筆頭魔術師 1
私は、冷や汗をかいていた。
「――それで、いい加減になんとかしていただけませんか?」
「娘が申し訳ない」
「遠征に出る際に、第五王女殿下と結婚するつもりはないとはっきりお断りしました。どうして、ここまで婚約者も選ばずにいたのですか?」
カナン様が、ズバズバともの申しているお相手は、国王陛下――のはずだ。
私の前ではどこか頼りなくて、優しくて、自信がないから……私は勘違いしていたのだ。
彼はこの国の中で、国王陛下と対等に、あるいはむしろ上の立場として話すことが出来る唯一のお方だったのだ。
平凡で魔石を愛でる以外に取り柄のない私とは釣り合わない……。
そんな考えが浮かんだ瞬間、カナン様がピタリと黙り込んだ。
「フィアーナ」
「……カナン様?」
「まさか、こんな姿を見て思っていたのと違うと思われた? それともやっぱり、あんな女を近づけさせて怒ってる? はっ、こんな場所まで連れてきたから嫌になった!?」
「――ふふっ」
――国王陛下の御前ということをすっかり忘れ、いつもの彼に安堵の笑いが口から漏れてしまった。
「……君は笑っているほうがいい。ということで、不安の種は除いていただきますように」
「相わかった。ところで、魔塔はどうであった?」
「……塔主が変わったのですね」
「ああ、オルトが帰還してすぐに。知り合いであったな?」
「ええ、付き合いは長いですが……彼は」
そこまで話して、カナン様は口をつぐんだ。おそらく、部外者である私が聞くようなことではないのだろう。
「――オルトよ。差し出がましいことかもしれんが」
「ええ、なんでございますか?」
「夫婦の間では隠し事は最小限が良い」
「――どういう意味でしょうか」
「そなたは、なんでも隠そうとする。それゆえに余も信頼している部分があるが……妃も言うておった。言わねばわからぬと」
「……」
カナン様は再び黙り込んだ。
確かに彼はなんでも隠そうとする。
それが、私を巻き込まないためであったり、守秘義務によるものであることは理解しているが……。
「魔塔の主が彼になった以上、オルトへの接触は不可避であろう。もしかすると、そなたではなく夫人や娘に接触しようとする可能性もある――説明しておけ」
「は……考えさせていただきます」
「ああ、それがよい」
多分、今の言葉は年長者としての助言の類いであろう。
「もしも、フィアーナやシェリアに何かがあったら……この世界は終わりでしょうし」
「え?」
「――頼む、夫人よ。王国の平和は、夫人にかかっておるのでな」
「……え?」
私は辛うじて『荷が重いです』という言葉を呑み込んだのだった。




