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LILF(リルフ) 巡礼のマリオネッタ  作者: 祥々奈々
第一章 戦場のアバランツァ
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シノの夢

 「リルフも夢を見るのかな?」

 「さあ、分からねぇな、でも可愛い寝顔じゃないか、人間の娘っこと変わらねぇ」

 「無理もない、昨晩一人で小隊長三人を探し出して持って帰ってきたらしいぞ」

 「三人って、一人はあいつだろう、薬中のレスコー少尉だろ!?」

 「マジか! あんな熊みたいなのを一人で担いで丘を越えたのか」

 「そうらしい、見ていた門番は泣いていたよ」

 「すげぇな、俺達が四人がかりでも上げられねぇだろ」

 「俺は昨日命を助けられたんだ、彼女が身代わりに重戦矢を受けて、庇ってくれなきゃ俺は死んでいた、シノは女神だ」

 「パブロ、お前惚れただろ!?」

 「なんだよ! 文句あんのか」

 「あのなぁ、リルフは人形なんだぜ、嫁さんにも出来ねぇし子供だって産めねぇ、付き合うような対象じゃないだろ」

 「関係ねぇな、惚れちまったのは理屈じゃない、明日死ぬかもしれない、告っとけば良かったなんて悔いは残したくねぇんだ!」

 「ポムロールの男なら好きな女を前に声をかけねぇなんてあり得ない、いいぜ、気に入ったぜパブロ、協力しようじゃないか」

 「理屈じゃない……か、本気なんだな」

 「おうよ、彼女は魅力的だ、それだけで十分だろ」

 「彼女、宝石を食べるって本当なのか?」

 「宝石じゃなくて鉱石だよ、水晶とか琥珀石とからしい」

 「安いもんじゃねえな」

 「調達屋の爺さんに頼めば手に入れてくれるだろ」

 「アンバランツァ隊には皆世話になっている、文句をいう奴はいねえさ」

 「カンパしてやるから上手くやれよ、パブロ」

 「ああ、恩にきるぜ、皆」

 

 人間の骨の数二百六に対して筋肉の数は実に六百四十以上あると言われる、内臓や血管の筋肉を含めると更に多くなる、シノの擬体は内臓を持たないが二十年をかけて筋膜を作り、その中にリルフ細胞を充填、神経を走らせ人間の身体を再現した。

 筋肉が出来上がるとリルフの外皮で身体を覆い皮膚を作る、人の質感に近づけるのは難しかった、元々は透明な皮膚を植物の染料を食べて濁らせる。

 それでも人形だ、人の皮膚には程遠い。

 顔の造形が最も精緻で困難だ。

 表情を作る筋肉を動かすことは最初神の領域だと思えた。

 あまりに複雑で多様だ、笑う、怒る、泣く……千変万化する感情を表す、驚くべき事に人間はそれを無意識に作っている事だ、他の生物でこれほど複雑な顔を見せる命を見たことは無い、きっと存在しない。

 やはり人間は特別だ。

 この擬体は創造主たるクソ爺の傑作、この世界に唯一無二のもの。

 この身体で人を、シノを再現する。

 マスター、クソ爺の名はアレクセイ・レオーネ。

 シノ・ククルという女性を生涯愛した男。

 彼は擬体に会う事の叶わない思い人の姿を写した。

 肺の無い擬体で声を再現する、声帯は楽器、文字に音階を付けて感情というメロディに乗せて奏でる。

 言葉の遣り取りは意志や感情を伝え合う最短の方法。

 擬体を演じる中で一番楽しい。


アレクセイが求めた最初の言葉。

 

 「ペルダンァーレ( 許す )」


 この言葉に彼は泣き崩れた、二十年の歳月はこの短い言葉の為にあったのだ。

 私たちは間に合った、彼の寿命の前に辛うじてシノ・ククルを再現した。

 役目のひとつを果たした。

 

 夢を見ていた。

 リルフだって夢を見る、その核には感情と魂が宿っているのだから。

 夢はいつでも思い出を見せる、二人で駆けた、その日々の喜びと痛みは全て愛と幸せで出来ていた。

 その愛が向かった先は本物のシノ・ククルであり、リルフの人形は影を投影したマリオネット、代替えでしかない。

 寂しく切なく、最後は私の背中で永遠の眠りについた。

 「彼女は迎えに来てくれたのかな……」

 魂を見ることは出来ない、魂は時間も距離も次元さえも超えるとクソ爺は言った、でも誰も証明できない、でも分かるという。

 「人間にしか分からないの?……」

 リルフにも魂があるのなら死んだらどうなるのだろう、私の魂は人間の魂と同じ世界に行けるだろうか。

 クソ爺の言葉を信じるなら魂は輪廻するという、今世を正しく生きたなら生まれ変われる、それが本当なら……

次は人として、クソ爺とシノの子供に生まれたい。

人間になりたいわけじゃない、父と、母と、呼んでみたい。

背中から聞こえた最後の声、掠れて弱々しく小さな声なのに、それは強く生きろと役目を終えた私の背中を押した。

夢幻泡影(むげんほうえい)、life is short 人生は(はかなく)く短い、その一瞬に正しく向き合え、逃げても、失敗しても、負けてもかまわない、ただ正しくあれと走り続けろ。

 シノ、旅に出ろ、お前の脚は特別製だ、誰にも負けない足だ。

 走り続けた先にきっと答えがある。

愛しているぞ、シノ、我が子よ。


 テントを透かして差し込む太陽の光で目覚めた、夢の終わりはいつも哀しい。

 気分と裏腹、イエローアンバーの消化が終わり液体生命にエネルギーが満ちているのが分かる。

 「父さんとは……まだ呼べないよね」

 ロッキングチェアに身体を預けて、破れた天幕から降りてくる光の糸に手をかざしてみる。

 何を目指し、何処に辿り着くのか、自分でも分からない、未だ夢の途中。

 「傷は癒えた」

 軍靴の紐を結び直し立ち上がる。


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