河北征伐(Ⅵ)
その瞬間、王師右翼は凍りつくような衝撃に襲われた。
ベルビオが転がった先に敵味方両軍ともわっと殺到する。味方が辺りを取り囲み敵兵を追い散らそうとする。
右翼はさっきまでの勢いはどこへやら、一本の矢で勢いづいた敵に押し捲られていた。
本陣で成り行きを見守っていた有斗も例に洩れなかった。息を吐き出すことも忘れてベルビオの様子を見守る。
やがてベルビオが味方に抱えあげられて騎乗する。
口からは大量に出血しているようであったが、後ろを指差して後退を促す兵をどやしつけると再び戟を振り回し、自身の周りに集まった敵を蜘蛛の子を散らすように追い払った。
ベルビオは生きていた。
その瞬間の僕の安堵感は途方もなく大きかった。
僕が大きく息を吐き出すと同時に、すぐ近くで同じような嘆息が聞こえた。アエティウスが大きく安堵のため息を漏らしたのだ。
僕はそれでアエティウスも心中ではベルビオのことを心配していたことを知った。兵に動揺を見せないために無表情だったけれども。
なんにせよ良かった。ベルビオは生きていた。
ベルビオが死ななかったことで王師右翼は再び蘇った。
今度劣勢に立ったのは賊のほうであった。いや、それどころか彼らは恐慌状態に陥っていた。
いかなる敵も一矢でしとめ、外すことのないザラルセンの弓は彼らにしてみれば神の業に等しかった。
その強弓は鎧を着た武者を射抜いて後ろの者の腕を貫通したこともある。獰猛な熊ですら一矢で殺せるのだ。
ザラルセンはその弓の技を持って二万の賊を纏め上げていた。それは信仰に近いものであった。
だが、その矢を真正面から顔に受けながら、死なずに立ち上がってくるという信じられない光景を目の当たりにしたのだ。彼らが恐慌状態になったとして誰が責められようか。
ベルビオは口から血を吐き出しながら大声で笑うように叫んでいた。
「死ねえええええええぇぇぇぇいいいぃぃぃぃ!!!!」
それは彼らにとっては死神の声に等しかった。
この目の前の大男は、いかなる手段によってか地獄から舞い戻ってきたのかもしれない。そう考えるより他にはなかった。
「俺の矢が狙いを外した・・・?」
ザラルセンも呆然としていた。
いや、それはない。当たるところも見たし、原にその巨躯の男は口から血を流しているではないか。
真正面から射て口の中を怪我した・・・
この距離だ。強弓で引いた矢は口中で止まる威力ではないはず。
脳髄を射抜いたはずである。そんなところを射抜かれて生きている人間がいるというのか・・・?
「まさか・・・不死身の人間がこの世にはいるというのか・・・?」
神話に出てくる不死の存在のように。
ベルビオの前にはもはや立ち塞がる敵はいなかった。逃げる敵を両翼の騎馬隊が包み込むように包囲する。もはや賊は完全に戦意を喪失していた。
これはもうどうしようもない。三十六計逃げるにしかず、だ。
「逃げるぞ!」
逃げればまだ復讐の機会は来る。こっちのほうが数が多いのだ。体勢を立て直して今度はもっと慎重に戦えば、必ず負けない。
ザラルセンは背後の丘に馬首を翻した。そしてあっと声を出して驚いた。
そこには既に敵の騎馬隊が壷に蓋するように回り込んでいた。アクトールの隊だった。
「本来の役目と違う形にはなったが、仕方があるまい。敵が弱すぎたのよ」
アクトールに与えられた役目は大きく戦場を迂回して、王師に前がかりになっている敵を背後から襲うことだった。
数の差で苦戦している王師への逆転の一手として打たれた手だ。だがそれはもはや必要ない手だった。
しかしそれに代わって重大な役目がアクトールには与えられることになった。敵の止めを刺す一手だ。アクトールはいつでも突撃に入れるよう、左右に騎馬を広げる。
もはやどこにもザラルセンに逃げ道はない。ここで上からの突撃を喰らえばザラルセンたちはお終いであろう。
ザラルセンは乾坤一擲の賭けに出ようとした。兵を集中して包囲網を突破する。
だがそれには手駒が要った。決断するのが少し遅かったのだ。
完全に包囲されたと知ったザラルセン自慢の兵は、敵から投降を呼びかける声が投げかけられと、武器を捨てて両手を挙げ降伏の意思を示していた。
戦意を喪失した兵から武器を取り上げ、王師は降伏した賊を次々と包囲の外に出した。
刻一刻とザラルセンの兵は減り、包囲網が狭まっていった。
ザラルセンは天空を見上げて溜め息を吐く。
ここまでか。
戦意を無くした兵を率いても勝機はない。いや、それどころか降伏の邪魔だとばかりに殺される危険もある。
一瞬最後の一人になっても矢が無くなり、刃折れるまで戦うか、と思ったが。思いとどまる。死が怖かったわけではない。これ以上、敵の恨みを買うこともない。それに責任を取るやつが生きていないとあとあと不味かろうと思い直したのだ。
俺が死んでいたら、かわりに何人かの部下が首を斬られることになりかねない、と思った。
俺は二万の可愛い部下どものことも考えてやらねばならない立場なのだ。
「皆、降伏せよ。俺の為に命を無くすこともあるまい」
最後まで彼の側に残った者たちが、その言葉を聞いて一斉に涙を流した。
どいつもこいつもブサイクな面がますますブサイクになってやがる。だけれどもそのブサイクな連中が彼は愛おしかった。
それだけで充分だ。充分、一人の男が死ぬ立派な理由になるだろう。
馬から降りると腰の長刀と大弓を投げ捨てる。
それを見るや王師の兵は殺到し、ザラルセンの体躯にしっかりと縄を巻いていく。ザラルセンはそれをただ黙って見ていた。
引きずり出された先には歴戦の勇士らしく長大な体躯の持ち主がずらりと並んでいた。
ザラルセンの目は一人の男に釘付けになる。その男は優雅な表情を浮かべているが、目つきは厳しくザラルセンを値踏みしていた。
すらりとした長身も、端正なマスクも、油断の無いその立ち振る舞いも、一際目を惹き付ける。
最初これが頭かとも思ったが、口を開いたのはその横にいたひ弱そうな少年だった。
「君が河北で有名なザラルセンかな?」
七尺の長身を持ち、五人張りの強弓を引ける男が他にいるとしたら是非会いたいもんだ。ザラルセンはその言葉にそう思った。
「だとしたらどうする」
「確認したかっただけだよ」
「そうだ俺がザラルセンだ」
ザラルセンは顔を上げると真っ直ぐその少年を見つめた。
「俺のことはまぁいい。ただ部下どもの命は助けてやって欲しい。俺の命令に従って戦っただけなのだから」
「賊の頭にしては意外と部下思いだな」
最初、頭かと勘違いした端正な顔をした男がザラルセンのその言葉を褒めた。
「僕は気に入ったよ。賊の頭といえども人間味がある」
少年は屈託無く笑った。
なんて無邪気な笑顔で笑うやつなんだろう。戦場を往来する漢に似つかわしくないその笑顔の主にザラルセンは興味を覚えた。
「坊主、ところでお前の名前はなんだ? せめて死ぬ前に負けた相手の名前は知っておきたい」
「有斗、夕雅有斗」
「ユウガアリト・・・か。聞いたことのない名だ。いつのまにこれほど大きな賊を作り出した?」
何故かその言葉に周りの男たちが一斉に笑い声を上げた。
「そっかぁ賊かぁ・・・僕は賊の長になら見えるのかなぁ・・・」
その少年は複雑そうな顔をして、そう言った。
「いや逆立ちしたっても賊の長にも見えねぇな」
ザラルセンのその言葉に少年以外の皆がまた笑った。少年だけが半笑いで困ったかのように眉を顰めていた。
「我々は王師だ。河北をお前のような賊から開放するためにやってきたのだ」
「王師だと!」
ザラルセンは仰天する。河北の民にとっては関西の朝廷も関東の朝廷も関係なくなって久しい。
河北に生を受けてから王師はもとより官吏の一人すらも見たこともない。河北の住人にとって自分たちは見捨てられたという想いを持つものは少なくない。
「今更・・・! 今になってなんで河北に来やがった!!」
ザラルセンもその一人だ。別に好き好んで賊になったわけじゃない。命を守るためには寄り集まり武装しなければいけなかっただけだ。
それを長年放置してきたくせに、いきなりやってきて、お前等は賊だから打ち滅ぼすとか冗談じゃない。今、河北にいる者は賊でないもののほうが少ないのだ。つまり王師とやらは河北の民を虐殺しに来た、ザラルセンはそう受け取った。
「・・・そうだね、今更だね」
少年の口調は優しかった。
「だけれども河北をこのままにしておくわけにはいかない。遅いかもしれないけれど僕は河北の民を救いたいんだ」
「俺等だって河北の民だ!」
「知っている」
「今まで放置してきた挙句、河北の大半の民を切り捨てるのが王師のやり方か!?」
「切り捨てたりなどは決してしない」
「じゃあどうするというのだ!?」
「降伏して武器を捨てたものには土地を与える、そして収穫が取れるようになるまでの支援を朝廷が行う」
既にこれを伝えたザラルセンの配下の中には諸手を上げて歓迎し、さっそく武器を放り出した者もいた。むろんそうでない者もいるが。
「・・・それを拒んだら?」
「解放しよう。好きなところに行くが良い。といってもまた賊に戻るようなら覚悟して欲しい。僕らは君が賊である限り、どこまで逃げても必ず追いかけて捕まえる。僕は河北から賊を一掃すると決めたんだ」
「いつまでそれを続ける?」
「君が戦場で命を落とすか、君が諦めて武器を捨て王民になるまでさ」
兵に命じて縄を解かせ、ザラルセンを自由の身にする。
「君の配下の中で王師に降伏し武器を捨て地を耕すことを希望する者もいる。残りたいものには手出しをせずに出て行って欲しい」
仲間から脱落者が出たか・・・仕方がないとは言え、それはザラルセンの心に重くのしかかった。
「・・・わかった」
ザラルセンが立ち去るに渡って、自身の馬と大弓をも返してくれた。さすがに矢は返してくれなかったが。
どうもよくわからない。ザラルセンは首を捻る。王師といえば歯向かった者を躊躇なく殺すものだが・・・どうもこの連中は違うようだ。
そこまで考えると、馬の足を止めさせた。
「やめた」
出口ではなく、さきほどの場所に馬を向けた。そこにはまだ先ほどの将軍たちが立っていた。
「命を救われたのに、黙って去るなんて俺の漢が廃る」
「じゃあ降伏して武器を置いてくれるのかい?」
喜ぶ僕をザラルセンは鼻で笑う。
「それは無理だな」
代わりに、とザラルセンは言った。
「俺の部下たちも牧羊や農民をやるよりは荒事のほうが得意な連中もいる。そこで、どうだ? 俺たちを雇ってみんか? 農民にはなってやらんが、兵士になら我慢してなってやらんこともない」
どこまでも上から目線のその提案だったが、僕は不思議と腹は立たなかった。そこには何かからっとした精神が存在していた。こんなやつが一人くらい軍にいても悪くはない、そう思った。
「お前は一日にして訓練された数千の兵と神の業を持つ俺様を部下に出来るんだ? 悪くない話だろ?」
「なるほど、悪くない話だね」
「・・・陛下!」
王師中軍の武将は一斉に反対の意があることをその一言で僕に示した。
「まぁ河北を平定したところで、安定させるまでしばらくは軍隊を駐留させて置かないといけないだろうし。王師三軍をずっと河北に置いていくわけにもいかないんじゃないから、地元から兵を募り駐留軍を作るのも悪くないんじゃないかな?」
「それは確かにそうですが・・・」
何もこんな胡散臭い奴でなくてもいいではないかと言いたいらしい。
「それに河北にその名を知られたザラルセンが帰順したと知れば、抵抗する賊も少なくなるんじゃないかな?」
「あ! わかってるな小僧!」
僕に片目を瞑って親指を立てて見せる。
「じゃあ、あいつらのなかからとびきりイケてる連中を二、三千選りすぐってくるから期待して待っといてくれ」
と、仲間の下に行こうとしたザラルセンだが、途中でぴたりとその足を止め振り向いた。
「ところで」
「ところで?」
「ユウガアリト、あんたは一体誰なんだい? どうやらこの中で一番偉いみたいだが、将軍には見えない。文官のお偉いさんかい?」
「・・・」
将軍たちは一斉に顔を見合わせた。どの顔も笑いを噛み殺すのに必死だった。
僕はがくり肩を落として、大きく溜め息をつくと
「王様ってことになってるらしいよ、どうやらね。最近僕自身が信じられなくなってきてるけどさ」
と、言った。
「王・・!?」
あんぐりと顔をあけてザラルセンは驚愕した。
またこの反応か・・・もはやお笑いの定番のオチみたいになってるじゃないかよ。王の威厳とか貫禄とかいったものはどこに行ったら売っているのだろうか、売ってくれるなら国を傾けてでも買うのに、と僕は本気で考えた。
夜、兵士たちの朝は早いので野営地は早々と静かになる。僕は外の空気を吸いたくて天幕を出ると少し歩いた。
そこにアエティウスが柵にもたれるように立っていた。
月に照らされたその姿は絵画の中から抜け出してきたように美しかった。
僕にないものを全て持っているこの男は何のために生きているのだろう。きっと人生も僕と違って楽しいものなんだろうな。・・・ふと疑問に思った。
「こんばんわ」
僕はアエティウスに声を掛ける。
「これは陛下」
「ねぇアエティウス」
「なんでしょう陛下」
「今更こんなことを聞くのはおかしいかもしれないけど、なんで南部に現れた僕を助けてくれたの?」
その僕の疑問にアエティウスは意表を突かれたのか激しく咽た。
「今更ですか!? あの時、助けて欲しいって言ったのは陛下の方ですよ!?」
「そうなんだけどね・・・」
僕は照れ隠しに頭をかいた。
「ただ不思議に思ったんだ。君は南部の大豪族の長で、お金もあれば若くて頭も良くてかっこいい。僕にいわせればなんでも持ってる男だよ。僕を援けて危ない橋を渡ってまでも得たいものってあったのかなって思ったんだ」
「それはありますよ。人間の欲には限りがない。私だって手に入れたいものは沢山あります」
想像力の貧弱な僕にも思いつくのは、大臣の官位とか、もっと広い領土だとか、もしくは王を助けて戦国を終らした比類なき人物って名声とかかな・・・
「じゃあ教えてよ? 何故僕を助けてくれたの?」
「どんなことを言われても怒りませんか?」
「うん。二人だけの秘密だ」
「そうまで言われると困るな・・・ただ私はこの世界には王が必要だと思ったのです。それだけですよ」
「王女がいたじゃないか?彼女じゃ駄目だったの?関西の、さ」
「あれは飾り物の人形です。しかも飾り立てているほうもアメイジアのことを考えていないだけ性質が悪い」
「噂では立派に関西を治めているようだけどなぁ・・・」
「私はこう思ったのですよ」
と僕をちらと見ると言葉を続けた。
「この目の前の男がどれほどの器量の持ち主か分からないけれども、有能であればそれを王佐し、そうでなければ私の傀儡として立てておいて、このアメイジアに平和をもたらしてやろう、とね」
「なるほど・・・」
納得できる。アエティウスほどの男でもいきなり王になれないことを考えるとそうすることが合理的だ。
「あれ怒らないのですか? これはかなり不敬な考えですよ」
「あ・・・そういえばそうだね。でも何故だろう腹は立たないな・・・日頃アエネアスにもっと酷いことを言われてばかりいるからかな・・・?」
アエティウスは声を押し殺して笑った。
「・・・これは申し訳ありません。家長として代わりに謝罪いたします」
アエティウスが仰々しく僕にお辞儀する。
「で、僕はどうなの? 王としての僕は合格かい? それとも傀儡かい?」
「合格ですよ。私の想像よりも陛下は立派な王でいらっしゃる」
その言葉を裏返せば、僕を大した人物ではないと想像していたってことなんだけどな。
もしかしたら本当はまだ僕を王として認めていないのではないか、そうも思う。
でもこのアエティウスの言葉は信じていいと思う。というより信じたい。最近はアエネアスの罵声も対して気にならなくなった。まぁ諦めの境地でもあるんだが、同時にそれはアエネアスと僕との間の心の距離が近いからではないかとも思うんだ。アエネアスは他の相手の時のように、ダルタロスの令嬢として振舞おうと思えば振舞えるのだから。・・・ただ馬鹿にされている可能性も捨て切れはしないが。
それに南部の、特にダルタロスの将士とはもっとも長く付き合ってることもあって、家族のような親友のような気持ちを抱いているのも事実だ。もしそれが見せかけの関係だったりしたら、僕はもうきっと立ち直れない。
「そっか・・・それが真実だったら嬉しいよ」
アエティウスは応えをしなかった。
「アエティウスは何をしてるの?」
「待ち人着たらず・・・というやつですよ」
逢引か。
王師には少ないながらも女性もいる。アエティウスのことだからきっと選り取り見取りなんだろうな。羨ましい。
「ひょっとしたら僕を見て逃げちゃったかな? ゴメンすぐ戻る」
「いやいいですよ。一人でこうやって月を見ているのもたまにはいいものです」
地平近くに上がった月は赤い光を放っていた。
それを映すアエティウスの瞳も赤かった。まるでアエネアスの瞳のように。そういえば・・・アエティウスはアエネアスのことをどう思っているのだろう・・・? アエネアスはたぶんアエティウスのことが好きなんだろうけど。
「アエティウスってアエネアスのことをどう思っているの?」
抽象的な質問に僕の意図を見出せないのかアエティウスは問い返してきた。
「それは人として? 兄として? それとも一族の長としてですか?」
「全部かな・・・アエネアスに対してどう思っているか素直に聞きたいんだ」
さすがに女の子としてどう思ってるの?という質問はいきなりし難かった。あまりにも踏み込みすぎた話だろう。
「好きですよ」
それを見抜いてか、アエティウスはずばり僕の質問の本質を突いた答えを言った。あまりにもあけすけなその言葉に僕のほうが恥ずかしくなったくらいだ。
「でも陛下ならばお譲りしてもかまいませんよ」
「だからなんでそういう話になるんだ・・・」
そりゃアエティウスにしてみれば従妹が王の后になれば、なにかと好都合とか考えているのかもしれないけどさぁ・・・それがアエネアスってのはきっと僕の胃が持たない。一ヶ月で胃潰瘍になる自信がある。せめてアリスディアみたいな優しく控えめな女の子とかなら文句は無いんだけど。
「でもこの会話の流れだとそう思っても仕方がないでしょう。陛下はまるで気になる女が好きな相手にどう思われているか、かまをかけているようでしたよ?」
「ない! それはないから!」
「強く否定されるところが返って怪しいのですが・・・」
「た、ただアエネアスは君の事明らかに好きなようだから気になっただけ」
僕の言葉にアエティウスは首を傾げる。
「さぁ・・・どうでしょうかね? アエネアスが私に感じている想いは、たぶん純粋な意味での『好き』ではないと思いますよ」
その言葉の後に何か深い意味がありそうなセリフを付け加えるように言った。
「あれは・・・憧憬とか感謝とか・・・そういったものが入り混じったものです」