光の精霊の祝福 2
トリス様とシェリアが仲良く庭園を走り回っている。
広大な庭園――マール公爵家の権威を表しているかのようだ。
トリス様は三ヶ月もの間、ベッドから起きられなかったとは思えないほど元気だ。
これも光の精霊の力だというのか……。
幼児同士が花咲く庭で戯れる光景は、平和の象徴にも見える。
「カナン様……どうしましょう」
「……アルフレド殿にお任せするしかない。それにこれからも、同じようなことが繰り返し起こるだろう」
「……」
公爵夫妻も幸せそうに二人の様子を見守っている。
それはそうだろう。一人息子が助かったのだから……同じ親としてそのことはとても喜ばしい。
私はドレスを着ている。
公爵夫人にいただいたものだ。
これから先は着るものにも気をつけなければいけないのだという。
――男爵家生まれで、しかも家族に疎まれていた私に、英雄の妻などという大役が務まるものだろうか。
それはそれで心配でもある。
「私に務まるでしょうか……」
「そんなに心配することはない。いざとなったら、王都を離れても妻と娘を守るくらいの甲斐性はあるつもりだ」
「……」
カナン様が残された左目を細めた。
「だが……王都に戻れば、また魔塔の連中が接触してくるだろうし、国王陛下もいろいろ言ってくるだろうし、第五王女殿下もうるさそうだし、王立魔術師団の仕事も山積みだ」
カナン様は、うんざりしたような表情を浮かべた。でも、どれも彼に全面的な非がない。彼はいろいろ抱えすぎる気がある。
「でも、隣に君がいる」
「……カナン様」
カナン様が笑った。
一緒に過ごしたあのときのように。
しかし、その笑みはすぐに隠されてしまった。公爵夫妻が近づいてくる。
浮かべられた表情は、英雄カナンとしてのものだ。
近づくことすらできず、遠目に見ていたときの……。
――今は違うのだとでも言うように手が差し伸べられた。
「一緒に歩んでほしい」
「ええ……もちろんです」
「でも、本当に? 茨の道を? 可愛く素直で女神な君に……? 何て罪深いっ……!」
「……」
カナン様の雰囲気が、暗く沈んでしまった。知ってた――彼は案外、落ち込みやすい。
「茨の道もあなたとならきっと幸せな花が咲きますわ」
「フィアーナ……」
シェリアが私たちの元に、トリス様が公爵夫妻の元に走り寄る。
シェリアは、力いっぱい私に抱きついてきた。
「ねえ、いばらにお花がいっぱい咲いたら、お父さま幸せ?」
先ほどの私の言葉が聞こえていたのだろう。
「そうね。きっと幸せになるわ」
「フィアーナ!」
「あっ」
「わかった!! シェリーに任せてねっ!!」
このあとの展開を予想したのだろう。カナン様が杖を手に慌てたような声を上げた。私も気がついたけれどもう遅い。
「マリル、おねがいっ!!」
その直後、大きな魔法陣が現れて、庭園の花がすべて満開になった。
カナン様は慌てた杖を振ったけれど――公爵夫妻の目を誤魔化せたかどうかはさだかではない。




