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紅旭の虹  作者: 宗篤
第三章 驚天の章
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再び、闇の中

 闇の中で、ふたたび(うごめ)く影がある。

 影は集まり、人の姿となって、闇の中におぼろげに浮かび上がる。全員ローブのようなものを着て、目深にフードを下ろし、顔色は(うかが)えない。

「関西のほうはどうなっている?」

「宮廷の内部に何人かの協力者を作ることに成功しました。工作は引き続きしていきます」

「そうか、それはよかった。どうだ? 関西はどうにかなりそうかな?」

「女王は独身(ひとりみ)、その配偶者はいまだ決まっていません。表面上は平和を装っていますが、影では王配(女王の配偶者)の座をめぐり権力を握ろうと、いろいろ暗闘が繰り返されているようです。それに肝心の女王に政治に対する関心がない。また賄賂を好む腐敗した官吏も多い。関西も我々が付け入る隙があると考えます」

「よくやった。引き続き工作を続けてもらおう」

 手を上げて満足げに頷く人物に、横に座っていたものが振り向くと、語りだした。

「それよりも関東です。なんとあの王が内乱を鎮めてしまいました。我々の予測では二、三年は戦乱が続くものと思っていたのですが・・・」

「王師四師が破れ、帰順したことは聞いておる。だが朝廷の古狸どもはどうした? 自分たちが追い出した王を素直に受け入れるのか?」

 まだ波乱の一幕があるのではないだろうかと言いたげな口ぶりだった。

「おひさしぶり」

 そこにもうひとつ影が加わった。この人物もまた、フードを深く被って顔すら(うかが)えない。

「ひさしぶりだな。関東はお前の担当ではなかったか? 此度(こたび)の不始末はどう責任を取るつもりか?」

「久しぶりなのに、いきなりその言葉ですか。ずいぶんな、ご挨拶ですね」

「我らは大事な手駒をひとつ失った。あそこまで王に近づけたのに、暗殺に失敗したのはお前の責任ではないのか?」

「王に近づけるように工作したのは誰だと思っているのですか? それにしくじったのは、功を(あせ)った彼女が悪い。側に人がいる時に何も切りかかることはなかった」

「仲間割れはやめよ」

 その集団のリーダーらしき男が(いさか)いを止めさせる。

「王は叛乱を治めた。とはいえまだまだ権力基盤も弱く、宮廷内ですら信服しているものは少ない。そもそも、南部諸侯と朝臣たちとが、手を取りあって仲良く政治を取れるとは思えぬし、河東や河北、そして関西と敵に囲まれている。悲観することはない。まだまだ乱は起こるだろう」

 その言葉に先ほど加わった新たな影が大きく頷く。

「そう、まだまだ関東は戦乱のちまた。いくらでも波乱は起きる」

「とりあえず、今は再び王やその寵臣たちの傍に、新たな間者を忍び込ませることに重点を置くべきだ。その間は王の手腕とやらを見てみようではないか」

 リーダーは今日の会合はこれまでにする、と皆に告げた。

「では引き続き諸氏は各々の役目を全うし、来るべき時に備えることにしよう。全ては我らの目的の為に」

 リーダーの言葉に他の五人は(うなず)いて了承の意を表す。

 そして唱和するように言葉を返した。

「我らの目的の為に!」

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