろん音がしたのは絵里の部屋からだ。

ヴァルゼ・アークが叫ぶと同時に慌てて部屋に入る。

するとそこに絵里がいない。

閉じられていたカーテンがひらひらと風に踊らされているだけだ。


「絵里………!?」


由利が割れた窓まで駆け足で急ぐ。


「総帥!」


ローサがヴァルゼ・アークに何か伝えようとするが、何を言いたいのかはわかっている。


「全員絵里を追え!おそらく羽竜のところへ向かったはずだ!」


頷きもせず全員割れた窓から外へ飛び出し絵里を追う。


「由利、俺達も行くぞ!」


「はい!」


絵里の考えてる事はわかる。

奪われたフラグメントを取り返すにもダイダロスの居所はわからない。

だから羽竜達の持っているフラグメントを奪う気なのだろう。

自分を見失っている仲間を止める為、レリウーリアが動く。


(お願い、早まらないで!)


チクリチクリと胸が痛む。

由利の不安は的中する事となる。


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