筆頭魔術師 3
――そして、父と母が遠征先から帰らなかったあの日……魔塔から迎えが来た。
親族は魔塔からの多額の謝礼金欲しさに俺を売ったのだ。
『……やあ』
『……君は?』
『同期――かな? 俺はセシル』
彼は銀色の髪と赤い瞳をしていた。
『僕はカナン。赤い目……初めて見た』
『紫のほうが珍しいだろ?』
『……そうなの?』
『……何も知らされてないのか。大方、親がこれ以上魔石を手に入れられなくなって、ここに来たってとこか』
『魔石?』
『魔力が不安定になったときに必要だろ』
『御守りの石のこと?』
父と母は、俺が熱を出す度に御守りだと言って宝石を握らせてくれた。不思議とその石を握ると熱が下がり、体調が良くなった。
『親がそう言ってたのか?』
『うん……』
『……ここにいる奴らの半分は親が魔石を手に入れられず死にかけ、もう半分は金目当てに売られた――結局、お前はどちらだ?』
『父さんと母さんが死んで……親族に売られたんだと思う』
『ふーん。両方か……親が働き通しで死んで、親族に売られる。よく聞く話だ』
『……っ!』
あのときにはもう十歳になっていた。セシルの言うことが理解できないほど幼くなかった。
――父と母は真面目で能力がある人たちだった。魔術師をしていて金がないはずもない。
全部俺のためだった。俺のせいで両親は苦労して死んだのだ。
『生きるために魔石を手に入れるには戦うか魔導具や魔法薬を開発するしかない。だが、俺たちの瞳は赤と紫――さっさと功績を挙げてここから出ようぜ』
セシルに誘われるまま、俺は戦い始めた。
何も考えられず、考えることもせず――ただ。
だが、セシルと俺には決定的な違いがあった。
セシルは人を相手に戦うことに耐えられたが、俺は耐えられなかった。
* * *
「それでついた二つ名が獣狩り。人を相手にせず、魔獣討伐の任務しか受けなかったから」
「――そうですか」
「だが、人が死ななかったわけでもない。仲間が死にそうなのに、足がすくんで助けられなかったときもあったし……見捨てて逃げ延びたこともあった」
「……」
「魔塔では人相手の任務と魔獣討伐の任務では報酬が桁違いに違う。俺の魔力は強いから、魔獣を狩って得る魔石だけでは到底足りず……君と会ったあの日も魔力がコントロール出来ずにいた」
――カナン様は具合が悪そうにしていた。
魔力があふれ出てよほどの力を持つか、私みたいに魔力を持たないがために感受性が低い者しか近づくことができなかったのだ。
「魔獣だけを相手にしていたわけではない。断れない任務もあった……。あの、泣かないで」
「カナン様だって、泣いていいですよ」
「フィアーナ、俺には泣く資格なんてない」
「そんなことはありません。カナン様のお父様とお母様があなたを守りたいと思った理由、シェリアがいる今ならわかるでしょう?」
「あたりまえだ……シェリアはあんなに可愛い」
「あなたも、同じように、可愛い子どもだったはずです」
長男を失った両親は、さぞや自分たちの無力を責めたことだろう。
魔塔に行かせたくないと拒まずに行かせていれば命だけは助かったかもしれないと思ったかもしれないし――カナン様だけは守りたいと思っただろう。
「は、はは……本当だ。俺も……シェリアのためだったら……両親と同じことが出来る……な」
カナン様の口から乾いた笑いがこぼれた。
彼は手で顔を覆い、頬を伝った涙が地面へとこぼれ落ちていった。
「父さん……母さん……」
きっと、父と母を失ったことで彼が泣いたのは初めてであろう。
私も義父母のことを思い、彼が望まぬ戦いに身を投じたことを思い、泣いた。
私たちしかいない、丘の上で。




