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紅旭の虹  作者: 宗篤
第二章 昇竜の章
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さがしびと

 鹿沢城で加わった王師下軍を加えると、有斗が掌握する兵はおよそ二万の大軍となった。

 もはや王師との数の差に怯える必要はそれほど無い。

「なによりも錬度が高く、正確に布陣できる強兵を得たことは大きい」とはアエティウスの談。

 数ばかり増えているが南部諸侯軍や傭兵は、布陣一つとっても王師には敵わない。ダルタロス家の兵といえどもだ。陣を前進させるだけで、すぐに隊列さえ崩れてしまう。

 リュケネが先の戦いで見せたように、王師はきちんとした指揮官の下でさえあれば、攻撃を受け退勢にも関わらず陣を保ち、なおかつ退くことまでできるのだ。

 これからの戦いで何よりも心強い一助になってくれるはずだ。


 有斗は鹿沢城の城内のここかしこにある兵舎を順番に回っていた。

 王師の陣、ついで南部諸候の陣を巡り、最後に新しく加わった畿内の諸侯の陣へ向かう。

『王が気にかけてくれている、働きを見てくれている。それだけで下の者たちは頑張ろうという気になるものですよ』

 とは軍師アリアボネのありがたいお言葉であるので、それを実行したのだ。

 つまりこれも王の大事な仕事だ。

「お目にかかれて光栄です。私は畿内にて領地を持つストルダ伯と申します。陛下が義軍を挙げたと聞きまして、百二十の兵を持って参陣いたしました」

「僕もストルダ伯が味方したと聞いて心強い。光栄に思う」

「はっ!」

 ストルダ伯は老齢の禿()げ上がった頭を持つ男だ。アリアボネに言わせると、老兵だが老練でもあるとのことらしい。

「その年で参陣してくれた心意気を、僕は実に嬉しく思う」

 と、有斗が言うと、本当は早く隠居したいが息子がボンクラで困ります、とストルダ伯は大きく笑って返した。

 ストルダ伯のそばに近侍している兵に言葉をかけた。

 実に(たくま)しい武人だった。持っているその大きな(げき)はいくらくらいの重量か、またそれを馬に乗って片手で扱えるのか・・・などなど訊ねる。

 有斗の言葉に答えるように見事に片手で振り回して見せたその姿に、驚嘆の声をあげる。

 その兵士は実に誇らしそうだった。

 確かにこういったことは何気ないことだが、結構重要なことかもしれない。

 こうやって王と将士の一体感をつくることで、きっと戦場で困難な局面を迎えたときの、最後のひと踏ん張りが違うことだろう。


 諸候巡りもようやく終る。

 ついでに有斗が傭兵達も見回りたいというと、その必要はないとアエティウス等に一斉に反対された。

「金で動くものたちです。十分な給料を与えてやればそれでよろしい」

 とアエティウスは一般論で反対し、

「あのものたちに情や義と言った徳目を期待するのは無駄と言うものでしょう」

 とアリアボネは理で反対し、

「それに荒っぽい連中です。もし万一陛下の御身(おんみ)に何かありましたら・・・」

 とアリスディアまで情で反対する。

 見事なまでの大反対。

挨拶(あいさつ)とかそういうのじゃなくってね・・・その・・・顔を見たいんだ」という有斗に

「顔? 不景気なツラした辛気臭いやつらだよ?」

 と最後はアエネアスまで反対した。そもそもアエネアスが有斗の意見に賛成したところは見たことが無いのではあるが。


「どうしても見たいんだ。頼む。挨拶とかじゃなくて顔を見るだけで良いから」

 有斗は皆に頭を下げて頼んでみる。そう、これは絶対にやらなければいけないことだ。

「・・・?」

 だけれども有斗の想いは皆には届かない。

「あ・・・!」

 その時、アリスディアだけは有斗が何を言いたいのか理解したようだ。

「でも・・・」

 と、説得をしようとするアリアボネの(すそ)を強く引いて振り向かせると、それ以上反対しては駄目とばかりに首を横に振った。

「・・・はぁ・・・」

 アリアボネは溜め息をつくと、

「では着替えていただきます、一般の兵士の格好に。それに不測の事態を恐れます。鎧も着てもらいますよ」

「アリアボネ・・・!」

 有斗は両手で拝むようにしてアリアボネに感謝の態度を表した。

「そして警護の為にアエネアスとアエティウス殿にも同行していただきます。これが条件です」

「私も!?」

 それを聴いた瞬間、アエネアスが嫌そうに顔をしかめた。


 アエネアスに文句を散々言われながら、有斗は傭兵達が(たむろ)する城の外郭(がいかく)や、屯所(とんしょ)、さらには傭兵達に付いて来た、城外に開かれた馬車を使った簡易酒場の中にまで行ってみた。

 全てを見、全員の顔をさっと(のぞ)き見するのに1時間はかかった。

 途中、アエネアスのお尻を傭兵の一人が触ってくるというハプニングはあったものの、アリスディアが想像していたような身の危険を感じるようなことは有斗にはなかった。

 ちなみにアエネアスのお尻を触るという命知らずの傭兵は、憤怒の表情をしたアエネアスにボッコボコにされた挙句、城の堀に投げ込まれた。

「・・・いない・・・」

「どうした?満足したか?」

 そう言うアエネアスは大あくびをして、すぐにでも帰りたいといった雰囲気だった。

 全てを探しても有斗が見つけたかった顔はなかった。

 ・・・どこにもいない。

 ほっとした気持ちと残念な気持ちが半分ずつ。

 ここにあの夜、峠で見た顔は一人もいない。ということはセルノアの行方はまだわからない。

 ・・・まだ生きている可能性はあるんだ。

「・・・・・・もういいよ。用事は済んだ」

 有斗はそうアエティウスに言った。

「・・・?」

 アエネアスはアエティウスに顔を向けると、王の気まぐれにも困ったものだ、とでも言うように肩をすくめた。

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