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紅旭の虹  作者: 宗篤
第二章 昇竜の章
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青野原の戦い(Ⅱ)

 有斗等が鹿沢城を出て既に9日が経った。南部諸候軍は少しずつ王都に近づいている。

 偵騎を出す頻度(ひんど)は跳ね上がり、警戒の為、毎日進める距離は日増しに減っていった。

 王師は今日既に青野原の入り口に差し掛かったとか。やはり、決戦は青野原か。アリアボネは小さく溜め息をつく。

 広大な青野原では敵を引き寄せての伏兵や奇策はまず使えない。数と数の勝負になる。つまり、南部諸候軍は負ける。

 確かに勢いに勝る少数が多数を押し切って勝った例は歴史上にも多々ある。

 が、それらは珍しいからこそ歴史に残り、記録されるから多いと感じるだけで、実際はそんな例は(まれ)だ。

 それにアリアボネも軍師としての矜持(きょうじ)がある。

 運を天に任せて、乾坤一擲(けんこんいってき)の戦いを王にさせるようなまねはしたくない。

 だがいまだ王師を破る目処はまったく立っていなかった。

「しかたないわ。敵が()れるまで持久戦で行くしかないわね」

 長期対陣のうちに敵の(ほころ)びるのを待って、勝機をうかがうしかない。

 考えをまとめようと自分の天幕から出たアリアボネの耳に金属音が響いてくる。

「またやってるのね」

 アエネアスが王に稽古をつけている音だ。

 何をしてもいいけど、陛下を壊すことだけはやめてね。

 ま、アエネアスだって加減というものも(わきま)えているとは思いますけれども。

 そう思い、再び思考を整えるべく、歩き始めた。


 有斗の剣がアエネアスの剣に跳ね上げられ手を離れると、宙を回転してあらぬ方向へと飛んでいった。

「どうして今のを返せない!!」

 アエネアスが有斗に怒鳴る。

「・・・なんでって言われてもアエネアスの剣が見えないんだよ」

 アエネアスの剣さばきは、これこそさすが武榜眼(ぶぼうがん)だと(うな)らせるような天才的な剣さばきなのである。・・・つまり素人の有斗には目にも留まらない速さってやつなのだ。何が起きているのかまったく見えやしない。

 おかしいな・・・FPSとかシューティングゲームとかは得意だから反射神経とかには自信があったんだけどな。

 漫画やラノベだと、それさえあれば敵の攻撃は全て避けれるとかいうお約束があるんだけどな。何故この世界にそれがない!?

「いいか、今の動きはまずボンクラがフェイントで突きかかってくる、私がそれを左に払うから、そのまま私の力を使いつつ手首を切り返し流して、体が開き隙が出来た私をボンクラが手首を再度切り返して打ちかかってくるという実に単純な(かた)の一つだ。なぜできん!」

 全然単純じゃないよ。それになんと言っても問題が一つある。

「だからその瞬間が見えないんだってば・・・」

「どの瞬間だ?」

「左に払うところから全部だよ」

「それでは全てではないか!!」

 アエネアスが空になった刀の(さや)で有斗の頭をぽかぽかと叩く。

 有斗はアエネアスに怒鳴られながらもこうして剣術を覚えようとしていた。

 槍、弓、(げき)()、剣、どれでも好きなものを選べといわれて、まず選んだ弓は真っ直ぐ飛ばすことすら出来ずに一瞬で諦めた。槍、戟、戈は重いという簡単な理由から敬遠させてもらうと、選択肢は剣しか残らなかったのである。

「僕は素人なんだから、もっとゆっくりした動きだとか、基本的な形をだな・・・」

「なんつぅー我侭(わがまま)なやつだ。王だと思って好き放題言うとは本当に卑劣(ひれつ)な男だ!」

 ・・・

 なんでそういった結論になるのだ。好き放題言ってるのはどう考えてもアエネアスのほうだ!

 僕のほうが常識ある立派な人間のはず・・・たぶん。有斗はそう反言をあげたい気持ちをぐっと堪える。

「自分がやる動きはわかってるのか?」

「それならなんとか・・・」

 確か左にいった手首を返して(ひね)りこみ、そこを切り替えしてから、こすり上げるように突く。

 有斗が試しにやって見せるとアエネアスはそれを見てうんうんと(うなず)いた。

「なんだわかってるじゃないか、ボンクラにしては偉いぞ。とりあえず私と組む前にその動きを身体に覚えこましておけ。200回ほどだ、できるな?」

「う・・・うん」

 一人ならなんとかできる。そうだよこういうのが練習なんだよ。いきなりアエネアスと真剣で斬り合うとかは絶対、初心者がやる練習じゃない。

「そうか頑張れよ。その間、私は朝食を頂いてくる」

 アエネアスはくるりと有斗を置いて建物の中に戻ろうとした。

「待ってよ、僕も御飯が食べたいんだけど」

 とアエネアスに声をかけると、

「200回終ってからだ!!!」

 と、こっちを振り向いて犬に(しつ)けるように怖い顔で怒鳴った。

 今ならお手をしないと御飯をもらえない犬の気持ちがとてもよく理解できる、と有斗はおもいっきり悲しくなった。

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