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英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です  作者: 氷雨そら


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王都とお城 4


「――照りが良いですね。内包されているインクルージョンは、水と風と光……まるで森の中に湧く泉に光が差し込んで精霊たちが集まっているようだわ」


 美しい景色だ。

 質の高い魔石は、その中に風景を映し出す。

 ときに流れるマグマを、どこまでも続く広大な大地を、晴れ渡った青空を。


「……ふぅ、とても鮮やかで、明るい。上質な魔石の特徴を有しています。ところでカナン様、私は皆さまに歓迎されていないようですわ?」

「なるほど、それは許しがたい」


 カナン様に視線を向ける。

 すると彼は心得たように私の横に立った。

 本来は王族に言うべき台詞ではない。


 ――でも、筆頭魔術師の妻として過ごすなら、下に見られるわけにもいかない。


 私には力がない。でも、色恋だけで私と結婚するのだとカナン様が私を選んだと嘲笑われるのはごめんだ。


 それに簡単に御せると思われたら、彼らは私からシェリアを奪おうとするだろう。


「私のことを試したのですか?」

「……何のことだ?」


 国王陛下は本当に覚えがないようだ。


「人工の魔石。質が高い無属性の魔石に魔力を込めたのですね。今は美しい色ですが、時間とともに魔力が抜ければ無色に戻ることでしょう」


 短期間とはいえ、魔石に属性と魔力を付与する。そんな技術が実用化されていることには驚いた。


 先日、カナン様がシェリアに贈るために精霊の力で魔石の破片を組み合わせて新たな魔石を作るところを見せてくれていなければ、気がつけなかっただろう。


「三属性の上質な魔石だと私が言ったところで、種明かしするおつもりでしたか?」

「おやおや、私の妻を嘲笑うおつもりだったとは……筆頭魔術師である私は陛下にも跪く必要がない。けれど、妻にだけは膝をつくと決めているのですが」


 カナン様が冷たく笑った。

 彼は今まで、ただ王国のためだけに黙して戦い続けてきた。だが、それはあくまで彼の自由意志によるものであったのだと、周囲は理解することだろう。


「――おや、ディアスも怒っているのか? 君は彼女のことをいたく気に入っているものなぁ」


 カナン様は舞台に立つ悪役のようだ。

 貴族も王族もすっかり青ざめている。


「本物の魔石を用意した。直前にすり替えられたようだ」

「まあ、なんてこと! 誰がすり替えたのでしょうね?」

「それは」


 でも、私にもわかる。

 だって彼女は私が真贋を見分けたとき、悔しそうに顔を歪めた。


「――え、確かに腹は立つが」

「――カナン様?」

「あまり大事にするのは……あっ、行ってしまった」


 闇の精霊ディアスが現れて、魔石の台座に前脚を載せた。

 カナン様は息を吐いて、杖を手にした。

 バサリとマントを翻せば、静まり返っていた人たちの視線は彼に集中した。


「せっかく邪竜を打ち倒したというのに、誰かのせいで祝いの席が台無しだ――おや、闇の精霊がこの場の空気をなんとかしてくださるようですよ?」


 カナン様が杖を大きく振った。

 杖にまとわりつくのは闇の魔力。


「ディアスよ、そのお力をどうぞ私に貸してください」


 魔石に杖が触れた瞬間、パキンッと音がした。

 おぞましい闇の魔力が吹き出して、次々と魔術師団員たちや王族が膝をついていく。


 私とシェリア以外で立っているのは騎士団長と魔術師団員の一部、国王陛下と――トリス様だけだ。


 トリス様の前には赤い魔法陣。

 火に包まれた鳥が現れて大きく羽を広げた。


「呪いが解けたから出てこれるようになったの? だめだよフォール、お祖父さまには見えちゃうんだよ。秘密にしたかったのに」


 トリス様がため息をついた。

 フォールと聞き取れた。

 炎をまとった鳥など、一つしか思いつかない。


「もしかして……火の精霊の御名」


 しかし、シェリアの元気な声に思考が中断される。


「……シェリアもお手伝いするっ!」

「……あっ」


 シェリアが私に抱きついてきて、魔石に手を差し伸べた。

 彼女の頭の上で動かずにいたマリルが、ディアスの上に飛び乗る。


「もうっ! 秘密にするのが約束だって言ってるのに!」

「トリスさま? えー、お父さまのお手伝いもだめなの?」

「だめなの! こっちに来て!」


 トリス様に引き寄せられて、シェリアは頬を膨らませた。


「じゃあ、マリル。シェリーの代わりにお父さまを手伝ってね」


 シェリルが呟いた言葉は、ピキピキと響く音で誰にも聞こえなかったはずだ。


「おやおや、光の精霊までお力をお貸しくださるのですか」


 カナン様はさも当たり前、とでもいうようにちょっと邪悪な笑みを浮かべた。

 しかし、彼はきっと次々起こる予想外の事態に冷や汗をかいていることだろう。


 次の瞬間、魔石は太陽が爆発したような強い閃光を放った。

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