筆頭魔術師 4
「――帰ろう」
「ええ、そうですね。シェリアも待っているでしょうから」
「――はっ」
カナン様はすっかり赤くなってしまった目を見開いた。
そしてガクガクと震え始める。
おおかた予想はついている。彼は悪くないのだが……。
「大丈夫ですよ」
「で……でも、他の女の人と一緒にいるなんてお父さま嫌い! って言われたら――生きられない」
「わかってくれますよ。とりあえず、戻りましょう?」
「――そうだな。急に来てしまったのだろう? はっ、シェリアは今、一人なのか!?」
「叔父様が帰ってきていますから……」
カナン様は、ホッとしたようだった。
「そうか、アルフレド殿にも守りの魔法をかけてあるから……問題な……はっ、浮気者はフィアーナと別れろと言われたらどうすれば」
「叔父様は、そんなことで別れろなんて言いません。さあ、帰りますよ!」
「――そうだな。移動魔法を……ああ、無理なのか。魔力が半分しかないと、もう一度使うのは難しいみたいだ」
「……」
カナン様の右目は眼帯に覆われている。
魔力のほとんどは瞳に宿るという。
彼の魔力が半分になったことで、力は確実に失われたのだ。
「歩いて帰りましょう」
「ドレスとその靴では、歩きにくそうだな……てっ、手を……」
「ふふ、ありがとうございます」
私たちは丘を下る。
「手を繋いで丘を歩くなんてピクニックみたいですね」
「そうだな、今度はシェリアも一緒に……」
カナン様は私に笑いかける。
少しの間、付き合いたての恋人みたいに、手を繋いで丘を歩いた。
* * *
「おかえり」
「叔父様、ありがとうございました。シェリアは?」
「眠っている」
「……っ!」
カナン様が蒼白になって、寝室に走っていった。
多分、シェリアは大きな魔法を使ったせいで眠ってしまったのだ。
「問題なさそうですか?」
「ああ、大丈夫。眠っているだけだ――あれほどの魔法を行使していながら」
「それほどの魔法ですか?」
そういえば、王城に移動してしまう直前、叔父様はシェリアの魔法を見て『伝説の大魔法』と呟いていた。
そこで初めてその魔法の異様なほどの力に気がつく。
魔力が半分になったとはいえ、カナン様ですら王城内と王城からの移動魔法を使っただけで、これ以上移動魔法は使えないと言ったのだ。
シェリアがカナン様を助け出したとき、彼は王国の南端から北端まで移動した。
伝説の大魔法を行使したシェリア。
光の精霊マリルの力を借りたとはいえ、彼女はまだ三歳なのだ。
天才――あまり好きな言葉ではないが、彼女のためにある言葉かもしれない。
「色々考えなくてはいけないけれど……まずはシェリアの様子を見に行かなくては」
私は急ぎシェリアが眠る寝室へと向かった。




