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LILF(リルフ) 巡礼のマリオネッタ  作者: 祥々奈々
第一章 戦場のアバランツァ
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プレゼント

 アンバランツァ隊のリルフ達にも個性はある。

一号機ウーノから二十号機ヴェンディまで番号が名前だ。

 擬体は同一規格だが乗騎しているリルフは別個体、兄弟でもない。

 「みんなおはよう」

 大部屋のテントの下でダイニングチェアに背中を預けている。

 プロポーションの整った擬体、手足が長く胸と腰も張っている、しかし、顔は見るからに人形と分かるクオリティーでしかない、柔軟なセルロイドの肌は傷つき汚れていた。

 彼女たちには五指がない、親指とその他しかないから細かな動きが出来ない。

 創造者は担架を掴むだけしか想定しなかったのだ。

 毎朝、彼女たちの顔を拭き、傷をパテで埋めてあげる、必要なら睫毛(まつげ)を書き足し唇にも色を塗るが何色にするかは個人差があるから注意だ。

 一号機ウーノは女の子らしいピンク、二号機ドゥエはスカーレット、三号機トレはパール系、皆趣味が違う、その日の気分でも変わる。

 絵の具箱の色は増えるばかりだが表情の作れない彼女たちが喜んでいるのが分かる、元はスライム状の液体生命体なのに擬体という身体を得ると欲求が変わる、それは進化だろう。

 以前リルフ隊の整備をしていたのは創造した兵器商人の整備員、それも月一回か壊れた時にくるだけだったらしい、その時にはドロドロに汚れて関節は砕け動かず、放置されて新規入れ替えを待つばかり。

 メーカーとすれば多く売れた方が良いから余計な事はしない。

 シノが隊長となり日々の整備まで行うようになるとリルフ隊の損耗はほとんど無くなった。

 場数を踏んだリルフたちは学習し戦死を遠ざける技を覚える。

 兵器商人にとってシノは厄介者だ。

 

 話す事は出来ないが簡単な言葉の意味は理解している、人間の年齢でいえば五から六歳ほどだろうか、犬や猿よりも知能は高い。

 リルフは罪の責任を理解する、何かを傷つけることを極端に恐れる。

 超平和主義者の優しき生命体。

 

 傭兵としてアンバランツァ隊を率い始めた頃だった。

 幾人も怪我人が助けてくれと叫ぶ中、担架を持って走る、心優しきリルフは誰か一人の負傷兵を選択する事が出来ずパニックを起こし、右往左往するだけで結局誰も救えないばかりか自らも矢の前に倒れてしまっていた。

 リルフは本能的に危機を自分の身体で受けてしまう、兵士が矢を受けて倒れる事が怖いのだ、純情で幼き心が死ぬことの恐怖を遠ざける、リルフたちを殉教させる。

 シノが自分の身体を盾にする時、矢の弾道を瞬時に判断し、自らの核を避けている。

自分の命を守り救護者の命も救う事が出来なければ無意味だ。

 クソ爺ならそう言うだろう。

 しかし、哀れむことなど不敬だ、少しばかり優秀な者の(おごり)りでしかない。

 彼女たちにとって人を助けることこそ殉教(じゅんきょう)、それは誇りだ。

 それほどの殉教精神を持つリルフでもやがて個性が目覚める。

 更なる進化の過程で道は分かれていく、暴力に目覚める個体が現れる、踏まれることの(いきどお)りが怒りを生む、それも正常な進化だろう。

 それが敵対する者であれ、そのような個体が産まれなければ種の絶滅は早々に訪れる。

 苛烈な環境の中で生命は偶然を力に生き残る道を模索する、それは生命の意志。

 自分もその(うず)の中の一つ。

 

 洗濯した綺麗な白衣に着替えさせる。

 彼女たちに汚れた白衣は似合わない、その心同様に白くあってほしい。

 戦死擬体がないから補充もない、その分の予算を装備や整備に使える、彼女たちの進化は好循環を生む。

 (だま)されたとはいえ今は傭兵として戦場にいる、このリルフたちを育てるのはシノの責務、捨ててはいけない。

 素人の私が見ても戦況は不利だ。

 この丘の終末は近い。

 このリルフたちを助ける方法を見つけなければならなかった。


 「チェルヴァ、ちょっといいか?」

 天幕の外からの声、この丘で真面な人間の一人、女型というだけで人形だというのにテントの中に入ろうとはしない。

 「先生、何かご用でしょうか」

 声で分かった、シノたちが運び込んだ負傷者を治療する医師、クロド・リヴァイ・ストラトスだ。

 男爵の爵位持ちの貴族にして医師、この時代の医師は職業としての階級が低い。

 平民出身のクロド医師が爵位を得た経緯は単純だ。

 従軍していた侯爵家嫡男が交戦で大怪我をしたところを救ったのだ。

 本来なら爵位を得た今、従軍医師を続ける必要はない、それでも戦場に留まる理由をシノは知らない。

シノを人形扱いしない一人、信用して良い人間だ。

 ただ本名を知って尚、チェルヴァ(雌鹿)と呼ぶのは止めてほしいところだが。

 「昨日の今日で……いや昨夜の今朝だな、休まなくて平気か?」

 「帰ってからイエローを飲みましたから大丈夫です、もう回復済です」

 「そうか、実は青金石(ラピスラズリ)を手に入れてな」

 小瓶の中の石は青色に金箔が美しく混じる。

 「私にですか!?」

 「もちろんだ、私には必要のないものだからね」

 金髪を短く七三に分け、真っすぐな目をしたイケオジだ、声も渋い。

 「いえ、こんな高価な物頂くわけには……」

 「いいさ、金など貯めるものではない、有意義に使ってこそ生きる、この丘の女神に宝石を送る、これ以上の使い方を私は知らないな」

 「女神って、止めてください、私達はリルフです」

 「人ではないからと言うなら、女神こそ人ではないだろう、リルフの方が適役かもしれないぞ」

 「先生、そういうのを屁理屈と言うのではないですか?」

 「なんでもいいさ、僕は君たちの喜ぶ顔が見られればね、だから素直に受け取ってくれ給え」

 キザが様になるのも才能だろう。

 「ありがたく頂戴いたします」

 「相変わらず君は固いな、余程しっかりした親に育てられたと見える」

 「はい、創造主は人格者だったと思います」

 「尊敬できる親に恵まれたのは幸せだ、君は神に愛されているね」

 「そんな……」

 リルフだって照れる。

 「僕は思うのだよ、人としての理想は君たちなんじゃないかとね、本物の人間は戦争に明け暮れ人殺しばかり、なんて愚かなのか、それに引き換え君たちは戦場に居ながら命を救う、皆そんな正しさを思い出すべきなのだ」

 「どうして戦争があるのでしょうか」

 「戦争なしに人類の歴史は語れない、何時も何処かで起きている、人が集まれば必ず争いになる、遺伝子に刻まれているのじゃないかな」

 「遺伝子?」

 「神様が人間を創る時に描いた設計図みたいなものさ、君たちにもある」

 「私たちも神様が造ったの?」

 「擬体を創ったのは人間だがリルフを創ったのは神様だな」

 「先生は物知りだね」

 「ああ、彼とは友達でね、無責任な奴で困る、でもな、君たちを心配している、死んでほしくないらしい、だから無茶はするな」

 「先生……」

 「君たちが負傷しても僕には治す事が出来ない、頼んだよ、シノ・レオーネ」

 「!」


 医師が去った後のテントには陽だまりの暖かさが残っていた。


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