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紅旭の虹  作者: 宗篤
第二章 昇竜の章
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青野原の戦い(Ⅰ)

 王師三軍が王都を出立するに当たって、ラヴィーニアはひとつの策を披露(ひろう)した。

青野原(あおのがはら)、ボジニッツァ川、ファロマオン平野。これが南北で戦うとき、主戦場になりうる候補地です。どこも北勝南敗の地。だがボジニッツァ川では王都に近すぎますし、ファロマオン平野では地の利の差が少ない」

「とすると中書侍郎(ちゅうしょじろう)は青野原がいいと考えるか?」

 左府クレイオスは(たず)ねた。

「ええ。ここは扇形の地形、我等は広い北側にて王師三軍を鶴翼で包囲するように配置できるのに対して、南側の敵は狭い山道を抜け出たところにある扇の要に布陣しなければならない形になります」

「なるほど南部の山岳地帯を抜けてくる敵を入り口で待ち、ひとつずつ各個撃破するということか」

 亜相のネストールは戦術にまるきり無知でないことを見せた。

 だがネストールのその策をラヴィーニアは一言の元に()ね付ける。

「いいえ。それは下策です」

「私の策のどこが下策だ!?」

 ネストールがラヴィーニアに詰め寄った。宮廷の実力者に詰め寄られてもラヴィーニアはけろりとした顔で人を()めたような笑みを浮かべているだけだ。

「・・・私も亜相(あそう)の言はおかしくないと思うのだが、どこが不味い?」

 内府エヴァポスもネストールに同調し、ラヴィーニアに訊ねる。

「確かにそれでも勝利は得られましょうし、なにより我が軍の損害も少ない」

「万々歳ではないか?ケチのつけようがない」

 亜相ネストールはそれのどこがいけないのか、と不満げにラヴィーニアを(にら)みつけた。

「そうですね。実に素晴らしい作戦です。もしあたしたちの目的が敵に勝つだけでいいというならば、ですけれどもね」

 

「我々の目的は只一つ、この内乱を終らせること。それも関西の姫様や河東の飢虎に付け込まれる前に、です」

「それはわかっておる」

 それがどうしたといわんばかりの口調だった。

「つまりたとえ南部諸候軍をこの戦で一人残らず殺せたとしても、王に逃げられたら、あたしたちは勝ったとは言えない。亜相の策では王は平地にまで出てこないでしょう。敗北を悟ったら、王は容易に南部に退却することが出来ます」

「しかし逃げたとしても、王に手を貸す物好きはもういないだろう?」

「今度は河東か関西と組んで再び王都に攻めてきますよ? 傀儡(かいらい)として担がれて、ね。新法の混乱、我等の叛乱、ブラシオスとの(いさか)い、そして南部諸侯との戦い。我等関東の朝廷は今、未曾有(みぞう)の危機に(ひん)しているのです。これ以上の混乱は避けたい。なんとしても今回、確実に王を始末しなければなりません」

「なるほど。それは確かにそのとおりだ」

「・・・で、だとしたら中書侍郎はどういう方策を採るべきだと?」

 それは不服そうな声だった。ネストールはラヴィーニアの正しさを理ではわかっていても、自分の孫のような小娘に馬鹿にされるような口調で揶揄(やゆ)されては不満はあるのだろう。

「わざと南の出入り口から離れて布陣します。青野原は山に囲まれた盆地、その中に敵を誘い込み、そこで決戦を挑む。我等は三方から敵を包みこむだけでいい。どこをどうやっても負ける気遣いはない」

「敵が入ってこなかったら、どうする?」

「我々を全て倒さねば王は王都に入れないのです。当然戦いますよ。特に連勝で気も大きくなっていましょうし、拒む理由がない」

「だがブラシオスを破ったのだ、敵とて無能ではない。入り口で強襲されることを恐れて青野原に入ってこないのでは?」

「そうですね・・・それでも敵が警戒して盆地に入ってこなかったら、一旦引くそぶりを見せればいい。必ずや入ってくるはずです。敵の目的は我等から逃げることではない、戦い勝利することなのですから」

「わかった」

「我がほうは兵力に余裕がある。敵を包囲すると同時に左翼か右翼から騎兵を回して、盆地の出入り口を塞いで王を逃がさぬようにすることをお忘れなきよう」

「わかったわかった」

 ラヴィーニアの念を押す言葉に三人ともウンザリしたような顔で生返事をする。

 しかしここは念には念を入れて言っておかなければいけないところだ。ラヴィーニアの命もかかっているのだ。

「警戒すべきは敵の奇策。伏兵ができるような山道や森などで戦いさえしなければいいのです。奇策の通用しない平地での合戦なら王師が負ける理由がありません」

 そう、ラヴィーニアの作戦ならば大将が寝ていても勝利するだろう。この三人でも勝てるはずだ。

 三人はようやく納得したのか、ラヴィーニアを解放した。

 やれやれとラヴィーニアは大あくびをすると再び書類の山と格闘する。

 各地の義倉(災害時や貧民救済に使うため、穀物を貯めておかれる倉庫)や駐屯地の余剰の米から、必要な数を出来る限り緊急に王都に集め、必要なだけ前線に送る手はずを整えなければならない。

「これは・・・今日は徹夜だな・・・」

 久しぶりに定時に帰れると思ったのにな、とラヴィーニアは少しだけ不貞腐(ふてくさ)れた。


 それから三日間が過ぎた。

 南部諸候軍が鹿沢城を既に出発したことは斥候から来た伝書鳩で確認していた。

 ラヴィーニアが万事手はずをして、当面の糧秣(りょうまつ)は確保できた。

 今なら青野原に向かっても南部諸候軍より早く到着することが出来る。

 左府、内府、羽林大将軍の三人はそれぞれ一軍ずつを指揮し、三軍は馬を揃えていよいよ出陣する。

 糧秣の足らない分もラヴィーニアが後から送る手はずになっている。これで、たとえ長期戦になっても大丈夫なはずだ。


 三将軍はラヴィーニアの献策どおりに青野原で防衛することで意見の一致を見た。

 あの生意気な小娘に従うのは(しゃく)だったが、それが卓越した作戦であることは認めざるを得なかった。

 これによって青野原で両軍がぶつかるのは、ほぼ決定したことになる。

 南部諸候軍が青野原を通らずに王都に入るには、一旦南部まで戻り、狭いカテリナ街道を北上するか、もしくは山の中、道なき道をかき分け、谷に橋を渡し、山を穿(うが)って新たに道を作るかしかない。

 当然両方とも現実的に取られる可能性はゼロに等しかった。攻めるのが南部諸候軍である以上、まさか恐れて青野原に入らないなどということはあるまい。地の利、兵の数、兵の質、全てどれをとっても王師が勝るのである。勝利は間違いない。

 王師下軍が敗れたのは敵を軽く見たため、当然、三将軍はそれを知っている。ようは奇策だ。奇策を(ろう)する隙を相手に与えなければいい。

 幸い青野原は大軍の展開できるに相応しい十分なスペースのある盆地だ。力と力の決着になるはず。小ざかしい策など立てられようはずもない。よって負ける可能性などない。

 出立の鐘が王都に木霊すると、一斉に立てられた軍旗が東風になびき吹き流れされる。

 王師三軍三万人は青野原目指して靴音も高らかに兵を進めた。

後記


昨日は2000人もの人が来てくださったようで本当にありがとうございます!

そのうち150人強もの人がお気に入りに入れてくださったことになります。約6パーセントです。プロでもなんでもない僕の駄文にそんな割合で気にいっていただける人がいるというのは感謝のきわみです!


あと評価していただいた方もありがとうござます!

10点中5点、平均点をいただけるとはありがたいこと、とか考えていたら5点でMAXとは・・・本当にありがとうございます!


さてさて第二部最大の戦い、青野原の戦いが始まろうとしています。

今回の見所はと申しますと・・・ここに詰め込むべきイベントフラグやエピソードがあってちょっと難航しております。これを僕がどうやっつけることができるかかなw


それではまた夜にでも!

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