王都とお城 6
「さて、どうしたものか。光の精霊、火の精霊、魔石、アルフレド商会、英雄の子、王位継承順位の大幅変更――邪竜の骸の扱いもあったか……」
長いため息だった。
国王陛下が己の感情を表に出すなどあり得ないとされている。
これはここにいる者たちを信頼するという意思表示でもあり、懸案事項があまりに大きいということでもあるのだろう。
「ふむ、呪いの件についてであろうな。問題が大きく、全員が揃っていないと解決できないことから始めるとするか」
「これからご報告させていただこうと思っておりましたが……」
「みなまで言うな。トリスの病については呪いの線も疑ってはいた。だが、病に見せかけてあまりに巧妙に魔力が隠されていたものでな」
「……」
「光の精霊といえど、身体欠損や病を治すことはできぬ。つまり呪いであったということだ」
「は――ご慧眼、恐れ入ります」
「ご慧眼とな。孫の呪いも解除できないとは、この座も無力なものよ」
陛下の膝からトリス様が降りた。
「陛下、火の精霊の御名を授けられたことは、父と母にも話しておりません」
「なぜ、話さなかった」
「父は精霊の御力を借りることができず、魔法が使えないために王位継承争いから退きました。第一王子であったにも関わらず。王位継承権の序列は、精霊のお力を借りられるかどうかで決まる……陛下はよくご存知のはずです」
トリス様は、再び祖父のことを陛下と呼んだ。
トリス様の父、マール公爵は第一王子で正妃の子だった。
そして現在の国王陛下は生母の身分が低く、しかも一番末の王子であった。だが、陛下はほかの王子とは違い精霊のお姿を見ることができたし、精霊の御名を聞き取ることもできた。
――当時、王位継承権争いは激化し、城内は大きく荒れたという。
マール公爵は父の代のように城内や国が荒れることを望まず、早々に臣下に下った。
「トリスは儂の孫だ。人の決めた爵位や身分など、精霊の御力の前では無意味だ」
「だから王太子殿下が即位されるまで、隠し通すつもりでした。父と母にも話さなかったのはそのためです。でも、王位継承権を持つうちの誰かに知られてしまったようですね。だから呪われたのでしょう」
「トリス……」
トリス様の立場がとても危険なものであることは理解した。
彼が逃げたいと思うのもわかる。
精霊を重んじるこの国では、王家の血を継いでいて精霊のお力を身に宿すことが重要だ。
王太子殿下が即位してしまえば、トリス様は王位継承権争いから離れることになるが……。
「……やだ」
「ん?」
「やだ! 僕は騎士団長になるんだ!」
「んん……?」
「やだやだ! 国王になったら、騎士団長になれないよ!」
だが、トリス様は王位継承争いから逃げたかったというより、夢を叶えたかったようだ。
しかし、その言葉に陛下は老獪な印象の笑みを浮かべる。
「なるほど……初代国王陛下は、我が国の騎士団の初めての長でもあったそうな」
「……!?」
トリス様の瞳が煌めいた。
「それから時を経て、五代国王陛下は精霊のお力を賜り、誰よりも強い騎士としてやはり騎士団の長として魔獣との戦いの最前線にいたという」
「……そんな話、聞いたことがないよ」
「王家の歴史の中でも、王城にある書物にしか書いておらぬからのう……どうだ? 興味があるかね」
「お祖父さま、今日お城に泊まっていってもいい?」
「もちろんだよ、トリスや」
国王陛下は幼いトリス様の心を簡単に掴んでしまった。
好々爺としての表情を浮かべていた陛下だが、直後に彼の立場に相応しい冷たい笑みを浮かべた。
「さて、だがトリスの親権は父母にある。我が息子ジェイズと相談しなくてはのう……。それと、魔塔にも立ち入る大義名分が手に入って何よりだ」
陛下の視線はカナン様に向かっていた。
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