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英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です  作者: 氷雨そら


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結婚式 3


 中央神殿に集まったのは、ごく一部の者のみ。

 厳かな雰囲気で結婚式は進行する――はずだったが、そこは三歳児を連れての式典だ。


 神殿の祭壇を囲むように、獣の形をした土と水と光と闇の精霊の巨大な像。

 その大きさに驚いてしまったのだろうか。シェリアはベールを持ったまま固まって動けなくなった。


「あれ、動く? おっきくて怖い……」

「大丈夫。動かないよ」


 トリス様が声をかけてくれてことなきをえたが……。


 指輪の交換と誓いの言葉。

 静まり返った神殿内に陽気な歌声が響く。

「おめでと〜おめでと〜」

「シェリア嬢……今から指輪の交換をするんだから歌っちゃだめだよ」

「え? プレゼントあげるところで歌わないの? シェリーのお誕生会では歌ったよ?」

「結婚式では歌わないの。静かにできる?」

「うん! シェリー静かにできる!」


 シェリアは誕生日のお祝いと一緒だと思ったらしい。

 三歳の誕生日、確かにたくさん歌ってお祝いした。

 可愛らしいエピソードと歌声に、参列者は笑みを浮かべていたが……。


「あっ……」


 トリス様が困惑したような声を上げた。

 指輪を交換しようとしていた私たちも上を見上げた。


 ドーム型の天井には繊細なレリーフとともに、火と水の精霊が飾られている。


 舞い散ってきたのは精霊からの祝福の光――それ以外に表現しようがない。


 カナン様に視線を向ける。

 彼は私を見つめ、ニッコリと微笑んだ。


「俺から君への贈り物だ。尊き精霊に賜りし我が魔力は、冥府に旅立つときまで長く君を守るだろう」


 古代の結婚式で夫婦が交わしたという言葉。魔獣との戦いで人々は明日をも知れぬ生活をしていた。

 子孫繁栄や生に対する祈りが込められているとされているが……平和な昨今では結婚式で冥府という言葉が好まれずあまり使われることがない。


 だが、光が舞い散る中で口にされた彼の言葉は厳かであった。


 火と風の像の周りをマリルが飛びまわっている。

 ――光はシェリアの歌にマリルが反応したようだ。誤魔化せるだろうか。

 私もカナン様に微笑みかけ、口を開いた。


「……私は冥府に旅立つその日まであなたの帰る場所になりますわ」

「冥府でも一緒にいてほしい」

「ふふ、とりあえず長生きしてからです」


 指輪を交換して、口づけを交わす。

 その瞬間、ポポポポンッと外でなにかが弾けるような音がした。


 神殿の扉から強い風が吹き込んで、参加者のマントやドレスをバサバサと揺らす。


 風とともに花びらが舞い込んでくる。

 薔薇の花びらのようだ。

 シェリアの力ですでに春の花が咲き、早めの春が訪れていたが――薔薇が咲くには気が早すぎる。


 長いため息が聞こえた。

 陛下のため息である。


「さて、精霊に祝福されし英雄夫妻の結婚式が無事に執り行われたことを外で待つ国民たちに告げてくるとするか」


 陛下はそう言って、一足先に神殿に設けられたバルコニーへ向かった。


 もちろんこの日の夜から吟遊詩人は、英雄夫妻がいかに精霊に愛されているのかを春に咲いた薔薇の逸話とともに詠うのだ。


 

 

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