光の精霊の祝福 4
「――ああ、やはりそうか」
カナン様はつぶやいて、大きく息を吐いた。
「……現状では、これ以上近づくのは困難だ」
カナン様は、眼帯を外し右目を押さえた。
痛むのだろうか……心配していると、私の表情に気が付いたのか、カナン様は笑みを浮かべた。
「大丈夫だ。まだ右目の魔力がないことに慣れていないだけだ」
「……」
カナン様が、右眼を失った状態に慣れていないことは理解している。
肉体的には遠近感がなくなったことで、物の位置が把握しきれない。
それに、魔力のほとんどは瞳に宿るのだから、半分になったことでの影響もあるだろう。
「いいこともある。以前は多すぎる魔力を持て余していたが、これくらいの量ならコントロールを失うこともないだろう」
「コントロールを失う?」
「君と初めて会ったときのように、周囲が近づけなくなるほど魔力を垂れ流し、魔法が使えなくなる状況だ。魔力が多いが故に……。そうだな、シェリアにも関係する。君にあとで話しておかなければ」
カナン様の視線は、シェリアに向かった。
彼女は再びトリス様と一緒に遊んでいる。
「そして、依頼主が誰かはわからないが、公爵令息に呪いをかけたのは、魔塔の魔術師だろう」
「魔塔の?」
「……ああ、魔塔の魔術師の中には金を受け取ればなんでもする者がいる」
カナン様も、魔塔に所属していた。
内部のことは、よく知っているのだろうが……。
魔塔は王都の北の外れに立つ巨大な建造物だ。
誰もがその存在を知っていて、力の強い魔術師が多く所属していることも周知の事実。
魔獣の被害に対処する上で、領主が金を払い魔塔の魔術師を傭兵のように雇うこともある。
王立魔術師団と共闘し、王国を守ることもある。
――身近な存在でありながら、謎に包まれた組織。それが魔塔だ。
「……王都に行けば、いやでも関わることになるだろう。それに、君のそばにいた医者は」
「リーベルン先生ですか?」
そういえば、北端を離れる際に挨拶をしようとしたのに、会うことができなかった。
シェリアの出産だけでなく、風邪を引いたり怪我をしたときにもお世話になった。
しかし、まるでリーベルン先生が魔塔に関連しているような口ぶりだ。
「さて、そのことについては王都へ向かう馬車の中で話すとしよう。公爵夫妻には、状況をお伝えするにしても」
「……そうですね」
叔父様は、マール公爵との取引が決まり、ひと足さきに王都へと向かった。
カナン様は、陛下に状況を説明しにいく必要がある。
どちらにしても、王都に向かわねばならない。
カナン様と話をしているうちに、公爵夫妻の表情はみるみる曇っていった。
公爵といえば貴族の頂点なのに、やはり魔塔の存在は特別なのだ。
「……お母さま?」
「シェリア」
シェリアを抱き上げる。その体は温かくて柔らかい。
抱きしめれば、無邪気に抱きついてきた。
何を思ったか、光の精霊マリルが私の頭に乗ってくる。
「さあ、話は終わった……そろそろお暇しよう」
シェリアを下ろすと、彼女は真っ直ぐにトリス様に走り寄った。
二人は再会を約束しているようだ。
「すぐに会えるよ」
「うん! また遊んでね?」
「――もちろん、どちらにしても治ったことをお祖父様に報告しなければいけないし」
トリス様のお祖父様といえば……国王陛下なのである。
馬車は王都へと向かう。
公爵領から王都までは、半日とかからない。
私の毎日が変わってしまうまであと少し。
どう変わるかなんて、男爵家に生まれ令嬢とは程遠い生活を送ってきた私は、まだ知らない。




