ルナミスト帝国史
帝国史(概要)
エルフ住まう〝夕月の森〟の守護者に端を発するルナミスト帝国はエルフの加護を受け、原初の国崩壊後の戦乱を制し、人類世界統一国家として名を馳せた。帝国は世界統一の後、全世界の魔物掃討作戦を敢行し、神聖不可侵の夕月の森を除く全ての地域に平安をもたした。帝国内の商工貿易は活発化し、人類人口は爆発的に増加。帝国は富に富んだ。
だが魔物の脅威を排すと、魔物憎しで纏まっていた臣民の心に変化が起こる。学術知識を持つ者が増加し、神代の書籍を通じて臣民の間に啓蒙思想が流行した。
帝国は臣民の目覚めと神代の主流思想〝民主主義〟の発生を恐れ、臣民から知識を奪う。全臣民には一定期間の〝義務教育〟が強制され、神代の物を含む世界中全ての書籍を帝国辺境、夕月の森の先にあるリソレイユ地方に封じた。
だがその一方で帝国政府は、リソレイユ主都エトワミュールを学都として整備する。リソレイユ地方に自治権を与え、この自治圏内での書籍出版を認めた。また、知識人のリソレイユ渡航希望者を援助し、これにより大多数の知識人は自らリソレイユへ流れ、一定期間の後、残留した知識人をリソレイユへ島流しにした。
リソレイユに立ち入ったものはその地を出ることは許されず、帝国は英知の独占を完成させた。
愚民化とよばれた一連の政策はやがて、臣民に苦しみを苦しみと感じさせない、不満なき世界、地上のユートピアを完成させた。だが長すぎる平和は政治腐敗を引き起こし、支配階級の皆は華美に華美を求め、臣民からは重税を取り立てた。巻き起こる不満を抑え込む為、宗教洗脳を多用したが故に、臣民は忠実なる信者と化し、神聖教会は力を蓄えた。神聖教会の増大する権力に、帝国政府と神聖教会は対立を深める。
度重なる帝国政府の圧力に耐え切れなくなった神聖教会は密かに信者を徴兵、秘密裏に神聖義勇軍を設立する。帝国の守護地である夕月の森守備隊を洗脳した教会は、帝国兵の手により魔物を解き放つことに成功する。教会はこれを帝国の仕業と抗議し、教会領の独立を宣言。全世界に対魔物徹底抗戦、事実上反帝国を訴える。
魔物拡散を恐れた帝国は三皇子を含む軍主力を派遣し魔物を包囲したが、魔物の教会領侵入を以て、教会は帝国の宣戦布告と認識。帝国軍は神聖義勇軍と魔物による挟み撃ちにより、崩壊した。
この後五年に渡る戦闘と魔物の襲撃により、帝国は陸上戦力の殆どを喪失。神聖義勇軍は今や、帝国の都ヴェントロードに喰らい付かんとしていた。
エトワミュール出版 「中等教育・帝国史」 〝第六章 ルナミスト帝国末期〟より抜粋