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LILF(リルフ) 巡礼のマリオネッタ  作者: 祥々奈々
第一章 戦場のアバランツァ
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別命

 「本気か?レスコー少尉! 」

 「気が違ったとしか思えん、代償がでかすぎるだろ!」

 軍曹たちは青ざめ思った、やはりレスコーは薬物中毒者だ、真面じゃない。

 「事後の責任は私が持つ、薬でイカれたレスコー・バルバラが命令したと証言してくれて構わない、頼む、これしかない! 」

 レスコー少尉が、貴族が平民に頭を下げた。

 「私はいい案だと思うね、忌地を元に返すだけだ」

 クロド医師は顎に手を当てて感心した様子で頷いた。

 「元々この地に価値はない、ゼロだ、このままではそのゼロを奪い合い多くの命を落としたうえ領地まで差し出すことになる!マイナスだ、優先すべきは明確だろ!」

 「むうっ、それはそうだが……」

 「国を跨る惨事となるかもしれない、我々だけで決断して良いのか!? 」

「悪くすればまた疫病が発生するぞ、本末転倒になりかねない」

 「そんなことになったら……」

 「そもそも、どうやって其処まで行く? 騎馬もいる敵軍の真ん中を突破しなきゃならない、こっちには馬さえないのだぞ」

 弱気になるのも無理はない作戦だ、しかし熟考を重ねる暇はない。

 重い空気を破ったのはシノだった。

 「私がやるわ、いえ、私にしか出来ないと思う」

 「シノ! お前は駄目だ、その役は俺がやる! 」

 パブロがシノの両肩を掴んで否定した。

 「ありがとうパブロ、気持ちは嬉しい、でも平気よ、私の足は特別製なの、伊達に大きいだけじゃないわ」

 自虐気味に笑って見下ろしたシノの足サイズは三十センチ、幅が細く長い、土踏まずのアーチが高い、爪先で立つと鹿なみに中足骨が長いのが分かる、戦場でも高さ十センチ以上のヒールには意味がある、柔軟にして高反発なドラゴン・フレームが人間を越えたスピードを生む。

 「迷っている暇はないわ、決断しないと! 」

 「そうだ、今意味ある死を選ぶか、先伸ばして意味の無い死を選ぶかだ! 」


 ドオォォンッ 爆発音!! 攻城砲の着弾音とは違う!?

 「また砲撃が始まったのか!? 」

 「大門の方から聞こえたぞ、砲弾の種類が変わったのか!? 」

 「自軍の騎馬に向けて爆発弾を放つ愚か者はいない、何か別な作戦か!?」


 ドオォォンッ またも爆発音!


 ダダダッ バサッ バタバタと慌てた兵士が飛び込んでくる!

 「軍曹! 軍曹! 来てくれ、アンバランツァ隊が! あっ!? チェルヴァ!ここに居たのか!」

 「何!? アンバランツァ隊がどうしたの?」

 嫌な予感。

 「とにかく来い、彼女たちを止めてくれ!」

バガーンッ ドゴーンッ その間も腹に響く爆発音は続く!

 切迫した様子に全員が大門へと走った、そこで目にしたのは……


 崩れた大門の隙間から外の様子を伺うアンバランツァ隊の二人のリルフだった。

 「何をしているの!?」

 リルフは脇に何かを抱えている、五リットルほど木樽、ワインのはずはない!

 爆薬だ!!

 ガガガガッ 敵の騎馬が進軍してくる蹄の音、白いナース服が瓦礫の影から身を翻してその前に身を晒し突進していく!

 僅かに見えた横顔、ピンクとスカーレットの唇は一号機ウーノと二号機ドゥエだ。

 「駄目! 行かないで!! ウーノ!ドゥエ!!」

 目的は明白だった、アンバランツァ隊にはシノの知らない命令が組み込まれていた、城壁が存続に関わる危機にさらされた時、敵に対して最も確実で有効な手段で防衛活動を行う。

 敵脅威に対する特攻自爆攻撃だ!

 「ウーノッ!!」「ドゥーエェェッ!!」

 間に合わないと知っていて足を止められない、伸ばした手を戻せない。

 ドドオォッオォンッ 爆発音が重なる、敵の悲鳴と馬の嘶きが響く。

 爆炎が城壁の上まで立ち昇り破片がパラパラと落ちてくる。

 「ああっ……なんで……」

 ガクッ シノの膝が折れて倒れ込むように両手を地に付けた、悔しさに核が震える。

 カラッカランッ その前に半分に割れた面が落ちてくる、炙られて焦げた面の唇はピンク色を残していた。

 「ウーノ……」

 臆病で大人しい、それでいて世話焼きだった、不器用なグローブで仲間の髪に櫛を入れ汚れた靴を拭いていたりしていた姿が浮かぶ。

 動くとのないピンクの唇、どんなに怖かっただろうか。

 リルフは創造主の命令には背けないのではなく背かない、たとえ自死の命令であっても。

 顔を上げて周りを見回してもアンバランツァの白いナース服は見えない。

 「全員逝ってしまったの!? そんな……」

 城壁の外には幾筋もの煙が上がっている、それはきっと命の終わりを告げる一時の墓標、同じ姿でも皆違う個性を持った妹たち。

 自分が居れば、こんな最後を選択させなかった、絶望と喪失感が心を埋めても涙は流れない、その機能は備わっていない。

 核が割れてしまいそうだ、人が悲しくて泣くのは心が壊れないようにする防御本能なのだ、泣けないリルフはどうすればいい。

 「シノ……」

 肩に置かれたパブロの手が救いになる、無駄には出来ない、守れなかった自分を責めて鞭打つことは後だ。

一度きつく目を閉じて振り切るように立ち上がる。

 「大丈夫! 走れるわ」


 破壊された大門の隙間から覗くと騎馬隊は後退したところで様子を伺っているようだ、アンバランツァ隊の特攻自爆攻撃が騎馬隊の勢いを挫き押し止めた。

 バラバラになった騎馬の残骸と白い破片が散らばっている、凄惨な戦場は見慣れているはずなのに目を背けずにはいられなかった。

 「シノ、本当に平気か? 無理してお前が行くことはないんだ、今からでも……」

 「大丈夫! 私は走る!!」

 パブロの言葉を遮りシノは靴の踵を取り外す、ヒール部分を取り去ると自然に踵が中に浮いて爪先立ちとなる。

 雌鹿の脚だ。

 「作戦どおり大門の爆破をお願い、皆の死を無駄にはしないで、パブロたちは生き残らなきゃいけない」

 「また会えるよな」

 「ええ必ず、でも……もしも私が帰れなかったならリルフたちを埋葬してあげてほしい、お願いします」

 「ああ分かった、必ず戻れ、一緒に送ってやろう、シノが施主だ」

 パブロは丁寧にウーノの面を拾い胸にしまった。


 意図せず作られた連邦軍の隙間、レスコー少尉のイカレた作戦が二人を分けた。


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