筆頭魔術師 2
「陛下、妻と一緒に来た理由はのちほどお伝えいたします。一度退室をお許しいただいても?」
「次に時間が空くのは夕方だ。あまり早く戻らずきちんと話し合ってこい」
「ありがたき幸せ」
以前は『妻?』としか言えなかったのに、ちゃんと私のことを『妻』と言ってくれた、と感激していると、カナン様の手が私の肩に触れた。
「一度帰ろう」
「そうですね……陛下、お会いできたこと大変光栄でした」
「ああ……第五王女が迷惑をかけたな。急ぎ婚約者を見つけ、夫人に近寄らないようにしよう」
「え……ええ、ありがとうございます」
確かにありがたい申し出だ。
「――それでは、後ほど」
「ああ」
次の瞬間、床に穴があいた――気がした。
どこまでも深い落とし穴のようだ。
「ごめんね」
「どうして謝るのですか」
「嫌な思いをさせたから」
「……私はっ!」
カナン様は私を抱き寄せていたけれど、私からも抱きつく。
「へっ!?」
困惑したような掠れた声がカナン様の口から漏れ出た。
私たちは夫婦なのに、どうして私が抱きついたくらいで――いや、彼はそういう人なのだ。
「ごめ、座標ズレた」
「……抱きついた私が悪いのです」
「いや、うれし……でも、まさか君から」
本当に可愛いんですけどね。
次の瞬間、ドスンッと音がした。
痛みはない。カナン様が全力で下敷きになってくれたから。
「……ここは」
「王都を望む丘……」
「叔父様の家に戻るおつもりだったのなら、ずいぶんズレましたね」
「そうだな……」
カナン様が私より先に立ち上がり、手を差し出した。
その手を掴むと強く引き寄せられる。
「でも、良かったのかもしれない。君に話さなくては、魔塔にいたときのこと」
カナン様は寂しそうに笑った。
「君に嫌われるのが怖い。黙ったまま君を手に入れたと、軽蔑されるのも」
「そんなはず、ありません」
彼が訳ありであることなど、出会ったときからわかっていた。
それでも私がカナン様に心惹かれたのは――不器用な優しさと、私に向けられた好意が、彼の本当の姿だと思えたからだ。
「嫌いになりません。もう、嫌いになんてなれないから……話してください」
「わかった」
カナン様は微笑み、すぐに唇をつらそうに歪めた。
語り始めたのは彼の、きっと彼自身にはどうすることもできない荒波に揉まれるような、人生の一端だった。
* * *
――俺は、魔力が強い一家に生まれた。
父と母は優しかった。
兄がいたらしいが、彼は俺が生まれる直前に巨大すぎる魔力を制御しきれずに命を落とした。
父と母は懸命に働いていた。
父と母は魔力が強く、魔術師団の魔術師として活躍していたから、給料は多かったはずだ。
だが、俺の家はとても貧しかった。
その理由は――俺の命を救うためだったのだと今ならわかる。




