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LILF(リルフ) 巡礼のマリオネッタ  作者: 祥々奈々
第一章 戦場のアバランツァ
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丘の上の白衣

 「いいか、もう一度手筈(てはず)を確認するぞ」

 気弱な熊が厳しい顔で皆の中央に立った。

 「まずパブロ隊が大門の上部石積みを爆破して落とす! それで騎馬は城内に入れない、侵入してくるのを歩兵だけに限定して残存兵力で迎撃する」

 「いいぜ、爆薬は仕込んだ、後は導火線を走らせるだけだ」

 「次にシノの援護に煙幕を張る、油樽に煙幕火薬を仕込んで丘を転がすのだ、クロド先生、準備はいいですか」

 「任せてくれ、ありったけを仕込んだぞ」

 「そしてシノ、重要な部分をお前ひとりに背負わせてしまう、許してくれ」

 「かまいません、私の擬体は特別製です、走る事では負けません」

 「ダムの水門は三か所、狙うは中央の水門だが解放水門は壁の内側、一度最上部まで上がり作業用の扉から中に入るしかない、恐らく警備が出てくる」

 「必要であれば排除するしかない、出来るか?シノ」

 リルフは敵味方関係なく人を傷つけるのを本能的には出来ない、その一線を越えなければならない。

 「殺すことは出来ないと思う、でも……」

 シノはもうひとつ、秘密を見せた。

 「あれっ、どうなっている、何処から出した!?」

 「手品みたいでしょ、創造主が最悪の場合に備えてくれた、切れはしないけれど大剣と打ち合っても決して折れない」

 「何で出来ているのだ? 金属ではないな」

 「骨だよ、私の擬体のフレームと同様の物らしいけど詳しくは分からない、でもこれで打たれたら死ぬほど痛いらしいよ」

 ドラゴンの骨だと言っても誰も信じない。

 「お前の脚が頼りだ、敵を振り切って水門を爆破してくれ! 」

 「任せてください、やり遂げます」

 「全員全力でシノの援護だ、この丘さえ無事に駆け降りる事が出来れば……チェルヴァの脚なら振り切れる」

 フォクシーの丘の上流部、ラライダムの中央水門を爆破、かつてのトレンゼ川を復活させる、再びフォクシーの丘を連邦とポムロールに分断させるのが気弱な熊レスコー少尉の作戦だ。


 騎馬が突破を試みたが白衣の女型リルフの自爆攻撃に晒されて進軍出来ずにいた。

 今も何度目かの突破を試みていた、すかさず大門の隙間から白衣が飛び出してくる、早い! 援護の矢を数本受けても止まらない!

 騎馬の集団に向かって飛び掛かる、騎馬兵士の一人に抱き着くと躊躇(ちゅうちょ)することなくスイッチを噛む!

 カッ 閃光(せんこう)! ガバァアーンッ 次いで轟音!

 周囲の騎馬も巻き込んで二十キロ炸薬の爆発!!

 バラバラになった破片が飛び散った。

 「一度引くぞ!これでは何騎送っても無駄だ」

 「リルフの特攻だと!あと何人いるのだ!?」

 

 「勢いを止めらたな、一気呵成にとはいかないようだ」

 閣下と呼ばれていたのは連邦陸軍ガイル・ラ・エンツァ少将、実質的な陸軍の支配者だ。

 「あれは……リルフです、この丘の指揮官は無能なようだ、あんな動きが出来る人型擬体、いったいどれほどの訓練を要したのか、死ぬことを前提とした運用などあり得ない」

 丘の上を見上げてリルフに自爆を命じた指揮官を蔑んだ。

 「だが我が軍に一定の効果を与えたようだ、我が軍は騎馬による短期決戦から通常歩兵による突破に切り替えるだろう」

 「そうですね、ただこれだけでは時間を数刻引き延ばしただけで何も変わらない、つまらない悪あがきでしか……」

 バガァッンッ ガラガラッ ゴッシャアッンッ 

 大門の上の石積みが爆破されて落ちた! 濛々と瓦礫(がれき)砂塵(さじん)が舞う。

 「おやっ!? 作戦が変わったようです……これは指揮官が違う!? 」

 「ありえるな、ポムロールの貴族どもは玉無しだ、既に丘を捨てたかもしれん、このアイデアは後日の運用など考えない平民のもの、やるなぁ」

 「初めからこうすれば良かったのに……才覚を持たぬ者がリーダーになってはいけないという見本のようだ、どうします閣下、手強くなるかもしれませんよ」

 不利になる可能性を見出してもクレディの顔は一転嬉しそうに見える。

 「これは戦争だ、殺し合いをしているのに自軍に被害がない事などありはしない、ここの指揮官に玉はある、見ていたまえ」

 「敵の策がこれで終わればですが、面白い、どう出てくるか見てみましょう」

 戦車ラーニャ・カリエテの砲身を城壁に向けたまま待機させるが弾は装填(そうてん)させない、撤退にも攻撃にも踏み出せるニュートラルな立ち位置を保たせた。


 騎馬が下がり、歩兵が盾隊を前に梯子や弓の小隊が横に広く展開して攻撃の合図を待っている、戦車による砲撃で破壊した大門の隙間は爆破されて落ちた石積みで塞がれてしまっている、城壁を突破するためには梯子をかけて登るのが早い。

 騎馬は諦めたのか戦局の様子見に後退した。

 砲撃で崩された城壁は低くなったうえ迎撃の足場を失い手薄だ、攻撃有利と見た歩兵勢の意気が上がる。

 ジリジリと距離を詰める、白衣のリルフは出てこない。

 「おい!城壁の上、動きがあるぞ! 」

 モクモクと煙幕が上がりだす、次の瞬間、煙は丘に落ちて走り出した、木樽だ!

 「爆弾か!? 避けろ! 」

 ガランッゴロンッと坂で勢いを増して転げ落ちてくる。

 歩兵の列を通り過ぎても爆発はしない、煙を吹きながら転がっていく。

 樽は次々に落ちると丘を白く染めていく。

 「なんだ!? 煙幕だけ? 気でも違ったのか 」

 守る側からは逆効果だ、自分で自分の首を絞める様な作戦に指揮官は苦笑いした。

 ザシャッ ダダッ ダッ ダッ ダダダッ

 白い靄の中に跳ねる様な足音だけが聞こえた。

 「ウオッ? 」

バン バンッ バーンッ

 白い影が頭の上を跳ねていった!! あまりに速く高い、人間だとは到底思えなかった、野生の鹿でも紛れ込んだのか?

 振り向いた白い視界を駆け降りていくのは……二本足の白い服!!

 「なっ、人型リルフ!!? 」

 「しまった、本体に自爆攻撃を仕掛けるつもりか!? 」


 バンッ バンッ ババンッ

 バオッ!!

 煙幕樽最後の煙からシノは騎馬隊の前に踊り出た!!


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