首根っこを取る者たち⑤…砂上のトランポリンタワー 米国編
✦首根っこを取る者たち⑤
― 『砂上のトランポリンタワー 米国編』
(水を制する者は、世界を制す)
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■ 第一章『お金の井戸』
むかしむかし、
砂漠に七色の宝石が輝く王国があった。
昼は黄金の太陽、
夜は銀の月。
王の名は――アブラハム・トランポリン。
砂の民に「Tacoトレード」を売り歩く、
不動産王だった。
王の宮殿の井戸には三つの掟が刻まれていた。
一、「お金の井戸」――飲めば富む。
二、「信仰の井戸」――祈れば救われる
(ただし宗派は選べ)。
三、「未来の井戸」――知恵を絞れば覇者となる。
民はこぞって最初の井戸へ向かった。
黒く光るその水は、液体の宝石のようだった。
「これは神の血だ!」
「いや、富の呪いだ!」
「黒の塊は……コールタール?」
砂は血で赤く染まった。
王は天を仰いで問うた。
「神よ、人はなぜ黒い水で争うのですか?」
天は静かに答えた。
「人は欲と渇きに生きる。
だが己の渇きを見つめた者だけが、
真の水を得る。」
その夜、星がひとつ落ち、
砂の上に塔が建った。
――砂上の楼閣、トランポリン・タワー。
そして人類の“水の試練”が始まった。
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■ 第二章『信仰の井戸』
時は流れ、塔はガラスとWi-Fiの都市となった。
トランポリンの声はスマホ通知になり、
真実はフェイクニュースに塗り替えられた。
東京のワンルーム。
Z世代の引きこもり、
美果はスマホを見つめていた。
ニュースが言う。
「アブラハム合意拡大、
米国主導の再建プロジェクト、総額1兆ドル!」
美果はつぶやいた。
「家に引きこもってても、未来は読める。
彼は裸の王様。
欲を隠して、祈りのふりをしてるだけ。」
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■ 第三章『未来の井戸』
その夜、スマホに通知が届く。
“ABRAHAM NET”――差出人は「アブラハム商人」。
「少女よ、砂の下に眠る水を掘れ。
強欲は捨てよ。
祈りの手で掘るのじゃ。」
画面に世界地図が浮かび、
ガザ、エルサレム、ドーハ、ニューヨーク、
そして東京が光の線で結ばれた。
「ここを真水でつなぎ……
カナダ、ロシア、グリーンランド
――氷を溶かせば、金脈が生まれる。」
美果は息をのんだ。
「日本は雨が多い。清水が流れている。
でも世界の淡水は地球全体の0.01%。
そうか!
トランポリンは、“水”で
世界を支配しようとしているのね。」
彼女はスマホで水資源株を買った。
「人間の体も70%が水。
世界も命も心も、
真水でできているのよ。」
その瞬間、画面がやさしい光に包まれた。
「色即是空、空即是色」――仏の声が響いた。
そして美果は微笑んだ。
「ひとりぼっちの待ち伏せも、
水が流れれば、
花が咲くかもしれないね。」
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■ 第四章『タワーの井戸 ― お金とAIと祈りの帰還』
神がAIとなり、祈りが金に変わった時代。
ピース・タワーの頂上で、
トランポリンはAIに命じた。
「水の取引を始めよ。
砂漠を潤すことが最大の利益だ。」
塔の下では、ガザの民が瓦礫を掘り、泥水をすすっていた。
「真水が飲みたい……。
美味しい水が飲みたい……。」
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■ 第五章『真水のバタフライ効果』
日本最西端・長崎県 樺島
67歳の老人が、
小さな鉢に水をやりながら呟いた。
「人間の体も地球も水でできとるけん。
だけど心の水が濁ると、世界も濁るたい。」
その夜、夢に阿弥陀様が現れた。
「おじいさんよ、見たかね?
お金持ちは塔を競い合うように建ててゆく。」
「見ました。
だけど、塔の頂上にあるのは鏡だけでした。
鏡って自分を見るためにあるんですよね?」
「そうじゃ。
まず強欲を捨て、心の水を清めよ。
お前さんから整えれば 、
不思議にも世界が変わる。」
「水にもバタフライ効果が
あるのですか…?」
翌朝、老人はノートを開き、書き残した。
『水をきれいにするだけで、人は再生できる。
水の流れが心をつなぎ、祈りが富を呼ぶ。
されど、欲を掘る心にも人を救う光がある。
どちらも真実じゃ。』
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■ エピローグ ― 引きこもりナイト
(現代版アラビアンナイト)
トランポリンの塔は崩れ、AIの祈りも消えた。
画面には一行だけ残った。
“Abraham Network:井戸は心の中に。”
美果はつぶやいた。
「家に引きこもるのもいい。
だけと 私は未来を読むの。
知恵を絞るの。
そして、水がきれいになれば、
世界も、私の人生も再生できる。」
彼女は、湯呑みの水を一口飲んだ。
その水は、春の朝のように冷たく澄んでいた。
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■ あとがき
「イスラムは祈りを示し、ユダヤは契約を教え、
ブッダは気づきを与えた。
そして日本の少女は、
その命を“水”のマーケットに見いだした。」
株とは、強欲の塔ではない。
それは“水の流れ”を読む修行だ。
世界の淡水は地球全体の0.01%。
そのわずかな真水を清らかに保てる人こそ、
本当の意味で“富む人”なのだ。
世界の水資源を育てる会社が、
日本にはたくさんある。
「頑張らなくていい」
「ただ 転がっているだけでもいい」
「自分の頭で考えれば、生きる知恵が浮かぶのよ」
やがて来るだろう。
水の願いが世界に届くその時が…




