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英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です  作者: 氷雨そら


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雪に閉ざされた楽園 3


 三日続いた吹雪が止んだ。

 久しぶりに窓からは青空が見える。


「大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」


 問題ないと言いながら、カナン様はコップを掴みそびれた。

 片目になったことで、遠近感が捉えづらいようだ。


「これは、調整に時間がかかりそうだ」

「第一線から退くという選択は」

「ない」


 カナン様は言い切った。


「そんな顔をしないでくれ――王国の言いなりになって戦うかは別として、強い魔獣が現れたときに、戦わない選択肢が俺にはないんだ」

「……戦いたくないと仰っていました」

「出会った頃の話か……よく覚えていたな」


 七年前、カナン様と出会ったとき、私は彼の正体を知らなかった。彼は魔力を使い切り、回復までの間魔法が使えなくなっていた。

 カナン様は優しくて、少し不器用で、お人好しだった。


 ――戦いは嫌いだと、戦いたくないと言っていた。


「……今も戦うのは好きではない」

「それなら!」

「お父さま〜?」


 カナン様は私から視線を逸らし、シェリアを抱き上げた。昼寝から起きてきたようだ。


「守りたいから」


 その言葉への明確な答えを見つけることはできなかった。

 そのとき、窓をコツコツと叩く音が聞こえた。


「ああ、ようやく連絡がついたか」


 カナン様が窓を開けると、大きな茶色い鳥が部屋に入ってきた。


 飼い慣らされた魔獣の一種だ。

 とても賢く、軍部では伝令に使われている。

 吹雪や嵐の中でも飛ぶことができるという。


「……邪竜に関しては、適切に処理されたか」

「……倒したのですよね?」

「ああ、素材の分け前もある。体調が整い次第、王都に戻り状況を説明するようにと陛下からのお達しだ」

「……」


 カナン様は、あの場で力尽きてもおかしくなかった。

 けれど、邪竜と戦っていたのは南端。

 この場所は王国の北端だ。


「邪竜を倒した直後、光の精霊の力が復活し、死にかけていた俺は安全な場所に転移させられた――といったところか」

「……嘘は言っていませんね」

「本当に急な転移だったから、監視もついてなかった。問題なかろう」


 ……筆頭魔術師であるカナン様は、国王陛下に直属している。

 大きな権力を持つと同時に、常時監視されてもいる。


 カナン様は抱き上げていたシェリアを下ろして呟く。


「せめて七歳の魔力測定までは、シェリアの力は隠したい――一番良いのはそれまでこの場所に君たちを匿うことか」

「……」


 魔力が高いシェリアは未来の戦力とみなされ、魔塔に所属させられる可能性がある。


 カナン様の言うことが正しいのかもしれないが……。


「ぜーったいに、やっ!!」

「シェリア?」

「お父さま、家族ができてうれしいって言った。いっしょにいるのっ!!」


 そのとき、扉が勢いよく開かれた。


「誰だ……っ! 王都から来たのか!? め、めめめめ……姪と姪の子には手出しはさせん!!」


 飛び込んできて、私たちとカナン様の間に割り込んできたのは叔父だった。

 戦うつもりだったのか、彼の手にはデッキブラシが握られていた。

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