魔塔 1
「お父さまとお母さま、どうしてお顔赤いの〜?」
「「そっ、それはっ……」」
目が覚めるとシェリアはすぐに質問を投げかけてきた。
三歳児の質問は無邪気ゆえに答えにくい。
「……お風邪引いちゃった?」
シェリアが涙目になった。
私たちは慌てた。
「違うのよっ!」
「少し暑かっただけだ!」
「そーなの?」
シェリアがホッとしたように笑う。
コロコロ変わる表情は可愛らしく、私たちを釘付けにしてしまう。
三人で朝ごはんを食べる。
シェリアが私たちの間に座ってご機嫌だ。
カナン様は彼女の姿を見つめながら、どこか物憂げだ。
「そういえば、シェリアに伝えておかなくては」
「なぁに?」
「君の魔力は多い。恐らくこれからも多くなっていくだろう。そして、成長過程のどこかで必ず器に収まりきらなくなる」
「魔力? 器?」
「……まだ難しいだろうが、覚えておくんだよ。俺がそばにいない時に具合が悪くなったら、誕生日に贈った御守りに魔力を込めるんだ」
「これ?」
シェリアが襟ぐりから手を入れて取り出したのは、誕生日にもらった魔石だ。
四属性と光の魔力が込められた魔石。その横には結婚式の直前に贈られた紫色の魔石も揺れている。
「シェリアなら上手にできるな?」
「うん! シェリー、できるよ!」
シェリアは無邪気に笑った。
けれど、カナン様はどうして今朝この話をするのだろう。
「カナン様……初めてお会いしたときも、そうだったのですか?」
あのとき、カナン様の魔力は大きく溢れ出し、誰も近づくことができなかった。
私は魔力がないから影響を受けず、叔父様は強い魔力を持つから一緒にいられたけれど……。
「そうだな。あれが最後だったが……幼いころから繰り返し、同じような状態になっていた。それに兄は魔力が抑えきれず、もちろん高価な魔石には手が出せず幼い頃に……」
「……では、シェリアはこれから何度も苦しむのですか? それに、死んでしまう可能性まで!?」
思った以上に深刻な内容で青ざめてしまう。
しかし、カナン様は私を安心させるように笑みを浮かべた。
「俺がそばにいれば魔力制御は問題ない。それにアルフレド殿に協力を依頼すれば、シェリアの魔力にふさわしい魔石がいくらでも手に入るだろう」
「わかりました……でも、どうして今朝になって伝えようと思ったのですか」
カナン様がそばにいれば問題ないなら、慌てて話す必要はなかったはずだ。
まるで、戻ってこられないと言われているようで不安になる。
「……」
「魔塔に行くからですか?」
「今日は視察に行くだけだ。早めに伝えておいたほうがいいと思いついただけだよ」
カナン様はかつて魔塔に所属していた。
彼は魔塔にいたときの話をしたがらないが……。
やはり、思うところがあるのだろう。
カナン様は席を立った。
どちらにしても、これは公爵家の嫡男であるトリス様まで巻き込んだ事件だ。
魔術師団長としての任務なのだから、私が止めることはできない……。
「では、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃ〜い!」
私たちはカナン様を見送った。
今日は叔父様も魔石の取引の件で、陛下に呼び出されている。
机の上には未鑑定の魔石が並んでいる。
「魔力が溢れそうになったら、魔石に魔力を注げばいいと言っていたけれど……」
ティアラは金庫にしまい込んでいる。
嵌め込まれた魔石は、元々闇属性を持っていたが、強い魔力が込められていた。
繰り返し魔力が込められたように……。
「私にできることがあったわ……魔石を鑑定してシェリアに合ったものを見つけるの」
自分にできることは、今のところそれくらいしか思いつかない。
シェリアはおとなしく一人で遊んでいる。
その横で私は久しぶりに魔石の鑑定作業を始めた。
* * *
「そろそろお昼ごはんにしましょうか?」
「うん! ハンバーグ食べる!」
「あら、それはお父さまが帰ってきたらね?」
「うん!」
来客を告げるベルが鳴った。
カナン様がもう帰ってきたのだろうか。
覗き穴から確認する。
「リーベルン先生!」
訪れたのは、北端でお世話になっていた医師、リーベルン先生だった。




