魔塔 3
「お父さまも一緒に食べよ〜?」
「――ああ、リーベルン先生の土産か。いただこう」
「おや、疑わないのか?」
「俺の家族に手を出すつもりなら、いくらでもチャンスがあったでしょう」
「君も丸くなったものだ」
四人揃って食卓を囲む。
シェリアはご機嫌だが、リーベルン先生とカナン様は黙り込んでいる。
食事を終えるとシェリアはあくびをした。昼寝の時間だ……。
「シェリアを寝かせてきます」
「ああ、そうだな」
二人の微妙な雰囲気や、リーベルン先生の先ほどの言葉は気になるが……。
シェリアに聞かせる話でもないだろう。
「寝ましょうね?」
「リーブン先生、まだいてくれる?」
「王都にいらっしゃったから、いつでもお会いできるわ」
「よかったぁ……!」
程なくシェリアがお昼寝したので、私はリビングへ戻った。
「……それで、マール公爵令息の呪いについて話していただけますか?」
「話したら命がないことくらい、君は理解しているだろう?」
「守ります……今ならそれくらいの力は!」
「――はは、自分の身は自分で守れるさ。そうだなぁ。彼の呪いに関係がないとは言えない」
まさか、トリス様が呪われた原因がリーベルン先生にあるなんて……。
私はその場に立ちすくんだ。
「そうでしょうね……。あなた以外にはあんな芸当できません」
「以前から研究するように指示が出ていたのだが、病にしか見えない呪いの開発には少々時間がかかってね。ようやく完成して魔塔に渡したところで、公爵令息相手に悪用され、君たちが通りがかり、しかもシェリア君が光の精霊の力で呪いを解いたのはあくまで偶然だ」
リーベルン先生は視線を逸らし、立ち上がった。
「フィアーナ君……私は魔塔の所属員だ。北端にいたのは、魔塔からの指示により君やアルフレド殿を見張るためだよ」
「……でも、もし魔塔が事実を知っていたなら、何かしらの接触をしてきたはずです」
「そうだね。全く、英雄の子であることを隠して育てるなんて……してやられたよ」
リーベルン先生はそう言って笑ったけれど……本当はシェリアが生まれた瞬間から気がついていただろう。
だって、シェリアの瞳は、カナン様と同じ稀有な紫色なのだから。
わかっていて、魔塔に報告しなかったのだ。
「カナン様とは……すでに知り合いだったのですね」
「ふん、他の仕事に目もくれず魔獣ばかり狩っているから『獣狩り』だなんて馬鹿にされていたのに――英雄になるとはねぇ」
「過去の話です――それで、お力を貸していただけるのでしょうか」
「公爵令息に関連した罪を減刑するという条件で、呪いと病の対策のため魔術師団に声をかけられていてね。マール公爵夫妻の口添えもあったそうじゃないか。全く、余計なことをしてくれる」
リーベルン先生は、カナン様に視線を向けた。
魔術師団に声をかけられた……おそらくそれは筆頭魔術師であるカナン様の口添えがあったということだろう。
「――今回だけです。フィアーナとシェリアを守ってくださり、俺の傷を診てくださった恩を返しただけですから」
「君は、フィアーナ君のこと以外では本当に可愛げがない」
「それ……今、関係ありますか?」
「あるよ。英雄の唯一の弱みだからね」
リーベルン先生は、カナン様を揶揄うように笑った。
カナン様はため息をつく。
「あなたは……俺が幼い頃からそうでした」
「子どもは好きなのでね」
「自分の身柄が解放されるだけの額を魔塔に支払えるのに自由にならなかったのは……魔塔の子どもたちの――」
「おやおや、考えが飛躍しすぎているようだ。それに、ここから先は当事者だった君の仕事だろう? では、またお会いしよう」
リーベルン先生は立ち上がり、私にいつものように笑いかけると去っていった。




