魔塔 2
「お久しぶりですリーベルン先生、王都にはいつ?」
「先日戻って来たんだよ」
「リーブンせんせい! 元気だった?」
リーベルンと言えなかったシェリアは、彼のことをリーブンと呼んでいる。
彼はニッコリと笑った。
「元気だったとも」
「会えなくて寂しかったの! ねえ、どこにいたの!?」
「遠くに行ったのは君たちなのだが?」
「……? シェリーね、リーブンせんせいに会えてとってもうれしい!」
「そうか……再会がうれしいことこそ真理か」
「うん!!」
シェリアはうれしそうに彼に飛びついた。
出産時にも力を貸してくださったから、シェリアが生まれたときからお世話になっている。
「私も会えてうれしいよ。シェリアも元気そうで何よりだ」
「うん、元気だったよ!」
リーベルン先生は王都で有名な医師だったと叔父様が言っていた。
私が叔父様を頼って北端に行った、その少し前にあの場所に診療所を開いたという。
紺色の髪に銀色の瞳をした彼は、五十才くらいだろうか。
「アルフレド殿と……カナン・オルトは?」
「あ……二人とも仕事で」
「不用心な、まあすぐ帰ってくるのだろうが」
「え?」
「こちらの話だ」
リーベルン先生はなぜか眉根を寄せた。
「仕事……魔塔に行ったのかな?」
「え? どうして」
「そうやって素直なところは君の美徳であり弱点だ」
リーベルン先生は、見たことのない冷たい笑みを浮かべた。
「リーブンせんせい! シェリーと遊ぼ!」
「おやおや、少しおじゃましても良いかね」
「もちろんです。今からお昼にしようかと。ご一緒にいかがですか?」
「おや、ご相伴に預かろうか。これは土産だ」
リーベルン先生が差し出した箱にはサンドイッチが入っていた。
「まあ……では、せっかくですのでこちらをいただきましょう」
リーベルン先生が、シェリアと遊んでくださっている間にスープを温め直し、お茶を淹れる。
「お待たせしました」
「すまないね。急に来ておいて」
「いいえ、逆にお気遣いいただいてすみません。ところで、王都にはなにかご用事でも? 学会ですか?」
リーベルン先生がたまに学会だと行って診療所を空けていたことを思い出し聞いてみる。
リーベルン先生は、困ったように眉根を寄せて笑う。
「古巣に呼び戻されてしまってね。あの場所が気に入っていたが……仕方ない」
「そうでしたか……」
北端で医師は貴重だ。
リーベルン先生は、誰であろうと平等に診察し、夜中であろうと嫌な顔一つせずに診てくださっていた。
誰からも尊敬されていたし、私も尊敬するとともに感謝している。
そのあともリーベルン先生と思い出話に花を咲かせた。
「そういえば、シェリアはもう熱を出したりしてないのか?」
「ええ、おかげさまで」
「まあ、彼がそばにいれば問題なかろうが……」
リーベルン先生には本当にお世話になった。
シェリアはすぐに熱を出す子どもだったけれど、リーベルン先生が往診してくださると不思議とすぐに熱が下がった。
――薬も処方しないのに、診ていただいただけで。
「……」
「どうした?」
「もしかして、シェリアの熱は」
「おや、ようやく気がついたのかね。魔力熱だよ。獣狩りから聞いたのか」
背中がゾクリと粟立った。
獣狩り……そんな言葉は聞いたことがない。
けれど、シェリアの魔力が高いから具合が悪くなるかもと私に話したのは……彼だ。
「獣……狩り?」
「おや、口が滑った」
そのとき、扉が勢いよく開いた。
「おや、獣狩り。魔塔に行ったのではなかったか?」
「――どうしてここに?」
「不用心だよ君」
「俺や彼女に敵意がある者は入れないようにしていました」
「もちろん、君たちに敵意などない。好奇心はあるがね」
リーベルン先生がほの暗く笑う。
今日、彼の笑みはコロコロ変わりまるで二人いるかのようだった。




