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紅旭の虹  作者: 宗篤
第二章 昇竜の章
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美人薄命

 アエネアスは有斗とアリスディアを別室に案内するとアエティウスの部屋に戻った。

 アエティウスは既に机に向かって、領内から送られてきた大量の報告書とにらみ合っていた。

「なぜ」

「ん?」

「なぜ兄様はアレを手助けしようと?」

 アエネアスはアエティウスの座っている椅子に腕を組んでのせ、さらにその上に自身のアゴをのせた。小さなころからのアエネアスの癖。本来なら当主であるアエティウスにそんなことができようはずもないが、アエネアスにはそれが許されていた。とはいえ家臣のいる前では当主の威厳を損ないかねないので、このような真似をすることはないけれども。

 でも二人きりになると話は別だ。決まってそうするのがアエネアスの常だった。アエネアスはそんなことが許されている特別な存在としての自分が得意だったのだ。

 アエティウスは書類から目を離すと、右斜め上にあるアエネアスの顔を仰ぎ見た。

「アレ扱いは酷いな。いちおうまがりなりにも王だよ。それに困っているんだ。可哀想じゃないか」

「うそばっかり」

 可哀想とか困っているのを助けるなどというのは、弱者の感傷か強者の余裕。

 王を助けると言うのは王都にいる連中と戦うと言うこと。

 ダルタロスは諸侯の中では上から数えられる強さはある、が朝廷軍と正面から張り合えるほど強くもない。

 可哀想と言うだけで、勝算のない戦いに赴き、ダルタロスの兵士を無駄に死なせるようなお人よしではアエティウスはないはずだ。

「言っただろ。この戦乱を終らせたいといった王に感銘を受けたからさ」

「それもうそだね」

「ははは」

 少しわざとらしいアエティウスの笑い声が響いた。

「うそじゃないんだけどな」

 アエティウスは笑ってアエネアスを見る。

「アエネアスは嫌いかい?」

「あんな軟弱そうなやつ! 反乱を起こされて、立ち上がって征することもせずに、近臣を置きざりにして一人で逃げてくるようなやつだよ。吐き気がする!」

「陛下に対する評価が厳しいんだな、アエネアスは」

「王都の連中は首を欲しがってるんじゃない? 引き渡したら?」

「それも悪くはないな」

「そうしちゃうのが後腐れがなくていいと、私なんかは思うんだけど?」

「そして王都では、また血で血を争う権力闘争がいつまでも続く・・・か」

 考えるように指を噛んでいたアエティウスは目を(つぶ)ると心中を吐き出すように言った。

「やはり、この国には王が必要だ」

「でもさ。アレが王として立派にやっていけるとは思えない。サキノーフ様とはしょせん違うんだ。兄様と違って頭の出来も悪そうだし」

 アエネアスは先ほどの少年の軟弱で意思の弱そうな顔を思い出して、嫌悪感もあらわに眉を(ひそ)めた。

「でも王とか神輿(みこし)とかは軽いほうがいいだろ? 担ぐ身としては」

「・・・あぁ」

 アエネアスは唇をちょっと曲げて意地悪い笑みを浮かべた。

「そういうことならいいかもしれないね」


 南京南海府は三京のひとつである。第8代哀帝死後の皇帝位争いのときに、後に即位した第9代順帝が封建されていた土地がここである。順帝は皇帝即位後も旧勢力がたむろする王都を嫌い、自分の御座所で政治を取り続ける為に南京南海府を建設した。当時は王都を上京、こちらは下京と呼ばれたようである。

 その後、第16代幽帝時代末期のサグレヴの乱で東国全体が戦場となり、宮廷は関西に避難するということがあった。その時、新しく都を置いた。それが西京鷹徳府(さいけいようとくふ)である。

 その時に上京を東京龍緑府とうけいりゅうりょくふ、下京を南京南海府(なんけいなんかいふ)と改称したという。

 もともとが皇室のために作られただけあって、城郭は広くそして雄大である。

 広々とした中庭や小さな森まで内包していた。

 その森のかたわらに椅子を出して日光を浴びている女性がいる。

 肌は白磁のように白く、髪は紫色で光を浴びると白金のように光っていた。

 そこに赤い髪をした女性が近づいてくる。アエネアスだ。

「今日は調子いいんだ?」

「ええ・・・最近は血を吐くことも少なくなりました。春が近く、陽も暖かいから助かります」

「そうか、それはよかった」

「このまま行ってくれるといいのだけれど」

 アエネアスもにこやかに頷いて賛意を示す。だけど二人ともわかっている。この病は発症したら終わりだということを。

 発症して長く持った患者はいないということを。


 重苦しくなった空気を換えようと、アエネアスは努めて明るい声を出して話題を変えた。

「そうそう、今日、珍客がうちに来たよ」

「どなたかしら? 私の知ってる人かしら?」

「アリアボネも知ってるって言えば知ってるかな」

 アエネアスはアゴに手をあてて、にやにや笑った。

「この間のアリスディアに続いて? 王都からかしら?」

「まぁあっちは年がら年中権力争いしてるからねぇ」

 ということは王都の人間ということになる。アリアボネは知人の顔を思い浮かべた。

「私が知っていて、あなたも知っていて、・・・なおかつ、あなたにそんな態度をさせる人・・・」

 ひとしきり考えて、幾人の顔を思い浮かべるも、アリアボネには当てはまりそうな人物が思いつかない。首を傾げるばかりだ。

「わからないわ・・・で、どなた?」

「自称王と名乗る男が来た」

「王・・・」

 それが誰のことを示しているのかわからずアリアボネは怪訝(けげん)な顔で考える。

「この間、異世界から呼び出されたとかいう・・・陛下が?」

「そそ」

「本物なの?」

「アリスが連れてきたから間違いはなさそうだね。反乱に何一つできず、側近も見捨て、身一つで落ち延びてきたんだとさ。情けないやつだよ。貧弱で根性なし、おまけに変態だ」

「変態・・・?」

「あ、いやなんでもない。と、とにかく最低なやつなのは間違いない。私が保証するぞ」

 アエネアスは胸を触られたことを思い出し、軽くいやな気持ちになる。

「で、どうなったの?」

「どうとは?」

「ここに来たということはダルタロス家をあてにして来たのでしょう? アエティウス殿はどちらにつくと決めたのですか? 王かしら? 朝廷かしら?」

 アリアボネは一呼吸して考えると、こう続けた。

「といってもあなたがこう軽く話題にするくらいだから、朝廷に味方することを決めて、王を殺したとかではないようね。ということは朝廷を敵にまわして戦う気ですか」

「さすが百年に一人の神才と言われたアリアボネちゃん。飲み込みが早いねぇ」

 感心してるのか小馬鹿にしているのかわからない。アエネアスはいつもそう。他人に自分の心の内を容易には見せようとしない。

「・・・でも意外」

「ん?」

「勝ち目はないとまでは言わないけれど、容易(たやす)い道ではなくってよ。あのアエティウス殿がそんな博打を打つなんて予想外だわ」

「私もそれにはビックリした。兄様はどっちかって言うと石橋を叩いて渡るほうだからね」

 アエネアスは大げさにその時の驚きを表してみせた。

「ま、でも兄様がやると決めたからにはきっとやり遂げてみせるよ。あれは神輿にはちょうどいい馬鹿さ加減だし」

 アリアボネはアエネアスの言葉尻に引っかかるものを感じる。

 王は最近来たばかり、アエネアスは最近はずっと南京暮らしだ。接点がないはずなのに、アエネアスが王を何故そう軽く見ているのかアリスディアはふと興味を持った。

「どうしてそう思うの?」

「何故、王に戻りたいのか聞いたら、この戦乱で明け暮れるこの世界をどうにかしたいからとかご高説をたれやがりましたよ。ここ百年、誰もが望み、そして誰もが不可能だったことをご自身では可能だと思っているとか。そんなことができる大層な人なら、そもそも反乱など起きなかったろってツッコミ待ちかと思ったわ」

 アエネアスは王を軽く馬鹿にしたように鼻で笑った。

「兄様なんて呆れて声を出して笑ってたよ」

「戦乱を終らせたい・・・」

「ね、笑えるでしょう?」

 アリアボネは二、三回小さく頷くと、興奮してアエネアスに目線を向けた。

「・・・いや・・・それは凄いことだよ」

「は? なに言ってんのよ?」

「じゃあ聞くけど誰かこの戦乱を本気で終らせようと思った人はいるの? 関西の女王様? 朝廷の重臣達? アエティウス殿? あなた?」

「そりゃ、みんな全員、戦乱が終ったらいいなと思ってるよ」

「そう、終ったらいいなと思ってる。思ってるだけ。だれも行動に移したものはいないわ。だって自分にはできないと思ってるからよ。誰か他の人がしてくればいいなとみんな思っている。つまりみんな自分ではやる気はないのよ」

 アリアボネもそうだ。だがこの世界の戦乱を終らせるという言葉はそんなアリアボネの心底に何か暖かい閃きのような何かを感じさせた。

「だけど、ただこの世界で陛下だけがそれをできると信じ、やろうとする意欲を持っている。よく考えるとそんな人は宮廷でも一人も見かけなかった。・・・私も含めてね」

 アリアボネは興奮気味に言葉を続ける。

「・・・召喚の儀で呼び出された王なだけはあるのね。本物かもしれない」

「ええ!? 買いかぶりすぎよソレ。会ったら幻滅するだけだってば」

 苦笑いを浮かべるアエネアスにアリアボネは真剣な眼差しで頼み込んだ。

「・・・お願い、アエネアス・・・」

「?」

「私を陛下に会わせてくれないかしら? 無理を承知なのはわかっていますけど」

「ええっ!!?」

 アリアボネはアエネアスに小さく頭を下げた。


 有斗はあてがわれた部屋でぐったりと椅子に体を預けていた。

 アリスディアは必要なものを取ってきますと、教会まで荷物を取りに行ったので一人きりなのだ。だから特にすることもなく、ぼーっとするだけである。なんといっても人の家だ。王だからと言っても、勝手にうろうろするわけにも行かないだろう。

 ガチャリと扉が開いた。早くもアリスディアが帰ってきたのかと視線を向けると、赤いものがちらりと目に入る。アエネアスだった。

「え・・・と、あのアホはっと・・・お、いたいた。起きてるな。昼寝もせずに感心感心」

 一瞬、姿が見つけられなかったのだろう。顔を二、三度きょろきょろと動かし、周囲を見回すと、ようやく椅子に埋もれるように座っている有斗を見つけて、アエネアスがうんうんと頷き、そう言った。

 ・・・生まれたての赤子じゃないぞ。昼寝などしない。

「で・・・なに?」

「お前は私に大きな貸しがある。覚えてるな」

「え・・・あったっけ・・・?」

 有斗はひとしきり考えてみるが、それらしきものは思い当たらない。

「私の胸を触ってないとは言わせんぞ!」

 般若のような顔で有斗を(にら)むアエネアス。その目はまさに人殺しの目だ。怖い・・・

「あーはいはい。アリマシタアリマシタ」

 まだあのことを根に持ってるのか。意外と執念深いやつ。あれは事故だっていうのに・・・

 こんなに根にもたれるのなら、もっとちゃんと握っとけばよかった。少なくとも二、三回は揉んでやるべきだった。いやいや十分間は揉まないと釣り合わないぞ。有斗は大きく損した気分だった。

「そこでだ。私の友達に会ってもらいたい。それで少しは貸しをなくしてやろう」

「それで許してもらえるの?」

 これ以上この娘に少しでも関わりたくない有斗としては、それで貸し借りがなくなるのなら願ったりかなったりだと喜びを露わにする。

「一部だ。一部だぞ」

 だがアエネアスは有斗に釘を刺すように『いち』におおきくアクセントを置いて強調する。

 あ・・・そうですか・・・

 有斗は抗議したいのはやまやまだったけれども、アエネアスの怖さに躊躇(ちゅうちょ)し、台風のように怒りが側を通過していくのを、黙って見逃したほうがよさそうだと判断し、口を(つぐ)む。

「わかったよアエネアス様の頼みだ、会うよ」

 その有斗の返事にアエネアスは軽く頭をかいて、言葉を追加した。

「ん・・・ちょっと訳ありでね。できればある場所まで行ってほしいんだけど、ダメかな?」

 ん? なんだろ。こっちに来れないわけでもあるのかな?

 いや、待てあのアエネアスがこんなにしおらしいのがそもそもおかしい。これは警戒したほうがよいのでは・・・? 有斗の心にむくむくと警戒心が沸き起こる。

「・・・まさか行った先は落とし穴があるとか・・・?」

 バラエティー番組とかでよくある、馬鹿な芸人をはめて笑う罠・・・

 そう考えた有斗をアエネアスはにらみつける。

「なんでそういう結論になるのだ? お前はいったい、私をどういう存在として認識しているんだ!?」

「・・・あまり触れないほうがいいカンジ?」

 思わず本音を言ってしまった。

 パンチでも飛んでくるかと思ったが、その有斗の言葉に、珍しくアエネアスは暴力を振るわず首肯するだけだった。

「ほう、奇遇だな。私もお前に関して同じ想いを共有しているぞ。珍しくお互いの意見が一致したようだな」

 ・・・・・・そうですか。まったく嬉しくないけど。

「安心しろ、別に落とし穴などない」

 それならば行っても・・・いいか?

「じゃあ会いに行くよ」

 そう言って有斗が椅子から立ち上がった時、アリスディアがちょうど荷物を持って部屋に帰ってきた。

「あれ、どこかにお出かけですか、陛下」

「うん。アエネアスが人と会ってくれと言うから会ってくるよ」

「陛下自らがお出ましに・・・?」

 王と誰かを会わせたい。そう思うこと事態はありえない話ではないが、身分からいっても、そのような時は相手が王の下に来るべきで、王が相手のところに行くなどという話はありえない。身なりはともかくも、貴族の令嬢であるアエネアスがそのことに思い当たらないわけが無い。アリスディアが怪訝(けげん)な顔でアエネアスを見る。

「なんか僕が行かないとダメみたいなんだ」

 アエネアスは何故かアリスディアと目線を合わせようとしない。

 妙だな・・・

 やはりこれは行った先に落とし穴があるというパターンか・・・?

「どこにです?」

 にこやかな笑みを浮かべてアリスディアはアエネアスを問いただす。

「いや・・・ちょっと、ね」

 アエネアスは有斗の手をつかんで部屋の出口に行こうとしたが、アリスディアが扉とアエネアスとの間に体を滑り込ませて、両手を広げ、通すまいと立ち塞がった。

「まさか・・・アリアボネではないですよね?」

「うん・・・その・・・ゴメン。そのアリアボネなんだ・・・」

 そこで有斗は驚きの光景を目にした。普段は失策をおかした部下に怒るにしても、笑みを絶やしたことを見たことのないあのアリスディアが目と眉を吊り上げて怒っていた。

「・・・あなた! ねぇ!! していいことと悪いことがあります! 陛下をアリアボネに会わせるなんて・・・! 陛下にもしものことがあったら、あなたはどう責任をとるつもりなのですか!!?」

 いつも見られないそのアリスディアの剣幕に、アエネアスじゃなく有斗のほうがビックリした。

 それにしても・・・この怒り方・・・まさか!? アリアボネって猛獣の名前かなんかで、アエネアスはそいつに命じて僕を襲わせるとかか、と有斗は一瞬そういった珍奇な考えに取り付かれる。

「ダイジョウブだよ・・・こいつ馬鹿だし、風邪とかひかなそうじゃん!」

「風邪、ではないでしょう! アリアボネは・・・」

「・・・そうなんだけどさ、本人が強く望んでいるんだよ。会わせてあげたい」

 このとおりとアエネアスが空いてるほうの手で拝むようにして、アリスディアに頼んだ。


「ねぇ、よく飲み込めないんだけどさ。僕が会ってもいいと思ってるんだけど、それでもアリスディアは反対するの?」

 アリスディアは首を振って有斗の言葉に否定を示した。

「アリアボネは肺病なのです。それも末期の労咳(ろうがい)です。別名を結核とも言う不治の病。うつることもある重病です。万一のことを考えると、とても陛下に会わすわけにはいきません」

 結核・・・どっかで聞いたことあるな、と有斗は考え込んだ。

「うつるとは限らないんだし・・・ね」

 アエネアスはアリスディアの肩に手をかけて退かせようとしたが、アリスディアは頑強に扉の前から動こうとはしなかった。

「もしうつったらという話をしているのです!」


「・・・思い出した! 結核って明治の文人が(かか)って死んだやつだ・・・!」

 正岡子規とか石川啄木とか樋口一葉とか国語の教科書に載ってた気がする・・・。

「やはり陛下の世界でもありましたか。怖い病です。お会いにならないほうがよろしいです」

 あれ・・・たしか・・・

 有斗は小さいころの記憶をひっくり返してみた。なにかが結核というキーワードにひっかかっていた。

「・・・ん? ・・・ということは会っても大丈夫だ」

「は? 私の話を聞いてくださいましたか?」

 珍しくアリスディアの有斗を見る目が険しい。・・・アリスディアでもこういう表情するんだ・・・普段優しいだけにけっこう傷つく。

「うん。だって僕、BCGしてるもの」

「びーしー・・・? なんでしょうか、それは?」

 アリスディアは聞きなれぬ言葉に戸惑っているようだった。

「僕のいた世界ではね、明治時代・・・つまり昔は不治の病だったんだけど、今は治療すれば治る病になってるんだよ。それに僕はBCG接取を小さいころしている。これはね予防なんだ。これをしておくと結核に対する耐性が僕の体に出来て結核にかからなくなるんだよ」

 有斗は腕をめくって肩にあるBCG接取の後を見せた。

「僕は結核にかからない。だからその人と会ってもなんの問題もないんだ」

 得意げな有斗だったが、ここで訂正しておこう。BCG接取は乳幼児結核の予防には8割ほどの効果があるが、成人結核に対しても効果があるかどうかは疑問視されている。つまり有斗の完璧な認識違いだったわけだが、さすがのwikipedia先生もネットのないこの世界では、有斗の認識ミスを訂正することはできなかった。

 だがそんなことなどおかまいなしに、有斗は大丈夫とばかりに胸を張って見せていた。

「・・・陛下がおられた世界ではそんなものが・・・」

 アリスディアが口をぽかんと上げて有斗を見る。

「・・・おい!」

 突然、アエネアスが有斗の両肩を掴むと、激しく僕を揺すぶった。

「はいぃ?」

 びっくりして引き気味の有斗に、アエネアスは畳み込むようにまくしたてた。

「そのびーしーなんとかってお前は持ってないのか!? 治療はお前でもすることができるのか!? できるのならアリアボネに・・・!!」

 アエネアスは訴えるような眼差しで有斗に頼み込んだ。

「無理だよ。僕は医者じゃないもの・・・」

「・・・なんだ・・・やっぱり使えないやつだな、お前」

 アエネアスは落胆した表情を見せた。

 ・・・使えなくて悪うございました。

「わかりました。それならばお会いしても構わないでしょう。私もご一緒します」

 アリスディアは有斗に許可を与えるかのように(うなず)いた。

「労咳が怖いのなら、無理してついて来なくてもいいんだよ?」

 アエネアスが嫌みったらしくアリスディアに問いかける。

「行きます。私とてアリアボネの友です。お見舞いに訪れるのは当たり前のことでしょう? それに陛下さえ無事であるのならいいのです、私が労咳になったとて何ほどのことでもありませんし」

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