王都とお城 1
「わああい、ドレス! お城! お姫さま!」
三歳の語彙力すべてを駆使して喜ぶシェリア。彼女はピンク色のドレスに身を包んでいる。
ドレスは叔父様が用意してくださった。
彼が一足早く王都に戻ったのは、シェリア、そして私が登城するためのドレスを用意するためだったのだ。
驚くべきことに叔父様は、アルフレド商会の店舗を買い戻していた。
叔父様は魔石の売買で以前よりも富が増えたくらいなのだと笑っていたが――たった四年で王都の店舗を買い戻せるとは、驚愕した。
でも、よく考えれば叔父様は、十五歳でジェーン男爵家を出てから自分の力だけで王都に店舗を構える商会を作り上げたのだ。
人脈は残っていただろうし……叔父様は運と実力を兼ね揃えているのだろう。
アルフレド商会の店舗には、私とシェリアをドレスアップする人員まで用意されていた。
叔父様はその場にいなかったが……いつも助けていただいている。感謝の言葉を伝えるだけではとても足りない。
「それにしても、お城に行くことになるなんて、貴族全員が参加する舞踏会以来です」
私に与えられるのはサイズが合わないお古のドレス。新しいドレスを買ってもらい両親とともに過ごして楽しそうな妹の姿を会場の端から眺めて過ごすのは毎年とても憂鬱だった。
――苦い思い出ではある。
それにしても、国王陛下が私とシェリアにまで興味を示され、すぐに王城に招待されたのは予想外だった。
しかし、叔父様は登城に相応しいドレスを用意してくださっていたし、カナン様が驚いている様子はなかった。
二人にとっては想定の範囲内だったのかもしれない。
「可愛い、美しい」
「カナン様……」
緊張のあまり震えていると、何度目かの褒め言葉が告げられた。
カナン様は私の緊張をほぐそうとしてくれているのだろうか。
「シェリアは確かに可愛いですね」
「そして君は美しい」
「……」
「今度は俺がドレスを選びたいな。アルフレド殿に相談しなくては」
「……」
「君ならどんなドレスでも美しく着こなすだろう。今から楽しみだ」
「……」
彼が浮かべる表情は真剣で、すべて本気の褒め言葉のようだ。
本日、カナン様の目は少しばかり曇っている。
いや、以前から会う度に可愛い可愛いと私を褒めてくれた。
あの当時は、なぜこんなに平凡な私を褒めるのか、もしかして分厚い眼鏡のせいで私の顔がよく見えていないのかなぁ? などと思っていたが……たぶん彼は心からそう思っているのだろう。
「カナン様こそ、とても素敵です」
眼帯により厳しい印象は増したかもしれないが、カナン様は天が与えたかのような美貌を持つ。
横顔は彫刻のようで、真っ正面から見つめられれば赤面は不可避であろう。
「うん、ありがとう」
彼の答えは淡泊なものだ。
だが、頬から耳まで赤くなっているのだから照れているのだろう。
「可愛く美しい君たちの隣に立つにあたり、魔術師団の制服はありがたいことこの上ない。制服は人を少しだけ凜々しくみせてくれる……かもしれないし」
「お父さまは、まじゅちゅしだんの制服似合うよ? かっこいいの!」
「お褒めいただきありがとう、俺の小さなレディ」
「うふふ〜」
シェリアが相手だとスマートな対応なのだが……。
「さて、今日は陛下にご報告して君たちを守れればそれで良いのだから……見目を気にするのはよそう」
カナン様は、圧倒的な美貌を持つのに自信がないことこの上ない。
筆頭魔術師だけが身につけることを許された長いマント、胸元で揺れるたくさんの勲章……カナン様はこの王国で一番素敵だろう。
「誰もが見惚れるわね、きっと」
「君を見た人は皆、惚れてしまうに違いない――どんな手を使って阻止するか」
「君たちは陛下の御前で余興でも披露する気かな?」
振り返ると、前髪を上げ紺色の盛装姿の叔父様がいた。
「叔父様……どうしてこちらに?」
「実はマール公爵が陛下に魔石の話をされたらしく、僕にもお声がかかってね」
「そうでしたか」
叔父様は金色の目を細め、あまりにも優雅に微笑んだ。
「叔父様かっこいい!!」
「はは、ありがとう。シェリア嬢……エスコートさせていただけますか」
「いいよ〜!」
叔父様はシェリアの前で背中を大きく曲げて、エスコートの手を差し伸べた。
シェリアがうれしそうに手を重ねる。
――そこから先は、大人と幼児が手を繋いでいる様ではあったが。
「……行こうか」
「はい」
カナン様が差し出した手に手を重ねる。
彼のエスコートは、思った以上に洗練されていた。
今年一年、ありがとうございました。
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