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第0章 DEAD END

「畜生、畜生、畜生!」

 男が走りながら悲痛な叫び声を樹海に響き渡らせる。


「なんで、何でだよ糞ったれ!」

 それに答えるものは、既にいない。

それでも男は走り続ける。


「何でこんな目に合わなくちゃならないんだ!」

 男は嘆く。理不尽だと、こんなのはめちゃくちゃだ、と。

だが――いくら嘆こうとも現実は変わらない。


ギィ!ギィ!ギィギィ!


「ひっ!」

 男は怯える。何かの動物の鳴き声に。

否、男は知っている。それが魔物であり――自分の仲間を殺したもの達の声ということを。



「嫌だ、嫌だまだ俺は死にたくない!」

 男はなお走る。生きるために。

だが――どれだけ走っても彼の未来は変わらない。


「そ、そうだ。全部アイツのせいだ、アイツが悪いんだ」


ガサッ!ガサガサッ!


 奴らが草木を掻き分けながら進んでくる。

しかし、もはや男にはそんな音を聞く余裕すらなかった。


「こんなところに来なければ!あっちだったら、こんな目には会わなかった!」

 彼の思考は既に現実には向いておらず。

故に――


「……は?」


 足元の木の根に気づかず、彼の体は一瞬宙に浮き、


ドタンッ


 投げ出されることになる。


「うぐっ!」

 さすがの痛みに呻く男。


「くそっ、痛ぇ……」

 そう呟きながらのろのろと立ち上がろうとする男の背中に、


ガサガサガサガサッ!


 容赦なく、死は近づいてきた。


 男は立ち上がるのを中断し、後ろを振り向く。


 そこにあったのは、

――目。目、目、目、目。

彼をただ、餌として見つめる無慈悲な5対の目だった。


 ネガティラノ――マイナスの恐竜と名付けられたそれらは

古来より生息したいた生き物が魔力に汚染されたことで生まれたとされている魔物である。

人間より二回りは小さい体をしているが、

その腕や脚の爪は長く人間をたやすく切り裂き、

その顎は人間の喉笛をたやすく噛みちぎるという。


 それは決して誇張ではなく、彼は実際に仲間の死の際この事実を目の当たりにしている。


 そんな凶悪な魔物達に囲まれ、男はすくみ上がる。


「く、くるんじゃねえ!」

 そう怯えながらも威嚇したが、ネガティラノたちは少しずつ距離を詰めてくる。


「バ、燃焼バーン!」

 彼がそう言いながら手をなぐと、そこから火が生まれ、

奴らに襲いかかった。


――しかし。


ギィ!ギィギィ!


 ネガティラノたちは火に触れても気にもとめる様子はなく――


「うわあああああああああああ」

 彼に飛びかかり―――――



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



「………つまらん奴」

 真っ暗な世界で、『それ』はつぶやいた。


「何が俺のせいだと言うんだまったく、自分で望んだくせに」

 そう言って死んでいったものは、数えきれないけれど。


「大体全滅したのだって、ただの慢心のせいじゃないか」

 ちゃんと準備をしておけば、気を引き締めていれば。


「火属性の攻撃が通らないことだって、調べておけばわかったのになあ」

 あるいはせめて知識さえあれば、違ったのだろう。


「つまらん、本当につまらんな」

 何もない世界で、勿体ない終わりに『それ』は嘆く。


「まあいいさ、また新しい奴を追加するとしよう

楽しませてくれる奴だといいんだが」

 そういって『それ』は笑った。


「ああそうだ、忘れていた」

 誰もいない世界だが、『それ』はテンプレートのようにそれを口にする。


―――ご馳走様。


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