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LILF(リルフ) 巡礼のマリオネッタ  作者: 祥々奈々
第一章 戦場のアバランツァ
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救済

 「爆弾だとぉ? 」

 「そうです、 ダムを壊してトレンゼ川を復活させます、ウィクシーを分断するのです! 」

 「何を言っとるんじゃ、あれが本物の爆弾でもあんな小樽一つでこのダムを如何にか出来はせん」

 「全部ではありません、オーバーフローの排水口を下げるだけでいいのです、それだけで十分トレンゼ川は復活する! とレスコー少尉が仰っておられました」

 「ふーむ、まんざら嘘でもないのかもしれんな」

 「信じて貰えましたか! 」

 シノと爆薬を見比べると顎鬚をかいて頷いてみせた。

 「一時的ならメインバルブを開ければいいじゃろ、時間はかかるがハンドルを幾つか回せば済む」

 「いいえ、それでは恒久的に丘を分断することは出来ません、それに私はあの丘の戦いを止めたいだけで連邦やポムロールの民を破滅させたい訳ではないのです」

 「ほほう、リルフにしては頭が回るようじゃ、それでオーバーフロー溝か、両軍を分断させる最小限の水量という訳じゃな」

 ニヤリと笑う。

 「良かった、それなら早くここから離脱を! 」

 「よっしゃ、儂が手を貸してやるじゃ! 」

 「えっ!? 手を貸すってどういうことですか? 」

 「儂はの、このダムの石を積んだ一人じゃ、どこに臍があるか分かっとる」

 「内側から溝を崩せるのですか? 」

 「ああ、出来るとも! 案内しよう」

 思ってもみなかった出会いだ、これでシノの擬体を湖に沈めなくて済むかもしれない。

 「今すぐに頼めますか? 」

 「それで忌地から戦争がなくなるなら喜んで手を貸そう」


 ジェルパの息子でありアヴェンタの父親はポムロール側の兵士として戦争に徴兵され戻らなかった、ウィクシーとは別な戦場で命を落とした。

 「兵役を務めれば報奨金がもらえる、そうしたらこんな山の中ともサヨナラだ、アヴェンタにもっといい暮らしをさせてやれんだ、妻のように死なせたくはない」

 男の妻は流行り病、瘧((おこり)マラリア)で死んだ、やがて上の娘もやられた。

 移る事のない病なのに恐れた村の連中は上の娘をロンヒムの谷へと捨てた!

 まだ息があったのに……守れなかった。

 金さえあれば!

絶望が心を焼きジェルパたちは村を捨てて山へと逃れた。

 

 「ここに隠れておれ」

 「お爺ちゃん、気を付けてね……」

 「おうよ、お前を一人にはせん、直ぐに帰ってくるばい」

 アヴェンタを小舟に残して小さな山人は軽快な足取りで階下へと小走りに向かう、シノも小樽を抱えて後を追った。

 案内されたのはPSと呼ばれる点検口、天井裏から覗くと奥に水管を仕切る板が複数見える、水圧を分散させる横板の留め具だ。

 「その板がオーバーフロー溝の水深を調整する臍じゃ、そいつを吹き飛ばせば表の羽目板が外れる仕組みになっとる」

 「了解しました、仕掛けてきます」

 「まてまて! 素人はこれだから困る、爆圧だけでは壊せんぞ、周りに石榑を積んで破壊力を増しておくんじゃ、本当なら鉄球がいいが此処じゃ石榑だな、なるべく尖ったやつを集めろ」

 ジャルパは発破師だったのか!?

 「わっ、分かりました! 」

 狭いPSの通路の中で石榑を積んで爆薬を置く、そしてまた石榑、導火線を邪魔しないように慎重に積む。

 ここを破壊すれば水圧を受けた羽目板は折れて外れ、床が抜け落ち排水溝を奔流となって水が流れる!

 トレンゼ川がウィクシーを分断する。

 

 導火線の長さは一メートル足らず、一秒一センチの燃焼速度で一分半、着火してから爆発までの時間は僅かだ、その間に安全距離まで離脱する、ベストな状態の脚なら楽勝だ、ベストな状態なら。

 ブルーアンバーを使用したダメージが徐々に表れ始めている、出力に負けて切れた繊維の修復が始まっている、今は疼痛の痛みが明日には激痛に変わるだろう。

 覚悟しなければいけない。

 設置完了! 後は着火するだけ。

 「ジェルパさん、急ぎますので! 失礼!!」

 「何を! 」

 シノは小さな爺を脇に抱えて階段を飛ぶように上がる!

 「ひゃああっ!! 」

 人の領域では到達できない速度で景色が翔ぶ!! アヴェンタの小舟まで数秒!

 「ありがとうございました、ジェルパさん」

 「あんた本当にリルフなんじゃな! 」

 「はい」

 「そうか、爆発までの時間は短いぞ、その脚で生き残れ! 必ずだぞ」

 「お任せてください、必ず!! 」

 「期待しとるぞ! 馬鹿な息子夫婦と孫の魂を救ってくれ」

 グンッ 湖面へと二人が乗った船を押し出して一度だけ手を振った、直ぐに向き直り再びダムの通路へと姿を消した。

 孫娘を爆発に巻き込まないように老人は小舟のオールを力いっぱい漕いでダムの擁壁から離れていった。


 ようやくダム擁壁の通路に辿り着いた。

 奴からどれくらい遅れただろう、今この瞬間にも爆破されてもおかしくはない。

 心臓が早鐘を打っている、頭はリルフだが身体は人間の生理反応に逆らう事は出来ない。

 離脱するなら今しかない、これ以上進んではいけないと本能がブレーキを踏んでいる、しかし雌鹿の跳躍とダチョウの疾走を見せた女型擬体に抱いた興味がアクセルを踏み込んでいる。

 模した人間をも遥かに凌駕する能力、嫉妬した、自分も手に入れたい、誰にも踏み付けられない力、どうやって手に入れた!?

 それを知りたかった。

 暗い通路には誰も居ない、警備兵はどうした? 積もった埃は無人であった時間を物語る。

 「不用心なのか、臆病なのか……」

 ガタッ シューッ 何かの音が聞こえた、奴か!?

 バンッ ダダダッ 暗い通路の脇から白い影が飛び出してきた!!

 やはりいた! ポムロールのリルフだ!!

 反対方向へと猛然と走り出した、逃げるつもりか!

 「待て!貴様何をするつもりだ!! 」

 ギギッ 女型が急ブレーキをかけて振り返った、顔色の変わらない肌が青くなった。

 「逃げて!!」

 「逃がすか!!」

 握った短剣を振り上げて女型に向かって走る! 女型は視線を右左に泳がせている、何かを迷っていた、チャンスだ。

 狙うべき核は何処だ!? やはり頭か? それとも心臓か?

「来ないで!危ない!! 」

 また叫んだ、何を言っているのか必死の顔、黒緑の髪が翻った! 反転してこっちに来る、やるつもりだな!? 望むところだ!

 ババッ 加速! 白衣が残像を残して瞬間の加速!

 「はっ、速ッ!? 」

 女型が手を伸ばして覆い被さる様に床を蹴った。

 ドォッ ガガーンッ

 床下から地響きのような衝撃と爆発音、グラッと足元の接地感が消えた!

 仕掛けた小樽爆弾の爆発、ジャスパの狙い通り羽目板は外れ、オーバーフローの溝を破壊した!

 カバッンッ ガラガラッ 足元の床が崩壊する!!

 ドスッ ダガーソードが女型の胸に深々と突き刺さる、核に刃が届いた感触!

 しかし! セルピエの脚は体重を支える地を失っていた、一瞬の浮遊感!!

 そして墜落の感覚に背筋が凍る!

 「おおっ!! 」

 女型はその胸にダガーソードを呑んだまま崩れていない石床に着地すると落ちかけたセルピエの袖を握り、身体を入れ替えるように持ち上げながら回転した勢いでセルピエを床に放り投げた!

 ドッ ゴロゴロと転がりながらセルピエは何が起きたか分からずにいた、自分の真下で崩れた床、真っ黒な水が見えた、落ちたと思った。

 女型の核に触れた感触が残っている……何も握っていない掌を見つめた、額を汗が一筋伝う。

 「はっ!? 」

 女型がいない!! 慌てて崩れた床の下を除いても黒い水は轟音と共にその勢いを増していく、湖面に浮いていた流木が軋みぶつかりながら激流と共に流れ去っていく。

 女型が叫んだ言葉、逃げて、この事だったと理解した。

 「俺を助けたのか!? 」

 益々黒く太くなっていく滝と流れ落ちる水をセルピエは呆然と見つめていた。


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