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LILF(リルフ) 巡礼のマリオネッタ  作者: 祥々奈々
第一章 戦場のアバランツァ
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誰が為の戦争

 「うちの小隊長を見なかったか? 」

 「お前の隊もか? こっちもだ、どうなっている!? 」

 城壁の上は怒号と悲鳴が交錯している、それを切り裂く様に蜘蛛型戦車が放った榴弾が頭上を掠める!

バヒャッシュオッ

 運悪く近くにいた兵士の頭が パンッ 破裂音と共に消失した!

 「ひゃぁああっ! 」

 目の前で同僚の頭が飛び散る様を見せられて絶叫をあげる。

 「頭を下げろ! 近くを通っただけで持っていかれるぞ!! 」

 榴弾には城壁を崩す破壊力はない、狙いは人だ、一人でも殺せばその恐怖は伝染し兵たちから戦意を奪う、空気を裂く飛翔音が響く限り反撃に立ち上がれる者はいなくなる。

 「どうすりゃいいのだ!? 小隊長は何処へ行ったんだぁー!! 」

 それは絶望に似た叫び、指揮官たる貴族がどうするかは皆見当がついている。

 見捨てられた、と。

 「くそうっ……」

 阿鼻叫喚の中で負傷兵を担架に収容して運んでいる、アバランツァ隊のリルフ達が白いナース服に血の染みを作って城壁の上を駆けている。

 誰に命令された訳でもなく自分たちの任務だと疑わない。

 ダッダッダッ バキャッ ザシャアッ

 「!!」

 十号機ドゥエーチに榴弾が命中する!上半身が粉々になりながら壁の内側に落下していく、助からない。

 バディの十一号はそれでも負傷兵を運ぼうと藻掻く、同じくバディを失った九号ノーヴェが担架に駆け寄って持ち上げ走り出す。

 アバランツァ隊はその数を半数まで減らしていた。

 シノが指揮をとらないリルフたちは危険性を認知しても命令を第一優先に素直に行動してしまう。

 そのリルフたちの動きが止まった、敵の騎馬隊が視線の直ぐ先に迫っていた。

 榴弾による囮攻撃で守備隊を城壁の上に釘付けにして、別働の騎馬隊が破られた大門からの突破を狙う!

 分断された大門の守りは薄い!

 リルフたちは担架をそっと降ろした。

 「お……ど、どうした? 」

 呻く様に伸ばした兵士の手をグローブの手が握った、まるで御免なさいというようにコクリと頭を下げた。

 動ける全機が大門の方向へと走っていった。

 「なにを……」

 負傷兵はその後ろ姿を見送る事しか出来なかった。


 指揮官たちの気配を探りながらシノとパブロは陣地内へと入った、人が少ない、近道に馬小屋の中を通ると一頭もいない。

 「やっぱりだ! 貴族どもはもう退却した後だ! 」

 「!? 」

 指揮官が兵士を見捨てる、そんな事があるのかと信じられなかった。

 半信半疑で指揮所へと二人で向かう、用心して天幕の裏から様子を伺うと聞きなれた声だ。


 「馬は一頭も残っていない、貴族共下士官が全部持っていった 」

 「ドクター、あんたは行かなかったのか? 」

 「僕は厄介者だからね、事前の話も来なかったな 」

 嘘だった、承知の上残っていた。

 「俺達も逃げよう!大門が破られた、騎馬が中に入ってきたら終わりだ」

 「おまけに、あの大砲、勝負にならない、隊の連中を無駄死にさせられない」

 「そうだそうだ! 俺達だけ戦う必要ない、俺は降りる! 」

 「アホウ! 馬もなく何処へ逃げると言うのだ! あっという間に追撃されて矢の的にされるのがオチだぞ!? 」

 議論は平行線だ、誰しも死にたくないのは一緒、残してきた家族もいる、簡単に自滅の道は選べない。

 

 どうやら本当に指揮官たちはいないようだ、二人は天幕会議に参加すべく正面に回ると入口に大きな男が中の様子を伺っていた。

 その様子は気弱そうに背中を丸めて入るかを迷っている。

 「あなたはレスコー少尉!」

 「!? 」

 「チェルヴァ!? 何故ここにいる? 逃げなかったのか! 」

 「レスコー少尉こそ貴族たちは皆逃げたんじゃないのかよ!」

 パブロの額には青筋が浮き出て、今にも噛みつきそうな勢いだ。

 「ああ、たぶん僕と医師のクロド先生以外は既に此処を捨てて脱出したよ」

 返したレスコーの声は消え入りそうだ。

 「少尉は戦うお積りなのですか? 」

 「僕に……帰るべき家はない、親父から勘当されているから、いや、僕の話などどうでいい、チェルヴァ、君は傭兵だ、もうここに居る必要はない、直ぐにここを離れろ! 君の足なら逃げられる」

 気弱な熊が急に吠えた。

 「無駄だよ少尉、説得なら俺もした、だがこいつは逃げないそうだ」

 「何故? そんな義理はないだろう、むしろ恨んでいいはずだ!」

 「恨んでなどいません、自滅の道は間違いと知っています、でも自分の生命だけを第一優先とするのが正しいとも教えられていません、この状況で逃げることは私のマスター・オリジンに反します」

 「君は……」

 バサッ 話し声が聞こえたのだろう、中から天幕の入口が開かれた。

 「やあ、チェルヴァ、やっぱり君か、レスコー少尉とパブロ君も入り給え」

 「クロド先生」

 三人はクロド医師に招かれて天幕の中に入った、そこに居たのは小隊の軍曹十人程、議論の最中だった顔は血走り浮足立っているように見える。

 冷静を保っているのはクロド医師くらいだ。

 「チェルヴァ……今の話は本当か、お前は残るのか? 」

 「負傷者がいるところが私の戦場ですから」

 「二人は何故スブ濡れなんだ? 」

 「廃墟から迂回してゴルジュ帯の裏道をきた、シノがそのつもりなら其処で逃げられただろう、でも彼女は逃げなかった、傭兵が逃げないのに俺達が逃げるのか? これは俺達の戦争だろ、中央に搾取されてばかりに嫌気がさして決起したんじゃないのか! 」

 新兵のパブロの訴えは軍曹たちに響いたか!?

 「諸君、私からもいいかな」

 クロド医師が手を上げる。

 「此処を抜かれれば諸君たちの故郷は直ぐそこだ、考えてほしい、残された女子供はどうなる? 答えは簡単だ、奴隷にされるか、追われて野垂れ死ぬか、待ち受けるのは悲惨な未来、起こしてしまった戦争を治める手段を我々は持たない……ならばもう丘の向こうを取ることは必要ない、この地さえ守れば良いじゃないか」

 「先生、そんなことを言っても現に大門は破られ、騎馬が攻め入ってくるのは時間の問題だ、どうしようがある! 」

 「そうだ、無理な話だ、戦力差があり過ぎる、後退して隊を立て直すべきだ」

 「立て直すって? そんな戦力どこにある、元々ジリ貧な上に今も城壁の守備隊は減り続けているのだぞ! 」

 「聞いてくれ、僕に考えがある!」


 議論にピリオドを打ったのは、薬中少尉レスコーだ。


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