王都とお城 3
「――孫を助けてくださったこと、感謝する」
国王陛下が壇上から降りてきて、私たちに頭を下げた。
本来であれば、陛下が臣下に頭を下げるなどあってはならぬこと。
だが、彼はトリス様のことを『孫』と言った。
つまりこれはあくまで、家族を助けてもらった一個人としての礼なのである。
「陛下、オルト卿が魔法を使い足を治してくださったのです」
「トリスさま」
「しっ……約束しただろ」
「あっ、そうだった」
「そこで、この可愛らしいシェリア嬢に恋をしました」
「おや、王族の一員になってもらえればと思っていたのだが」
「公爵家の一員ではいけませんか?」
周囲は静まり返った。
カナン様は何か言いたそうではあったが――トリス様がシェリアの力を隠してくれようとしているのが明らかなので何も言えないようだ。
「ふむ、だがまだ君たちは幼すぎるからなぁ」
「そうですか――では、今のところは予約だけで結構です」
トリス様はにっこりと微笑んだ。
彼には五歳とは思えない威厳がある。
私などよりもよほど大人びて……。
「じゃあ、やっぱり騎士になるほうが早いのかな?」
「……」
だが、やはり五歳児なのである。
マール公爵夫妻が、慌てて入室してきた。
「――陛下、ご無沙汰しておりました」
「ようやく来たか」
トリス様は、完璧な礼をしてみせる父母の元へ戻った。
彼の発言により、何もかもがうやむやになったかに見えた。
だが、私の出番はここからだったのである。
「そうそう、オルト夫人」
「――はい、陛下」
「アルフレド商会の魔石の鑑定は、全て夫人によるものだったと聞いているが誠か?」
「……?」
事実、私は北端のリーゼで毎日魔石を鑑定していた。
そのほとんどは、魔石問屋から預かった石であったが――時々、三属性までの上質な魔石が混ざっていることがあった。
叔父様に視線を向ける。軽く頷いているところを見れば、事実らしい。
いつの間に私は、アルフレド商会の取り扱う魔石まで鑑定していたのか。
なんとなく、数が多いなぁとは思っていたのだ。
「はい、私が鑑定しておりました」
「ふむ、ではこちらも鑑定してもらえるだろうか」
その言葉を待っていたかのように、扉が開かれて台座が運び込まれる。
台座の上には艶やかな布がかけられている。
「……魔力がないのに、魔石が鑑定できるはずないわ」
それは囁き声程度のものだったが、静まり返っていた室内では妙に響いた。
言葉の主は、第五王女殿下だった。
確かに、一般的には魔石の鑑定には魔力を使う。
だが、魔力がないから鑑定できないというわけでもない。
――鑑定士による鑑別は、時に魔力を用いた判断よりも正しいのだ。
「カナン様」
「君の実力を見せてやればいい」
「――ええ、わかりました」
カナン様が戻るまで、魔石の鑑定を生業にしてきた。
どこまで私の実力が通じるかはわからないが……。
台座に近づくと、布が外される。
現れたのは、初めて見る金色の魔石であった。
「よければ皆の者に解説しながら鑑定してもらえるか」
「かしこまりました」
私はポシェットからいつも持ち歩いているルーペをとりだして魔石を観察しはじめた。




