嘘と菓子
「お前が隠してるそれ、出してくれないか」
彼女は俺の言葉を聞き終えて少しした後に、明後日の方向を見ながら反論した。
「……何も、持ってない」
嘘だ。彼女は片手を隠したっきりだし、その片手の辺りから袋と手がこすり合わさる音が聞こえる。そして何より口から甘い香りが漏れている。俺に黙って菓子を食べたというのは、わかりきっている。別に菓子が好き、という訳ではないが恋人に嘘をつかれたのはショックだ。
「別に俺は怒ってないからな? お前が食べた菓子を俺も食べたいだけだからな?」
彼女は俺の布団にくるまり、頬を膨らませた。こうなった彼女は何を言っても聞かない。名案を思いついたので彼女に出かける、と伝えて立ち上がった。
時計が今の時間を告げる。現在、五時。鞄から財布を出し、急いで部屋を出る。彼女が濡れた子猫のような目で見つめてくる。何とも愛らしいが、この視線にやられていてはいけない。
橙色と紫色が、雲に包まれた夕日を挟んでいる。少しだけこの空を見て、菓子店へ走って行く。一息つき、行きつけの菓子店の看板が「OPEN」になっているのを確認し、入店する。
ショーウィンドウの中で「私を食べて」と主張するケーキやパイ達。自らの身を果物やチョコレートで飾っている。どれも魅力的だから、本来ならば全て買ってしまいたいが俺の金にも限界がある。閉店ギリギリまで粘りつつ、買えるだけ買った。
帰宅し、彼女を見てニヤリと笑った。これ見よがしに菓子の箱を開け、躊躇う事なく食していく。一口食べるごとに彼女を煽るように見つめる。その度に彼女は何か言いたげにしていたが、黙って菓子を貪っていく。
最後の一個に手をかけようとした時、彼女が飛びついてきた。慌てて菓子を落としかけたが、無事だった。
「ごめん、貴方に内緒でケーキ食べてた」
やっと認めたようだ。最後の一個を渡すと、彼女はそれをゆっくりと味わい出す。やはり俺は、素直な彼女が好きなのだ。