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紅旭の虹  作者: 宗篤
第六章 帷幄の章
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狂想曲(Ⅰ)

 それはアリスディアのその言葉から始まった。

 今、考えるとこの時点でおかしいな、と考えなかったのが全ての悲劇の始まりといえよう。

「陛下わたくし最近体が変なのです」

 王としての執務をこなしている有斗に、突然アリスディアがそれまで話していた話題とまったく脈絡のない話を振った。

 彼女は風邪で熱気味の時もニコニコと笑みを絶やさずに仕事を行うことのできるできた娘なのだ。その我慢強い優等生のアリスディアが自らの体調が悪いなどと口に出して言うなんて、珍しいことだ。しかも執務中にだ。よっぽど体調が優れないのかもしれない。

「え・・・? 体調が悪いの? だいじょうぶ?」

「はい・・・少し体がおかしいのです」

 それは大変だ! もしアリスディアに倒れられでもしたら、有斗は明日からどうしたらいいというのだろう。

 有斗の普段の生活と仕事を仕切っているのは全てアリスディアなのである。

「そんな! 仕事しすぎなんだよ。二、三日休むとかしたほうがいい! どこか痛いとか苦しいとかある?」

「胸が痛むんです。ちょうどこのあたりの・・・」

 僕に見せるようにガバッと胸元を開いた。

 おしい! もうちょっとで見えるのに・・・! だが見えそうで見えないところがまた実にイイ!

 ・・・いやいや違う、そうじゃない。胸が苦しいってことは心臓かなんかじゃないのか? 重症じゃなきゃいいけど・・・とりあえず医師だ! 話はそれからだ!

「苦しいなら侍医を呼ぼうか?」

 医者を呼ぼうと立ち上がろうとする有斗を、アリスディアは手で制した。

「そこまでしていただなくても結構です。すぐに治まりますので・・・」

「本当に大丈夫? 原因は何?」

「陛下を見ているとその・・・胸が苦しいのです・・・」

 というと胸の谷間が見えるくらいまで、さらに胸元を押し広げた。

 なんという刺激的な光景! ばれないように顔を少し左か右に動かしたい! 少し動かせば見える気がするッ!

 ああ、でもばれたらアリスディアに最低な人間と思われてしまうから動けない!

 と、しきりに本能と葛藤する有斗をアリスディアはさらに誘惑する。

「触って・・・頂いたら少しは収まるかも・・・」

 ええええええええ!? 触るって・・・胸を!? 僕が!!?

 他に誰が居ますかという顔でアリスディアは有斗に近づいた。

「陛下、お早く・・・早くしないと人が来てしまいますわよ」

「う、うん。そうだね。人が来たら大変だね!」

 明らかに理屈が合わないその理屈を疑おうとする有斗の大脳新皮質だったが、逆らうように視床下部が勢いよく働き始めてその活動を阻害した。ようは有斗は性欲に負けたのである。

 我慢ができないとばかりに、有斗はゆっくりと手をセルノアの胸めがけて伸ばそうとした。

 が、触れる寸前に耳を力いっぱいつままれた。

「おい、このボンクラ」

 この声は・・・アエネアス!!

 ・・・というか、万乗の君をその呼び方で呼ぶ人間はこの世界に一人だけだ。カトレウスだって有斗をそんな呼び方はしてないに違いない。

 きりきりと有斗の耳を(ひね)り上げて有斗を立ち上がらせる。

「わ、わっ!ごめんなさい! 手を出してません! 変なことを考えたりもしていません!」

 いちおう抗弁してみる。今まで抗弁して、それがアエネアスに素直に聞き入れられた経験は皆無だったが。

「何わけのわからないことを言ってるんだ?」

 何故かアエネアスはいつもと違ってにこやかに笑っていた。普段なら烈火のごとく怒っているはずなのだが・・・

 とはいえ怒っているアエネアスよりも笑いかけているアエネアスの方が何倍も不気味ではあるのだが。天変地異の前触れとしか思えない。

「え? いつもみたいに問答無用に殴ってきたりしてこないの?」

「触りたかったんだろ? お前も男だもんな。男なら女の胸を触りたいと思うものなんだろう? だが親友のアリスのを触ることはこの私が許さない。しかしそれではお前があまりにも可愛そうだ。今回を逃せばこの先、お前は一生胸を触るという行為ができないのは確定的に明らかだからな」

「え・・・僕、この機会を逃すともう二度と女の人の胸を触れないの?」

 なんだその飛躍しまくった論理は。意味が分からないぞ。

「あたりまえだぞ。ちょっと鏡を(のぞ)いて来いよ。答えはその中にある」

 ・・・・・・そりゃあ美男子だとは言わないけどさ。でも世の中には僕みたいな人を好きになってくれる博愛精神あふれる女性だっているはずだ。

 それに僕にだっていいところはあるはず・・・たぶん。

 そしてアエネアスは胸を持ち上げるようにして有斗に近づけて見せ付けた。

 次の瞬間、不快に顔を曇らした有斗にアエネアスは思いもよらない一言を投げかけた。

「そこで、だ。代わりに私のを今日は特別に気が済むまで触らしてあ・げ・る♪」

 ・・・・・・はァ!!?

 有斗は混乱した。突然寝所に乱入された四師の乱の朝と同じくらい、いやそれ以上に狼狽した。

 おかしい・・・アエネアスがこんなにしおらしいとは・・・それにこれではまるで痴女だ。

 アエネアスは残念系の女の子ではあるが、その残念さは暴力系に属する。痴女系の残念さとはまさに真逆の存在といえる。

 どうもおかしいな。有斗は少しの間、思案に暮れた。

 ・・・

 ・・・・・・!

 ははぁ・・・わかった。

 これは夢だ。間違いない。

 アエネアスがこんな可愛げのある女の子であるわけがないではないか。それにアリスディアがあんな淫乱であるはずも無い。

 つまりこれは夢だ。

 現実を夢と決め付けて大変なことになった過去があった気はするが・・・今振り返れば、あの時はまだリアル感がゼロではなかった。だがアエネアスがこんなにしおらしいなどというのは百パーセント夢でしかない!

 もし夢でないのならエロゲーの世界に入り込んだに違いない! 異世界に魔法で召喚されることがあるなら、二次元の世界に入り込むことだってありうるはずだ!

 つまりどちらにしても現実の世界ではない!

 ・・・それにアエネアスのおっぱいを触るなんて、夢とはいえそうそうありえる話じゃないぞ。

 アエネアスは何回となく夢の中に出てきたが、現実と変わらない、いやさらに獰猛(どうもう)な凶暴さを発揮するパターンしかなかったからな。これはかなりのレアパターンといえよう。

 これはお言葉に甘えて触ったほうがいいんじゃないか?

 アエネアスだってみてくれはなかなかの美少女だし、スタイルだって抜群だ。

 それに現実では絶対触れないだろうしな。

 もし万一触ったりなんかしちゃった日には命の危険すら感じるような制裁が待っていることだろう。

 それじゃあ、お言葉に甘えて・・・

 有斗は欲望のままに行動した。

 ・・・意外と硬いな・・・

 初めて会った時、流れでアエネアスの胸を触った記憶があるんだけど、こんなのだったっけ?

 一瞬だったしもう忘れちゃったなぁ・・・

 でもアエネアスはああ見えて全身筋肉の固まりだから、胸も筋肉あるぶん普通の女の子より硬いのかも。

 しかしそんなところまで再現してるとは・・・夢って馬鹿に出来ないな。

「意外とアエネアスって硬いんだね」

 という有斗のもっともらしい感想に、

「そうかそれは実にすまなかったな」

 アエネアスの声は突然、機嫌の悪さを表すような低い声になった。

 背筋も凍るようなその声に、有斗の心は先程までの熱狂が嘘のように冷めていった。

 何故か視界がぼやけて白くなって行く。

 (まぶ)しさに目を細める有斗。目の前には赤い服、一目で分かるその色は当然アエネアスのものだ。

 何故か有斗は先程までと違い寝所で腹這(はらば)いになっていた、そして目の前の二つのふくらみを両手で掴んでいた。

 つまりアエネアスの胸を掴んで・・・

 掴んで・・・

 掴んでない・・・だと?

 それはベッドのすぐ横に立っていたアエネアスのお尻だった。

 え・・・?

 なぜ尻? さっきまで確かに乳を触っていたはずだ・・・まぁお尻でも別に文句はないんだけど。

 いや、違う、そういったことは問題じゃない。問題なのは・・・

「他に遺言はあるのか?」

「遺言・・・へ?」

 見上げたアエネアスの顔は真っ赤になっていた。羞恥と怒りで()で上がった(たこ)のようだった。

 あれれ、さっきまでは上機嫌に胸を触らせようとしていたアエネアスが何故かお怒りモードに入っているぞ? 有斗は何がなにやらわからずに混乱する。とりあえず周囲の状況を把握しようとした。

 ここは有斗の寝所、有斗はベッドで腹ばいになり、ベッド脇に立つアエネアスのお尻を何故か掴んでいる。そしてその横には頬を薄く綺麗なピンク色に染めたアリスディアが立っていた。さっきまでのシーンとは大分食い違いがある。これは夢? それとも現実?

「え・・・これ・・・いったいどう言うこと!?」

 有斗が上ずった声を上げると、その返答とばかりに上から綺麗に打ち下ろされるアエネアスの黄金の右が有斗に襲い掛かった。

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